第4話 共犯者
二周目。
いえ。
正確には。
何周目か、なんて。
もう、覚えて、いない。
でも。
今回の、わたしは。
一つ。
学習して、いる。
――森本は、鋭い。
隠し通そうと、しても。
あいつは。
いつか、気づく。
そして。
気づかれた、瞬間。
世界は、リセットされる。
……だったら。
◇
放課後の、教室。
わたしは。
森本を。
呼び止めた。
「森本。ちょっと」
「……なんだよ、湊」
森本は。
例によって。
面倒くさそうな、顔。
でも。
今回は。
いつもの。
まどろっこしい、脅しは。
なし。
単刀直入に、いく。
「あんた、中二病、でしょう」
――ぶっ。
「なっ……!?」森本が、飛び上がった。「い、いきなり、なんだ!」
「漆黒の、堕天使」わたしは、言った。「終焉の、契約者。……続き、言う?」
「――言うな言うな言うな!!」
森本が。
血相を、変えて。
わたしの、口を、塞ぎに、きた。
……ふふ。
何度、見ても。
この、反応。
飽きない。
◇
「お前……!」森本が、青ざめた顔で、言った。「なんで、それ……! 誰にも、言ってない、はずだろ!」
「さあ?」わたしは、微笑んだ。「わたしね、あんたの、そういう、秘密。……たくさん、知ってるの」
(何周も、ループして、集めた、情報だ、とは。
言わないけど)
「で、話は、簡単」わたしは、言った。「取引、しましょう」
「取引……?」
「わたしの、頼みを、聞いてくれたら。あんたの、秘密は。誰にも、言わない」
森本は。
じっと。
わたしを、見た。
それから。
深い、深い。
ため息を、ついた。
「……で。何、させる、気だよ」
◇
ここが。
今回の。
分岐点、だ。
いつもの、わたしなら。
ここで、嘘をつく。
「不破に、恋してる」とか。
適当な、カバーストーリーを、でっち上げて。
森本を、事情も、知らせず、動かす。
……でも。
それが。
いつも、裏目に、出る。
森本は、鋭いから。
嘘の、綻びに、気づいて。
真相に。
たどり着いて、しまう。
――なら。
いっそ。
最初から。
本当のことを。
話して、しまえば?
◇
「森本」わたしは、腹を、括って、言った。「引くかも、しれないけど。……正直に、話すわ」
「……おう」
「わたしは」
わたしは。
まっすぐ。
森本を、見て。
言った。
「――腐女子、なの」
……。
……。
「……ふ?」
「腐女子。男の子、同士が。仲良く、してるのを、見て。尊いって、萌える、生き物」
森本は。
ぽかん、と。
口を、開けた。
「で」わたしは、続けた。「わたしは。この、学校の。不破と、日下部が。……くっつく、ところが。死ぬほど、見たい」
「……はあ!?」
「だから、二人を、同じ班に、して。二人きりに、して。仲良く、するのを。……こっそり、眺めたい。そのために。あんたに。周りの、男子を、誘導して、ほしいの」
……。
沈黙。
森本は。
しばらく。
わたしの、顔を。
まじまじと。
見つめて。
それから。
一言。
「……お前、やべえな」
◇
「知ってる」わたしは、胸を、張った。
「いや、胸、張るとこじゃ、ねえだろ」
「でも、これで、わかったでしょう。わたしが、あんたに、させたいこと」
「……不破と、日下部を、くっつける、手伝い」
「そう」
「それを、お前は、見て、楽しむ」
「そう」
「……趣味、わっる」
「うるさいわね」わたしは、言った。「あんただって。漆黒の、堕天使、でしょう」
「――それは、言うな!!」
……ふふ。
効く。
これは、本当に、効く。
◇
森本は。
頭を、抱えて。
うずくまった。
「……なんで、俺の、周りには。こう。……変なやつ、しか、いないんだ」
「あら、光栄」
「褒めてねえ」
それから。
森本は。
のろのろと。
顔を、上げて。
言った。
「……わかったよ。手伝う。手伝えば、いいんだろ」
「話が、早くて、助かるわ」
「その、かわり」森本は、指を、突きつけた。「俺の、ノートの、こと。……絶対に、誰にも、言うなよ。特に、東海林、には」
……ん?
