第25話 再びの取引
神崎建設不動産は、不景気の波に飲み込まれていた。取引先の倒産が相次ぎ、資金繰りが悪化し、会社は破綻寸前の状況に追い込まれていた。父の康介はパニックに陥り、母の澄子はただうろたえるばかりだった。
由佳はそんな両親に代わって、経営権を受け継いだ。彼女は冷静に資料を読み込み、取引先との交渉を重ね、リストラや資産整理を進めていった。夜遅くまで事務所に残り、数字と向き合う日々が続いた。
そんな折、岡山家の御曹司が再び神崎家に近づいてきた。有名な女優との浮名を流していた彼は、恋に破れて疲れ果て、従順で控えめな由美との再婚を望んだ。
「由美さえ戻ってくれれば、経済的な支援は惜しまない」
御曹司は由佳の前に座り、甘い言葉を並べた。由佳は彼の顔を静かに見つめた。かつて由美を苦しめた男が、今は経済的支援を餌に再び近づいてくる。その浅はかさが、由佳にははっきりと見えていた。
由美は強く拒否した。
「もうあの人とは……絶対に嫌」
由美の声は震えていた。過去の暴力と屈辱が、鮮やかに蘇っているようだった。しかし資金繰りに万策尽きた由佳は、妹を説得した。
「由美、今は会社の存続が最優先よ。あの人が支援してくれれば、従業員も守れる。あなたが我慢してくれれば……」
由佳の声は低く、強い口調だった。胸の奥では、由美を再び不幸な結婚に突き落とすことへの罪悪感が疼いていた。しかし由佳はそれを押し殺した。会社を守るため、そして由美を守るため——そう自分に言い聞かせた。
由美は涙を浮かべながらも、姉の言葉に従った。再婚は静かに行われ、岡山家からの資金が神崎建設に流れ込んだ。
由佳は結婚式の後、一人事務所の窓辺に立っていた。妹が再び不幸な結婚を選んだこと。それを自分が強いたこと。胸の奥で、孝幸の顔がふと浮かんだ。あの男を排除したのも、結局は由美を守るためだったはずだ。しかし今、由佳は自分が本当に何を守ろうとしていたのか、静かに問いかけ始めていた。
喉奥からあふれる不快感で、胸の奥が締め付けられるように苦しかった。




