第8話 好かれてしまう
御手洗さんの、盾が。
使えない、と、わかった。
では。
どうするか。
……仕方が、ない。
日下部の、対応は。
わたしが。
自分で。
やる、しか、ない。
……これが。
甘かった。
◇
ネルダー・ミード法。
その、教えに、従って。
わたしは。
今回。
「積極策」を、とった。
自分から。
不破と、日下部の。
あいだに、入って。
二人の、会話を。
増やす。
きっかけを。
作る。
話題を。
振る。
……献身的な。
プロデューサー。
効果は。
てきめん、だった。
不破と、日下部は。
前より。
ずっと。
喋るように、なった。
……ふふ。
いい、感じ。
いい、感じよ。
……でも。
一つだけ。
予想外の。
副作用が。
あった。
◇
「湊さん」
放課後。
昇降口で。
日下部に。
呼び止められた。
「いつも。……なんだか。僕たちのこと。気にかけて、くれて。ありがとう、ございます」
「え? あ、いえ」わたしは、微笑んだ。「別に、そんな」
「不破くんとの、班のこと、とか」日下部は、柔らかく、笑った。「湊さんが、いろいろ。……気を、回してくれてる、の。……わかって、ますよ」
……。
……あれ?
「湊さんって」日下部は、言った。「面倒見が、よくて。……気配りが、できて。それに」
……。
……いや。
まって。
「……一緒に、いると。楽しいなって」
……。
まって、まって、まって。
この。
流れは。
……!
◇
いや。
待って。
冷静に。
冷静に、なるのよ、ミライ。
これは。
過去の、ループでも。
何度か。
あった。
わたしが。
積極的に、動くと。
なぜか。
日下部が。
わたしを。
「いい人」だと。
思い始める。
……なぜ。
なぜなの。
わたしは。
あなたを。
不破と、くっつけたいだけ。
なのに。
なんで。
あなたが。
こっちを。
向くの。
「湊さん」日下部が。
一歩。
近づいた。
「僕、今度の、日曜。……もし、よかったら」
――だめ!
それ以上。
言わないで!
◇
わたしの、頭が。
猛烈な、勢いで。
回転した。
いい? 状況を、整理するのよ。
日下部が。
いま。
わたしを。
デートに。
誘おうと。
して、いる。
ここで。
わたしが。
「はい」と。
言ったら。
どうなる?
……日下部と、わたしが。
付き合う。
――却下。
却下、却下。
わたしは。
三次元の、男に。
興味は、ない。
それに。
わたしが。
日下部と。
くっついたら。
不破×日下部は。
完全に。
消滅する。
……あり得ない。
では。
「いいえ」と。
断ったら?
……日下部は。
傷つく。
気まずく、なる。
下手を、すれば。
不破との、仲まで。
ぎくしゃく、する。
そう、なれば。
これも。
不破×日下部は。
遠のく。
……つまり。
◇
――どっちも。
だめ。
受けても。
断っても。
わたしの、望む。
不破×日下部は。
遠ざかる。
これは。
詰み、だ。
完全な。
ダブルバインド。
……ネルダー・ミード法でも。
こんな、局面は。
計算、できない。
じゃあ。
どうする?
答えは。
一つ。
――受けも、断りも、しない。
のらり、くらり。
かわし続ける。
日下部の、気持ちを。
傷つけず。
でも。
受け入れも、せず。
宙ぶらりんの、まま。
……三学期が、終わるまで。
この、綱渡りを。
続ける、しか、ない。
◇
「――あ、あの! 日下部くん!」わたしは。
慌てて。
声を、張った。
「そういえば! 不破くんが! さっき、あなたのこと、探してたわ!」
「え? 不破くんが?」
「そう! なんか。……相談したいこと、が、あるって!」
(嘘、だけど)
「そう、なんですか」日下部は。
きょとん、と、した。「珍しいな。……不破くんが、僕に、相談なんて」
「早く、行ってあげて! 急いでる、みたいだったから!」
「あ、はい。……じゃあ、湊さん。話の、続きは、また」
「ええ、また! ぜひ、また!」
(絶対、続けないけど)
日下部は。
不破を、探しに。
行って、しまった。
……ふう。
なんとか。
逃げ切った。
でも。
これは。
その場しのぎ。
根本的な、解決には。
なって、いない。
◇
その、日の、放課後。
わたしは。
東海林と。
森本を。
集めて。
深刻な、顔で。
言った。
「……緊急事態、よ」
「なんだよ」森本が、言った。
「日下部が。……わたしに。惚れかけてる」
……。
沈黙。
それから。
森本が。
ぷっ、と。
噴き出した。
「なんだ、それ! 良かったじゃねえか! モテて!」
「良くない!」わたしは、叫んだ。「全然、良くない! 日下部が、わたしを、向いたら。不破と、くっつかないでしょう!?」
「あー……」森本は、納得した。「そういう、ことか。……お前の、目的的には。確かに、最悪だな」
「そうよ! 最悪なの!」
世界一。
贅沢な。
悩み。
(本人は、大真面目)
◇
一方。
東海林は。
腕を、組んで。
何やら。
考え込んで、いた。
「……ミライ」
「なに?」
「……逆に」東海林は、ぼそっと、言った。「……日下部の、その、気持ち。……不破に、向けさせれば?」
……。
……。
……それだ。
「東海林さん……!」わたしは。
感動した。「あなた、天才!」
「……ふふ」東海林は。
ちょっと。
得意げに。
なった。
(森本は。
「なんで、こいつら。こんなことに、必死なんだ」という顔で。
二人を、見て、いた)
◇
そう。
日下部の。
溢れ出す、この、好意。
これを。
わたしに、向けさせるから。
まずい、のだ。
だったら。
この、矢印を。
うまく。
不破のほうに。
向け直せば、いい。
日下部が。
わたしに。
感じている。
「楽しい」「気が、合う」を。
そっくり、そのまま。
不破に。
感じさせれば。
……ふふ。
完璧じゃ、ない。
ピンチは。
チャンス。
日下部の、告白という。
最大の、危機を。
逆に、利用して。
不破×日下部を。
成立させる。
……これぞ。
逆転の。
一手。
◇
……だが。
わたしは。
このとき。
見落として、いた。
不破には。
不破の。
事情が。
あった。
日下部の、矢印を。
不破に、向けようにも。
その、不破が。
……実は。
とっくに。
別の、誰かに。
矢印を。
向けて、いる、ことを。
その、誰かとは。
――東海林、四季。
いま。
わたしの、隣で。
得意げに、している。
この、幼馴染の。
……推し、その人だった。
(第8話 了)
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【 湊ミライの ループ攻略メモ 】
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一、 これは わたしの願望が見せる世界
二、 心底"満足"すれば抜けられる
(満足=不破×日下部の尊さを見届けること)
三、 思惑を勝手に見抜かれたら即リセット
四、 自分から明かして引き入れた味方はセーフ
五、 見抜かれても 相手が"同好の士"ならセーフ
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◆ 味方リスト
・森本 … 実務担当。人の恋路を笑う。
・東海林 … 同好の士。ナイス助言(推しは森本)。
◆ 新装備
・ネルダー・ミード法 … ※告白の詰みには効かない
▼ 今回 判明したこと
・積極的に動くと、日下部が"わたし"に惚れる。
→ 受けても断っても 不破×日下部が消滅(詰み)。
→ 当面は "かわし続ける" しかない。
・打開策:日下部の矢印を 不破に向け直す。
・! 未確認の障害:不破の矢印は 既に誰かを向いている?
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