↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなたの婚約者、何とかなりません?」と隣国の王女殿下に苦情を言われました。  作者: さんけい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/43

第十三話 危険が差し迫ってる場合でも? ―ジャスパー―

 父はそう言うが、私は殿下を守ろうとしたのだ。


 不誠実な感情で近づいたわけではない。目立つ方法を選んだことや、学院へ事前に相談しなかったことには問題があったかもしれない。

 だから正式な命令へ署名した。

 今後は学院の指示へ従い、勝手に殿下へ付き添わないと約束している。


「父上。今回のことで、私の方法が適切でなかったことは理解しています」

「方法だけか?」

「事前に教師や警備担当へ相談するべきでした。四人で女子側へ行くことで、殿下へも御迷惑を――」

「必要ないと言われた後も続けたことは?」

「殿下のお立場を考えれば、表立って助けを求められない場合もあります」


 父は目を閉じ、片手で額を押さえた。しばらくして、学院長へ顔を向ける。


「……申し訳ありません。学院からの御報告に、間違いはなかったようです」

「父上」

「まだ話は終わっていない」


 父は脇へ置いていた革鞄を開き、中から別の封書を出した。

 封蝋には、アザフォード侯爵家の紋章がある。


「昨日の朝、アザフォード侯爵家から、正式に婚約解消の申し入れがあった」


 すぐには意味が分からなかった。

 シトリンとの婚約は、互いが幼いころから続いている。

 アザフォード家の跡を継ぐのは姉君で、シトリンは将来、マーチモンド伯爵家へ嫁ぐ。学院卒業後の時期については、両家でこれから相談する予定だった。


「婚約…… 解消?」

「シトリン嬢御本人の希望だそうだ」

「それは、今回の騒ぎで心を乱しているからです」


 父の手から、封書が机へ落ちた。


「お前は今、何と言った?」

「シトリンは、ラピス殿下との噂や学院からの聞き取りで、普段より不安になっています。私が直接話せば――」

「なぜ、《《シトリン嬢が自分で決めたことを、お前が別の意味へ変える》》?」

「長年の婚約です。今回の一件だけで、本当に解消を望むとは考えにくいでしょう」

「本人が望んでいると、アザフォード侯爵が書いている」

「父君へ話すときにも、感情が先に立ったのかもしれません」


 父は椅子から立ち上がった。

 軍務の場でも、父が人前で大声を上げることはほとんどない。家でも同じだ。

 その父が、何も言わずに学院長室を一度歩き、窓際で足を止めた。


「アザフォード侯爵からは、シトリン嬢が何と言ったかも聞いている」


 窓の外を向いたまま、父が言う。


「このまま結婚したら、お前に近づかれることさえ嫌になる。すでに、手を取られるのも、ダンスで触れられるのも嫌だ、と」


 学院長室の時計が、一度鳴った。授業開始までの時刻を知らせる音である。


「シトリンが、そのようなことを?」

「そうだ」

「私には、何も言っていません」

「言う前に、お前が話を違う意味へ変えたのではないか?」

「私は、彼女の言葉を聞いています」

「聞いた後で、《《自分に都合のよい説明をつけている》》」


 父が振り返った。


「今もだ。シトリン嬢が《《婚約解消を望んでいる》》と聞いて、お前は《《本人が動揺している》》ことにした。《《近づかれるのも嫌》》だと聞いて、次は何にするつもりだ?」

