第22話 罠
由美と孝幸の再婚後、由佳は妹の幸せそうな様子を、静かに見つめていた。由美は孝幸のそばで穏やかな笑みを浮かべ、咲奈も孝幸にべったりと懐いている。家族写真のような光景が、由佳の胸をざわつかせた。
由佳はそれを許せなかった。
孝幸が由美の隣に座り、優しい声で話しかける姿を見るたび、由佳の胸の奥で抑えていた感情が疼いた。あの男が由美を選んだこと。そして由美が本当に幸せそうにしていること。それが由佳には耐えがたいものだった。
由佳は咲奈に対して、徐々に言葉を重ね始めた。
「咲奈、お父さんはね、昔は少し悪い人だったのよ」
咲奈はまだ幼かったが、由佳の言葉を真剣に聞いていた。由佳は妹の娘に、孝幸の過去や性格について、貶める話を少しずつ植え付けていった。孝幸が由美を困らせていたこと、信用できない男であること。子供心に染み込むように、静かに、しかし確実に。
咲奈は次第に孝幸を避けるようになり、由佳のそばにいることを好むようになった。由佳はそれを見て、わずかな達成感を覚えながらも、胸の奥で自分の行いを冷静に分析していた。
しかし、それだけでは足りない。由佳は本格的に計画を練り始めた。孝幸を由美の側から完全に排除する。そのためには、由美が孝幸を心から嫌うような状況を作り出さなければならない。由佳は元取引先の女性社員に接触し、静かに話を進めた。証拠を捏造し、孝幸に強制わいせつ罪を着せる工作である。女性社員には金銭を渡し、協力させることに成功した。
計画は着々と進んでいた。由佳は克己の事務所にも連絡を取った。克己は大学卒業後の不倫事件で一時的に失業していたが、親戚の政治家によるとりなしがあり、徐々に復帰しつつあった。由佳は利益相反を避けるため、別の弁護士に相談する形を取りながら、克己にも間接的に助言を求めた。
「由美を守るためには、多少の犠牲は仕方ない」
由佳は一人でそう呟いた。孝幸に対する不信感と、抑えきれずにいる好意が、複雑に絡み合っていた。由美を幸せにしている孝幸を、許すことができなかった。自分が孝幸を好きだったという事実を、由佳はまだ誰にも、時には自分自身にも、はっきりと認めていなかった。
しかし、計画はもう動き始めていた。
由佳は静かに、孝幸を追い出すための最後の準備を進めていた。
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