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第20話 結婚生活

 由美の結婚生活は、表面的には穏やかに始まった。夫である岡山家の御曹司は、初めのうちこそ礼儀正しく振る舞っていたが、結婚から半年も経たないうちに、その本性が現れ始めた。


 夫には次第に夜の外出が増え、浮気の噂が取引先の間でも囁かれた。由美がそれを問い詰めると、夫は激しく怒り、初めて手を上げた。それ以来、夫の暴力は次第に頻繁になっていった。言葉の暴力も加わり、由美は家の中で声を上げることを恐れるようになった。


 由美は次第に外出を控えるようになり、やがてほとんど部屋から出なくなった。家事もろくにできず、食事も満足に取れなくなった。夫はそんな由美をますます疎ましがり、帰宅してもほとんど口をきかなくなった。


 そんな状況の中で、由美は妊娠した。夫は由美の報告に喜ぶ様子を見せたが、由美の体調や精神状態にはほとんど関心を示さなかった。由美は一人で産婦人科に通い、静かに出産の日を待った。


 咲奈(さきな)が生まれたのは、由美が結婚してから二年が経った頃だった。生まれたばかりの娘を抱いた由美は、少しだけ笑顔を見せた。しかしその笑顔は、すぐに影に覆われた。夫は娘の誕生を祝うどころか、育児の負担を由美一人に押しつけ、夜も遅くまで帰ってこなかった。


 由美は幼い咲奈を抱きながら、再び部屋に引きこもるようになった。


 由佳はそんな由美の様子を心配し、何度か両親に相談した。


「由美の様子がおかしいのよ。夫に暴力を振るわれているみたいで……このままでは危ないと思うわ」


 しかし父の康介は渋い顔をした。


「今、会社の経営が厳しいんだ。由美の件で岡山家と揉め事でも起こせば、取引に響く。もう少し我慢させるしかない」


 母の澄子もため息をつきながら言った。


「由美も大人なんだから、自分でなんとかするべきよ。うちが口を出せば、かえって面倒になるわ」


 両親の反応は、由佳が予想していたよりも冷たかった。会社と岡山家とのつながりを重視するあまり、由美の苦しみにはほとんど目を向けようとしなかった。


 由佳は時折一人で由美の家を訪れ、暗い部屋で眠る小さな咲奈と、痩せ細った由美の姿を見た。由美は時折、夫の暴力の話を涙ながらに打ち明けたが、すぐに「私が我慢すればいい」と自分を責めるように言った。


 由佳はそんな由美の横顔を、静かに見つめていた。華やかだった結婚式からわずか数年で、妹はここまで追い詰められていた。夫の浮気と暴力、そして引きこもりの中で生まれた娘・咲奈。由佳は妹を守れなかった自分への無力感と、両親に対する静かな怒りを、胸の奥に静かに溜め込んでいた。


 由美の結婚生活は、誰の目にも明らかな破綻を迎えていた。しかし当の由美だけが、それを「自分のせい」と思い込みながら、日々を耐え続けていた。


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