表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
18/28

第18話 報道

 克己が大学を卒業したのは、春の訪れがまだ遠い三月の終わりだった。法学部を卒業した彼は、すぐに都内の法律事務所に就職した。同期の中では比較的早く内定を得た方で、克己本人は「これで少しは真面目な道を歩ける」と、どこか自嘲を込めた口調で由佳に話していた。


 しかし、それから三年も経たないうちに、事件は起きた。


 ある夕方のニュース番組で、由佳はリビングのテレビの前に立ったまま、画面を見つめていた。アナウンサーの声が淡々と事実を読み上げていく。


「都内の法律事務所に所属する三島克己氏が、著名な実業家・藤原隆一氏の妻と不倫関係にあったことが発覚しました。藤原氏は先月、妻の不倫を理由に離婚を申し立てており、三島氏に対しては損害賠償を求める訴訟を起こしたとのことです。事務所側はすでに三島氏の解雇を決定したと発表しています……」


 画面には、克己の顔写真と、藤原隆一氏の妻とみられる女性の姿が映し出されていた。克己の笑顔は、いつものように柔らかく、しかし今はただ薄っぺらく、どこか滑稽にすら見えた。


 由美がリビングに入ってきたのは、その直後だった。彼女もテレビに目をやり、しばらく無言で画面を見つめていた。


「克己さん……」と由美が小さく呟いた。


 由佳はリモコンを手に、テレビを消した。部屋に沈黙が落ちる。


「やっぱり、そういう男だったのね」と由佳は言った。声は冷静で、どこか冷たい響きがあった。


 由美はソファに腰を下ろし、膝の上で手を組んだ。


「大学時代は、優しい先輩だと思っていたのに……」


 由佳は妹の横顔を見た。由美の声には、わずかな落胆と、どこか安心したような響きが混じっていた。由佳はそれを聞きながら、胸の奥で静かに頷いた。克己の事件は、由佳にとって意外なものではなかった。むしろ、いつかこうなると思っていた。あの計算された笑顔の裏側に、結局はそうした浅はかさが隠れていただけだと。


 しかし同時に、由佳は別のことを考えていた。あの男が由美に近づこうとしたこと。アルコールが入った夜に、妹に手を伸ばしかけたことを。そして今、著名な実業家の妻との不倫が全国に報じられ、醜態を晒している。


 由佳はカップに手を伸ばし、冷めたコーヒーを一口飲んだ。克己の事件は、由佳の中で「由美を守る」という意識を、さらに強固なものにしていた。甘い言葉で近づいてくる男たちから、由美だけは絶対に守らなければならない——その決意が、報道の映像とともに、由佳の胸の奥で静かに固まっていった。


読んでくださりありがとうございます。「おもしろい」とか「よかった」という、一言でも感想を残していただけると嬉しいです。よろしければ、☆のポイントとリアクションのクリックをお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