「……一時的に、私への信頼を失っているのだと思います」


 父の肩が下がった。


「そこまで言われても、まだ一時的なものにするのか」


 返事を待たず、椅子へ戻る。


「マーチモンド家は、婚約解消を拒まない」

「父上」

「相手が、お前と結婚したくないと言っているのだ。こちらが縛りつける理由はどこにもない」

「一度、シトリンと話をさせてください」

「アザフォード家と学院の許可を得ろ。二人きりで会うことは認めない」

「婚約者同士の話です」

「すでに先方は、婚約解消を申し入れている」


 父は封書を革鞄へ戻した。


「今日中に、お前の母とも話す。正式な返答は明日、アザフォード侯爵家へ届ける。お前からシトリン嬢へ手紙を送る場合も、まず私たちへ見せなさい」

「そこまでなさる必要がありますか?」

「必要だと判断した」


 私の返事を聞くことなく、父は立ち上がった。

 学院長と学年主任へ、改めて頭を下げる。


「息子が御迷惑をおかけしました。学院の処分には従います。合同祭についても、役割と行動範囲を明確に御指示ください」

「本日の午後、四年生全体へ役割を伝える予定です」


 学院長が答えた。


「マーチモンドたち四名については、教師の監督下に置きます」

「お願いいたします」


 父は私へ、授業へ戻るよう命じた。

 学院長室を出る前に、もう一度、父の革鞄を見る。

 アザフォード家からの封書は、すでに中へしまわれていた。


 *


 午後の授業を終えると、男子部四年生は教室へ残された。合同祭当日の役割を決めるためである。

 教師が黒板へ、会場ごとの仕事を書き出す。


 ――正門での来賓受付。

 ――展示室の案内。

 ――晩餐会場の給仕補助。

 ――大講堂と舞踏室の椅子や備品の移動。


 馬車寄せの整理は学院の警備員と使用人が行い、生徒は入らない。外国の来賓や王族の案内には、教師から指名された上級生だけが加わる。

 そして私たち四人の名は、備品移動の欄にあった。


「先生」


 ディアモンが手を上げる。


「我々も、来賓の案内を担当できると思います」

「認めない」


 教師の返事は短かった。


「先日の一件を踏まえ、マーチモンド、ディアモン、ルビアス、ペリドの四名は、教師の監督下で大講堂と舞踏室の備品を運ぶ。当日は担当区域から出ないこと」

「全員、同じ場所ですか?」


 ルビアスが黒板を見た。


「別々にすると、勝手な配置を始めるかもしれないからな」


 教室の後ろで、誰かが笑いかけたが、教師がそちらを見ると、すぐ静かになる。


「備品の運搬中に異常を見つけた場合は、近くの教師へ報告しろ。自分たちで人を捕らえたり、来賓を誘導したりしてはならない」

「《《危険が差し迫っている場合》》もですか?」


 私が尋ねると、教師は持っていた名簿を机へ置いた。


「……マーチモンド、お前は先週も同じ質問をしたな」

「報告する時間がない場合について、まだお答えをいただいておりません」

「目の前で人が倒れたなら、近くの教師を呼べ。火が出たなら火事だと知らせろ。不審な者を見つけたなら、警備員へ伝えろ」


 黒板の脇には、合同祭当日の会場図が貼られている。

 教師は大講堂と舞踏室の間にある通路を指した。


「お前たちの担当区域には、必ず教師が一人つく。何か起きても、四人だけで判断する状況には《《ならない》》」

「それでも、教師が気づいていない危険が――」

「マーチモンド」


 教師が私の言葉を止めた。


「起きていない事件の中で、自分だけが正しく動ける場面を探すな」


 教室の全員が、こちらを見た。


「お前の仕事は、指定された備品を指定された場所へ運ぶことだ。まず、それを正しく行え」


 名簿から四枚の役割票が外される。

 教師は私たちを一人ずつ呼び、当日の集合時刻と担当区域を確認させた。

 ディアモンとルビアスは、何も言わずに署名する。

 ペリドは役割票を最初から最後まで読み、教師へ尋ねた。


「備品を運び終えた後は、どうしますか?」

「その場で指示を待て」

「分かりました」


 署名した紙を戻し、ペリドは席へ戻った。

 私の番になる。

 役割票には、先週署名した文書と似た注意が書かれていた。


 ――担当区域を離れない。

 ――警備、誘導、護衛その他、命じられていない行為を行わない。

 ――異常時には教師および警備員の指示に従う。


 すべて理解できる。

 ()()()合同祭であれば、何も問題はない。

 教師と警備員が適切に動き、来賓が安全に移動できるなら、私が持ち場を離れる必要もない。

 ただし、()()()()()()()()()()()()()()()まで、報告だけでよいのか。

 判断が一瞬遅れたために、取り返しのつかないことになる場合もある。


「マーチモンド。読んだのか?」

「はい」


 教師から渡されたペンを取り、役割票へ名前を書く。

 紙を戻すと、教師は署名を確認し、ほかの三枚と重ねた。


「当日は、この内容を守りなさい」

「承知しました」


 四枚の役割票は、会場図と一緒に教師の鞄へ入れられた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。