第7話 御手洗という盾
ネルダー・ミード法。
その、武器を、手にした、わたしは。
正直。
無敵の、気分だった。
これまでの、失敗を。
データとして。
一つずつ。
潰して、いけばいい。
一番、ダメだった、やり方から。
順に、捨てて。
いい方へ。
寄せて、いく。
……理論上。
いつか、必ず。
わたしは。
最高の、盤面に。
たどり着く。
……ふふ。
数学は。
裏切らない。
◇
で。
過去の、データを。
分析して。
わたしは。
一つの、「悪手」に。
気づいた。
――日下部の、告白。
これまでの、ループで。
何度か。
あった。
わたしが。
積極的に、動いて。
不破と、日下部の、周りを、ちょろちょろ、していると。
なぜか。
日下部が。
わたしを。
意識し始める。
そして。
最悪の、場合。
……告白、してくる。
これが。
本当に。
厄介、なの。
だって。
日下部が。
わたしの、ほうを、向いたら。
不破と、くっつく、わけが。
ない、でしょう。
推しカップリングの、一角が。
こっちに、矢印を、向けてくる、なんて。
……オタクとして。
これほどの。
悪夢は、ない。
◇
だから。
わたしは。
考えた。
日下部の、意識を。
わたし以外の、誰かに。
逸らせば、いい。
……では。
誰に?
……ふふ。
うってつけの、人材が。
いる、じゃ、ないの。
御手洗さん。
なぜか、わたしと。
顔が、似ている、彼女。
(よく、言われる)
彼女を。
日下部の、近くに、置いて。
「なんか、湊さんに、似た、可愛い子が、いるな」と。
日下部の、意識を。
そっちに、流す。
わたしは。
安全な、位置から。
心置きなく。
不破×日下部を。
観測、できる。
……完璧な。
作戦。
我ながら。
冴えて、いる。
◇
わたしは。
さっそく。
御手洗さんを。
探しに、行った。
図書室。
いつもの。
彼女の、指定席。
……いた。
でも。
様子が。
おかしい。
御手洗さんは。
机に。
参考書を。
うずたかく。
積み上げて。
鬼のような。
形相で。
ペンを、走らせて、いた。
「……御手洗さん?」
「……」
「あの、御手洗さん?」
「……いま、話しかけないで、かしら」
……こわ。
◇
「ごめんなさいね」御手洗さんは。
顔も、上げずに。
言った。「いま。……それどころじゃ、ないの」
「な、なにか、あったの?」
「受験」御手洗さんは、うめいた。「……もうすぐ。……模試なの。……この前の、判定が。……E、だったの」
……。
「E?」
「そう。イー」御手洗さんは、ぎりぎり、と、歯を、噛んだ。「わたしは。……推薦なんて、使わない。……一般で。……上を、狙うの。……だから。……いま。……人生で。……一番。……忙しいの」
……。
……ああ。
そう、だった。
御手洗さんは。
三年に、上がる前の。
この、大事な、時期に。
死に物狂いで。
勉強して、いる。
恋愛だの。
班分けだの。
……そんなもの。
眼中に。
ない。
◇
「あのね、御手洗さん」わたしは。
それでも。
食い下がった。「ちょっと、だけ。……手伝って、ほしいこと、が」
「無理」
「五分。……いえ、三分でいいの」
「無理よ」御手洗さんは。
ぴしゃり、と、言った。「湊さん。……あなた、いま。……わたしに。……三分、無駄にしろ、って。言ったの?」
「……」
「その、三分で」御手洗さんは、目を、血走らせて、言った。「英単語が。……十個。……覚えられるの」
……。
……だめだ。
これは。
取りつく島も、ない。
「……ごめんなさい」わたしは。
すごすごと。
引き下がった。
「わかって、くれれば、いいの」御手洗さんは。
もう。
わたしの、ことなんて。
見て、いなかった。
参考書に。
かじりついて。
ぶつぶつ。
世界史の、年号を。
唱えて、いる。
……盾は。
手に、入らなかった。
◇
図書室を。
出て。
わたしは。
廊下で。
ぼんやり、した。
……計算、外れだ。
ネルダー・ミード法、では。
「御手洗さんを、盾にする」という。
新しい、点を、置いた。
でも。
その、点は。
そもそも。
動いて、くれなかった。
御手洗さんには。
御手洗さんの。
事情が、あった。
人生が、あった。
わたしの、盤面の、都合なんて。
関係、なく。
彼女は。
彼女の、戦いを。
して、いる。
……当たり前だ。
でも。
その、当たり前を。
わたしは。
忘れて、いた。
◇
ふと。
気づく。
わたしは。
みんなを。
「駒」だと。
思って、いた。
森本も。
東海林も。
御手洗さんも。
不破も。
日下部も。
五百旗頭さんも。
わたしの、盤面を。
動かすための。
コマ。
……でも。
違う。
みんな。
ちゃんと。
前に、進んで、いる。
御手洗さんは、受験。
五百旗頭さんは、宇宙。
みんな。
それぞれの、明日に。
向かって。
生きて、いる。
……わたしだけが。
同じ、三学期を。
何度も。
何度も。
繰り返して。
誰かの、恋を。
くっつけようと。
して、いる。
……あれ?
