第21話 再会
由美の離婚は、静かに行われた。夫である岡山家の御曹司は、既に由美に興味を失っており、離婚協議は比較的早くまとまった。由美は実家に戻り、しばらくの間、再び部屋に引きこもる日々が続いた。
しかし、咲奈の存在が由美を少しずつ外へと押し出していった。娘を抱いて散歩をするようになり、徐々に人との会話も増えていった。由美はゆっくりとではあるが、引きこもりから回復の兆しを見せ始めていた。
ある秋の午後、由美は久しぶりに大学時代の同窓会に出席した。そこに、昔のサークル仲間である風間孝幸がいた。孝幸は大学卒業後もピアノを続け、音楽関係の仕事に就いていた。変わらぬ穏やかな笑顔と、静かな物腰は、当時とほとんど変わっていなかった。
再会した二人は、しばらくの間、昔の話をした。由美は結婚生活の苦しみを少しだけ打ち明け、孝幸は静かに耳を傾けた。孝幸は由美の話を否定も同情もせず、ただ丁寧に受け止めた。その態度が、由美の心にわずかな温かさを与えた。
それから数ヶ月後、由美と孝幸は再婚した。由美は孝幸の優しさと、安定した生活に惹かれていた。孝幸もまた、由美の純粋さに惹かれ、娘の咲奈の存在を受け入れる覚悟を持っていた。二人の結婚は、周囲からは「再出発」として祝福された。
しかし由佳は、強く反対した。
「どうしてあの男なの。由美、よく考えて」
由佳は実家のリビングで由美を正面から見つめた。声は低く抑えられていたが、どこか熱を帯びていた。由美は静かに微笑んだ。
「姉さん、孝幸さんは優しい人よ。前のようにはならないと思う」
「優しいかどうかなんて、結婚してみなければわからないわ」
由佳は苛立ちを隠しきれずに言った。孝幸に対する不信感は、大学時代から変わっていなかった。あの男が由美の近くにいること自体が、由佳には耐えがたいことだった。
しかしその言葉の裏で、由佳は自分でもはっきりと自覚していることがあった。孝幸の静かな横顔や、ピアノを弾く時の真剣な表情が、なぜか自分の胸をざわつかせていたこと。自分が孝幸に対して、別の感情を抱いている可能性を、由佳は長年、胸の奥にしまい込んでいた。
由美は少し寂しそうに視線を落とした。
「姉さんはずっと私を守ってくれたけど……今度は自分で決めたいの」
由佳は妹の言葉を聞きながら、胸の奥で静かに歯を食いしばった。由美が孝幸を選んだこと。それが、由佳にとってどれほど受け入れがたい選択であるか、由美にはまだわかっていない。
由美と孝幸の再婚は、静かに行われた。式は小さく、親しい者だけが集まった。由佳は式の最前列に座りながら、孝幸の横顔を冷ややかに見つめていた。その視線には、妹を守るという強い意志と、どこか自分でも認めがたい、別の感情が混じっていた。
読んでくださりありがとうございます。「おもしろい」とか「よかった」という、一言でも感想を残していただけると嬉しいです。よろしければ、☆のポイントとリアクションのクリックをお願いします。




