第9話 矢印は、あらぬ方へ
作戦は。
明確、だった。
日下部の。
わたしに、向いた、矢印を。
不破に。
向け直す。
そのために。
まず。
不破を。
動かす。
不破が。
日下部に。
優しく、したり。
頼ったり、すれば。
日下部の、意識も。
自然と。
不破に。
向く、はず。
……理屈は。
完璧。
だから。
わたしは。
不破に。
接触した。
◇
昼休み。
わたしは。
不破を。
廊下の、隅に。
呼び出した。
「不破くん。ちょっと、いい?」
「あん? ……湊? なんだよ」
不破は。
相変わらず。
えらそうだ。
でも。
この、王子様面が。
日下部と、並ぶと。
途端に。
尊く、なる。
……ふふ。
我慢、我慢。
「あのね」わたしは、切り出した。「日下部くんのこと、なんだけど」
「日下部? あいつが、どうした」
「最近、元気、ないみたいなの」
(嘘、だけど)
「あなたから。……ちょっと、気にかけて、あげたら、どうかしら。ほら。あなたたち、仲、いいでしょう?」
「はあ? なんで、俺が」
「いいから、いいから」
……よし。
これで。
不破が。
日下部を。
気にかけて。
二人の、距離が。
縮まる。
完璧な。
誘導。
……の、はず、だった。
◇
「……つーか」不破が。
ふと。
言った。「お前、最近。……東海林と、つるんでるよな」
……ん?
「え、ええ。まあ」
「……あいつ」不破の。
声が。
少し。
低く、なった。「……元気、か?」
……あれ?
「東海林さん?」わたしは、首を、かしげた。「元気、だけど。……なんで?」
「いや、別に」不破は。
ぷいっと。
顔を、そむけた。「……ただ。……最近。……あんまり、話してねえな、と、思って」
……。
……なに、この、反応。
不破の。
耳が。
……ほんのり。
赤い。
◇
わたしの、脳内で。
ぴこーん、と。
何かが。
光った。
……待って。
……もしかして。
不破って。
……東海林さんのこと。
「……不破くん」わたしは、探りを、入れた。「あなた、もしかして。……東海林さんのこと」
「――ちがっ!!」
不破が。
顔を、真っ赤に、して。
叫んだ。
「ちがう! 別に! そんなんじゃ、ねえ!」
「……何も、言ってないけど」
「うるさい!」
……ふうん。
なるほど。
なるほど、ね。
不破の。
好きな、人は。
――東海林さん。
わたしの。
共犯者で。
わたしの、隣で。
いつも。
「森本が、見たい」と。
言ってる。
あの。
東海林、四季。
……うわ。
こんがらがって、きた。
◇
整理、しよう。
日下部は。
わたしを。
好き。
(向けたくない、矢印)
わたしは。
その、矢印を。
不破に、向けたい。
でも。
不破は。
東海林さんを。
好き。
(未練、たっぷり)
そして。
東海林さんは。
森本が。
他の男子と、いるのを。
見たい。
(恋、では、ない。……鑑賞)
で。
森本は。
何にも。
気づいて、いない。
……。
……なにこれ。
ぐっちゃぐちゃ。
◇
その、放課後。
わたしは。
頭を、抱えて。
東海林に。
報告した。
「東海林さん。……大変なことが、わかったわ」
「……?」
「不破くんが。……あなたのこと。好きみたいなの」
……。
東海林の。
表情が。
ぴくり、と。
動いた。
……ほんの、少しだけ。
嫌そうな。
顔。
「……知ってる」東海林は、言った。
「知ってたの!?」
「……前に。……告白、された」東海林は。
面倒くさそうに。
言った。「……断った。……でも。……まだ、しつこい」
……ああ。
そう、だったの。
(そういえば。
不破って。
報われない、枠、よね)
◇
「でも」わたしは。
食い下がった。「これ、逆に。……使えない?」
「……?」
「不破くんの、その、想いを。うまく、転がして。……日下部くんに、向けさせられたら」
「……無理」東海林は。
ばっさり、と。
切った。「……不破は。……不器用。……一途。……そう簡単に。……気持ち、変わらない」
……。
……ですよ、ね。
わたしも。
薄々。
わかって、いた。
不破は。
まっすぐ、すぎる。
日下部に、矢印を、向け直す、なんて。
そんな、器用なこと。
できる、タイプじゃ、ない。
……計算通りに。
いかない。
ネルダー・ミード法も。
人の、心の前では。
無力。
◇
……と。
そのとき。
東海林が。
ふと。
とんでもない、ことを。
言い出した。
「……ねえ、ミライ」
「なに?」
「……不破が。……森本に、嫉妬したら」東海林は。
真剣な、顔で。
言った。「……どうなる?」
……え?