わたし。
何して、るんだろう。
◇
……いや。
いやいや。
やめよう。
こういう。
センチメンタルなの。
わたしらしく、ない。
わたしは。
ぶんぶん、と。
頭を、振った。
……そうよ。
尊いは。
尊い。
みんなが、前に、進んでようが。
わたしが、ループ、してようが。
不破×日下部が、尊いことに。
変わりは、ない。
だったら。
見る。
何が、あっても。
見る。
それが。
わたしの。
生きる。
意味。
(※オタクの、生きる意味)
◇
「――で。盾作戦は、どうなったんだ?」
放課後。
森本が。
聞いてきた。
「……却下」わたしは、言った。「盾に、しようとした、相手が。……受験で。それどころじゃ、なかった」
「あー……御手洗な」森本は、納得した顔で、頷いた。「あいつ、いま、やばいらしいからな。この前も、鬼の、形相で、単語帳、めくってた」
「見たの?」
「見た。……話しかけたら、殺されるかと、思った」
……。
わかる。
すごく、わかる。
「……なあ、湊」森本は。
ふと。
言った。「お前もさ。そんな。……何回も、めげずに。よく、やるよな」
……。
ぎくり、と、した。
「……何回も、って?」
「あ、いや」森本は。
首を、かしげた。「なんか。……そんな、気が、しただけ。お前、前にも。……同じ、こと。やってた、ような」
……。
……鋭い。
やっぱり。
森本は。
時々。
……こわい。
「気の、せいよ」わたしは。
慌てて。
笑った。
「そうか。……まあ、いいけど」
◇
その、夜。
わたしは。
布団の、中で。
一人。
考えた。
ネルダー・ミード法。
最適化。
盤面。
攻略。
……確かに。
データは。
増えて、いく。
一番、ダメな、やり方は。
わかって、きた。
でも。
なぜか。
ゴールには。
一向に。
近づいて、いる。
気が、しない。
まるで。
同じ、ところを。
ぐるぐる。
回って、いる、みたいに。
……気のせい、かな。
……そうよ。
気のせい。
数学は。
裏切らない。
明日も。
わたしは。
最適化する。
……そう。
このときも。
まだ。
わたしは。
気づいて、いなかった。
――この、パズルは。
数学では。
解けない、ってことに。
(第7話 了)
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【 湊ミライの ループ攻略メモ 】
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一、 これは わたしの願望が見せる世界
二、 心底"満足"すれば抜けられる
(満足=不破×日下部の尊さを見届けること)
三、 思惑を勝手に見抜かれたら即リセット
四、 自分から明かして引き入れた味方はセーフ
五、 見抜かれても 相手が"同好の士"ならセーフ
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◆ 味方リスト
・森本 … 実務担当。時々、鋭い(要警戒)。
・東海林 … 同好の士。推しは"森本"。
◆ 新装備
・ネルダー・ミード法 … 最適化戦略。
▼ 今回 判明したこと
・御手洗さんは 受験で盤面の外(盾に使えない)。
・みんな それぞれの明日に進んでいる。
……ループしてるのは わたしだけ。
・数学は 裏切らない――はず。
(なのに ゴールに近づく気がしないのは 何故?)
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