第23話 絆
由佳が仕組んだ工作は、着実に効果を発揮した。元取引先の女性社員が、孝幸に対する強制わいせつを主張し始めた。証拠とされるものも用意されており、孝幸の周囲に疑いの目が向けられるようになった。
孝幸は訴えられる前に、周囲から「認めろ」と繰り返し圧力をかけられた。しかし彼は頑なに首を振り続けた。自分が何もしていないことを、ただ由美にだけ信じてほしかった。
由美は最初、孝幸の無実を信じようとした。しかし、次第に届く情報や周囲の言葉に揺さぶられ、徐々に孝幸を疑い始めた。咲奈が孝幸を避けるようになったことも、由美の心をさらに揺るがせた。
ある夜、由美は孝幸を正面から問い詰めた。
「本当に何もしていないの?」
孝幸は必死に首を振った。
「俺は絶対にそんなことしてない。由美、信じてくれ!」
しかし由美の目は、もう孝幸を信じていなかった。夫の無実を訴える声が、彼女の耳にはただの言い訳のように聞こえた。
「もういいわ。出て行って」
由美の声は冷たく、震えていた。孝幸は由美の顔をまじまじと見つめた。彼女の目には、失望と恐怖、そして決定的な不信が浮かんでいた。
「由美、俺は本当に何もしてない。誰かに嵌められたんだ。信じてくれ」
由美は静かに首を横に振った。
「もう信じられない。咲奈も怖がってる。出て行って」
孝幸は由美の目を見つめたまま、しばらく言葉を失った。彼女の瞳には、もう優しさも、信じる光も残っていなかった。
孝幸は静かに家を出ていった。玄関のドアが閉まる音が、部屋に小さく響いた。
由美は一人で立ち尽くし、床に崩れ落ちるように座り込んだ。由美は孝幸が去った後、静かに由佳に電話をかけた。
「姉さん……ありがとう。孝幸は結局、罪を認めて出て行った。訴えられたくなかったんでしょう」
由美の声には、わずかな安堵と、由佳への感謝が混じっていた。由佳は受話器の向こうで、静かに目を閉じた。由美は孝幸が「事実を認めて、訴えられたくないから出て行った」と信じていた。そしてそのすべてを、由佳のおかげだと考えていた。
由佳は電話を切った後、ゆっくりと息を吐いた。計画は成功した。由美は孝幸を完全に追い出し、由佳に感謝さえしていた。しかし由佳の胸の奥では、孝幸が由美に信じてもらえずに絶望して去ったという事実が、重くのしかかっていた。
由佳は妹を守った。だがその代償として、孝幸を完全に失ったという感覚が、彼女の胸に残った。
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