第13話 新たなる弦と鍵盤
翌年の春、室内楽サークルに二人の新入生が加わった。
一人は経済学部の神崎由美。由佳の妹で、幼い頃からバイオリンを続けていたお嬢様である。由美が入部した日、由佳は控えめに喜びを表した。由美の笑顔を見るだけで、由佳の胸に温かなものが広がる。妹を守るという、幼い頃から変わらぬ使命感が、再び強く疼いた。
もう一人は、同じ経済学部の風間孝幸だった。中流家庭に育ち、母親がピアノ教師だった彼は、自然にピアノの前に座っていた。母親の知り合いから、このサークルに入ることを強く勧められたという。孝幸は控えめで、ほとんど目立たない存在だったが、鍵盤に指を置いたときの集中力は、由佳の目にも留まった。
由佳は孝幸を静かに観察した。ディベートで武装した克己とは違い、孝幸には計算されたところがないように見えた。それがかえって由佳には不気味だった。
「この男は、由美に近づきすぎるのではないか」——そんな予感が、胸の奥で小さく渦を巻いた。
練習の後、克己が由美に近づいていくのを由佳は見ていた。克己の笑顔はいつも通り柔らかく、由美に「君のバイオリンは明るい響きだね」と声をかける。由美は丁寧に微笑み返したが、距離を置く様子が明らかだった。
由佳は内心で安堵した。由美は克己のような男に惑わされるような子ではない。しかし同時に、孝幸の静かな存在が気にかかった。あの男は、由美の純粋さを、知らずに乱すのではないか。由佳はそう思い、妹の横顔をそっと見つめた。
サークルの空気は穏やかだったが、由佳の胸には、微かな波紋が広がり始めていた。ディベートサークルで出会った克己、音楽の響き、そして新たに加わった由美と孝幸——すべてが、由佳の人生に予期せぬ影を落とそうとしていた。
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