「だって」東海林は。
淡々と、続けた。「……不破は、わたしが、好き。……わたしは、森本を、見てる。……なら。……不破は。……森本を、ライバルだと、思って。……つっかかる」
……。
「……森本と、不破が。……バチバチ、する」東海林の。
目が。
きらん、と。
光った。「……それ。……見たい」
……。
……この、幼馴染。
自分の、色恋沙汰を。
平然と。
「森本×不破」の。
燃料に。
しようと、して、いる。
◇
わたしは。
頭を、抱えた。
もう。
だめだ。
盤面が。
わたしの、手を。
完全に。
離れて、いる。
わたしは。
不破×日下部が、見たい。
でも。
不破は、東海林さんを、向いてて。
東海林さんは、森本×不破を、見たがってて。
日下部は、わたしを、向いてて。
……誰も。
わたしの。
思い通りに。
動いて。
くれない。
「盤面の、支配者」?
……ふ。
笑わせる。
わたしは。
とっくに。
盤面から。
振り落とされて、いる。
◇
……ちなみに。
その、会話を。
少し、離れた、ところで。
森本が。
聞いて、いた。
いや。
正確には。
聞こえて、いたけど。
意味は。
まったく。
理解して、いなかった。
「なあ」森本が、寄ってきた。「お前ら、さっきから。……不破が、どうとか。矢印が、どうとか。……何の、話、してんの?」
「……女子の、話よ」わたしは、疲れた顔で、言った。
「また、それか」森本は。
肩を、すくめた。「……まあ、いいけど。なんか、大変そうだな」
……。
あんたが。
一番。
渦中に、いるのよ。
……と。
言いたいのを。
ぐっと。
こらえた。
(言ったら。
たぶん。
ややこしく、なる)
◇
その、夜。
わたしは。
布団の、中で。
天井を。
見上げて、いた。
……ふう。
今回の、ループも。
だいぶ。
こじれた。
日下部の、告白は。
かわし続けて。
不破は、東海林さんに、夢中で。
東海林さんは、森本に、夢中で。
(鑑賞的な、意味で)
わたしの、本命は。
一ミリも。
進んで、いない。
……むしろ。
後退、してる。
……ねえ。
神様。
わたしは。
ただ。
尊いものが。
見たいだけ、なのに。
どうして。
こんなに。
難しいの。
……ぐるぐる。
ぐるぐる。
考えている、うちに。
わたしは。
いつの間にか。
眠って、いた。
……次の、朝が。
リセットで、あることも。
まだ。
知らないまま。
(第9話 了)
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【 湊ミライの ループ攻略メモ 】
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一、 これは わたしの願望が見せる世界
二、 心底"満足"すれば抜けられる
(満足=不破×日下部の尊さを見届けること)
三、 思惑を勝手に見抜かれたら即リセット
四、 自分から明かして引き入れた味方はセーフ
五、 見抜かれても 相手が"同好の士"ならセーフ
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◆ 相関図(※もう ぐちゃぐちゃ)
・日下部 → わたし(向けたくない矢印)
・不破 → 東海林(未練たっぷり・一途)
・東海林 → 森本(※恋ではなく 鑑賞)
・森本 → 何も気づいていない
・わたし → ただ 不破×日下部が 見たいだけ
▼ 今回 判明したこと
・不破の一途さは 矢印を動かせない(打開策 崩壊)。
・東海林の新提案:"不破 vs 森本"のバチバチが見たい。
→ 味方の推しと わたしの推しが 真っ向から対立。
・盤面は もう わたしの手を離れている。
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