↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
35/37

第35話 中庭の告白

 克己は由佳を誘って、病院の中庭に出た。晩秋の日差しが強く、遠くで風に揺れる木々の葉が音を立てていた。


「誠一さんとの離婚が、正式にまとまった」

 克己は静かに切り出した。


「手続きはすべて終了している。財産分与も、君の要求をほぼ通した」


 由佳は小さく頷いた。予想通りの結果だった。感情は動かなかった。


「ところで、先日の話だ」

 克己は少し間を置いてから続けた。


「プロポーズの返事を聞かせてもらえないか?」


 由佳は視線を足元に落とした。しばらく沈黙が続いた。


「できないわ」

 由佳ははっきりと拒否をした。


「理由は、女王様に仕えなければならないから。由美を守る役割を私が捨てるわけにはいかない」


「それは……」


「以前、由美と孝幸の結婚を邪魔したの。その償いよ。私は自分のしたことを、きちんと引き受けなければならない」


 克己は由佳の横顔を見つめた。彼女の表情は、いつものように冷静だった。だが、その冷静さの奥に、わずかな疲労が滲んでいるのを克己は見逃さなかった。


「由佳さん、君が幸せになってはいけない理由はない」


 克己の声は静かに、しかし力強く響いた。


「償いは償いでいい。だが、君自身を縛り続ける必要はない」


「本当に好きでない相手と結婚すれば、いずれ後悔するわ」


 由佳はゆっくりと顔を上げた。

「私は、自分に嘘をつかないと誓ったの。もう、計算だけで生きるのはやめる」


「では、本当に好きな人とは誰なんだ」

 克己は真っ直ぐに尋ねた。


 由佳は答えなかった。視線を逸らし、遠くの木々を見つめたまま動かなかった。


 克己は、その沈黙を静かに受け止めた。そして、得心したようにゆっくり由佳の顔を見た。


「……わかった」

 声は低く、どこか諦めを含んでいた。


「すべてに合点がいったよ」


 しかし克己はすぐに顔を上げた。目には静かな決意が宿っていた。


「だが、ぼくはあきらめない。ぼくは待つよ。いつかは君が、ぼくのことを好きになってくれるはずだ」


 克己は力強く由佳を見つめた。その視線には計算も策略もなかった。ただ、まっすぐな意志だけがあった。


 由佳はその視線に耐えきれなくなった。胸の奥で、何かが崩れる音がした。


「……!」


 由佳は突然、声を押し殺すように泣き叫んだ。そして、克己に強く抱きついた。肩を震わせ、克己の胸に顔を埋めた。涙が止めどなく溢れていた。


 克己は由佳の細い体を静かに抱き返した。言葉は出なかった。ただ、その震えが収まるまで動かずに支えていた。


 冷たい風が中庭を吹き抜けていった。


読んでくださりありがとうございます。よろしければリアクションをクリックしていただけないでしょうか? たった一つの反応でも作者にとっては心の支えになります。


「おもしろい」とか「よかった」という一言でも感想を残していただけると嬉しいです。コメントは今後の創作にフィードバックさせていただきます。さらに☆のクリックをご検討いただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。