第10話 邂逅
孝幸は人ごみをかき分けて地下鉄を降りたところで、前から来た制服の女子高校生とぶつかった。女性は倒れて、床に手をついたまま孝幸を見つめた。目が合った瞬間、孝幸は息をのんだ。女性は、元妻の連れ子の咲奈だった。
孝幸は咲奈に手を差し伸べて立ち上がらせた。何を言っていいのか分からなかった。五年という歳月が、彼女を別人のように変えていた。
咲奈は孝幸の腕をつかんで、人の流れから抜け出し、孝幸をベンチに座らせた。咲奈は孝幸の正面に立ち、見下ろした。
ファミリーレストランで見かけたときの、どこか頼りなさげなお嬢様の雰囲気はなかった。無表情に孝幸を見下ろす制服姿の咲奈は、別人のように思えた。その瞳には、子供の頃にはなかった静かな決意が宿っていた。
咲奈はおもむろに言った。
「私、お父さんに謝りたかったの」
孝幸はようやく、咲奈に出くわしたのは偶然ではないことに気がついた。
「お前が私に謝るようなことは何もない」
孝幸は憮然と言った。
「お父さんに冷たく接したわ」
「それは子供のときのことだろう。母親が再婚してできた父親には普通のことだ」
「お父さんは優しかった」
孝幸は何も答えなかった。胸の奥で、遠い記憶が疼いた。
「それなのに、私……」
「そのことなら気にするな。由佳たちにいろいろ吹き込まれていたせいだ」
孝幸は一度俯いてから、顔を上げた。
「心配するな。由美の見舞いにはちゃんと行く」
孝幸が立ち上がろうとして腰を浮かしかけたとき、咲奈が孝幸に体を近づけて座らせた。咲奈は孝幸の目を見た。
「お父さん、なぜファミレスで泣いていたの?」
「泣いてなどいない」
「涙をこらえていた」
孝幸は驚いて咲奈の顔を見た。胸の奥で、五年間封じ込めていた何かが、わずかに揺れた。
「私、お父さんに育てられた娘なのよ。それくらい分かるわ」
咲奈は寂しそうに笑った。その笑みには、痛みと優しさが混じっていた。
「五年ぶりに成長した娘の姿を見て、泣かない父親などいない」
孝幸は立ち上がった。胸の奥で、言葉にならない感情が渦巻いていた。
「だがオレはもう、お前の父親じゃない」
孝幸は一度視線をそらせてから、咲奈の顔を見て言った。
「幸せになれ」
孝幸は咲奈に背中を見せ、足早に階段を駆け上がっていった。背後から咲奈の視線を感じながらも、振り返らなかった。振り返れば、何かが崩れてしまいそうだった。
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