「なんで、東海林?」
「……あいつ、幼馴染だからだよ」森本は、気まずそうに、目を、逸らした。「保育園の、頃から、知ってる。……そういう、昔から、知ってるやつには。一番、バレたくない、だろ。中二病、なんて」
……ふうん。
まあ。
わからなくも、ない。
(もっとも。
東海林は。
とっくに。
気づいて、そうな、気も、するけど。
……幼馴染って、そういう、ものよね)
でも。
深くは。
言わないで、おく。
(それに。
わたしにも。
東海林には、言えない、秘密が。
いろいろ、あるし)
◇
こうして。
わたしは。
初めて。
「事情を、知る、共犯者」を。
手に、入れた。
これまでの、森本は。
何も、知らずに。
脅されて、動く、だけの。
駒、だった。
でも。
今回の、森本は。
違う。
わたしが。
何を、狙っているか。
全部、知った、うえで。
(ドン引き、しながらも)
協力、してくれる。
……これは、大きい。
嘘を、つき続ける、必要が、ない。
綻びを。
気に、しなくて、いい。
森本には。
本音で。
「あそこの、二人、いい、と思わない?」って。
言える。
(まあ。
「思わねえよ」って。
返って、くるけど)
◇
……ところで。
一つ。
気に、なっていた、ことが、ある。
「バレたら、リセット」。
それが。
この、ループの、ルール、だ。
なのに。
わたしは、いま。
森本に。
洗いざらい。
自分から。
秘密を、ぶちまけた。
……なのに。
世界は。
歪んで、いない。
リセットも。
起きて、いない。
……なんで?
◇
少し、考えて。
わたしは。
気づいた。
――ああ。
そういう、ことか。
前の、ループ。
森本に、勝手に、見抜かれた、とき。
わたしは。
リセット、された。
でも。
今回は。
わたしが、自分の意思で。
明かした。
……この、差だ。
「見抜かれる」のは。
わたしの、意に、反して。
観測者の、立場を。
奪われる、こと。
――アウト。
「打ち明ける」のは。
わたしが、主導権を、握ったまま。
相手を、引き入れる、こと。
――セーフ。
つまり。
このループは。
わたしが。
「盤面の、支配者」で、あり続ける、限り。
続く。
立場を、奪われた、瞬間。
リセット、される。
……なるほど。
ふふ。
意地の、悪い、ルール。
でも。
わかって、しまえば。
御しやすい。
◇
――現時点の、ルールを。
整理して、おきましょう。
一つ。これは、わたしの、願望が、見せる、世界。
二つ。わたしが、心底、満足すれば、抜けられる。
三つ。思惑を、勝手に、見抜かれると、リセット。
四つ。ただし。自分から、明かして、引き入れる、ぶんには、セーフ。
……うん。
これで。
味方を。
増やせる。
堂々と。
共犯を、作れる。
……ふふ。
ゲームが。
少し。
やりやすく、なった。
……。
いい、質問。
でも。
答えは。
決まって、いる。
「関係なんて、ないわ」わたしは、言った。「ただ。……尊いから。それだけ」
「とうとい」
「そう。尊いの。理由なんて、ない。ただ、見たい。ただ、尊い。……それが、全て」
森本は。
しばらく、黙って。
それから。
呆れたように。
でも。
少しだけ。
笑って。
言った。
「……よく、わかんねえけど。まあ、頑張れよ」
「ふふ。ありがと」
……。
悪くない。
共犯者との、夜。
悪く、ないわ。
◇
さあ。
森本は。
味方に、なった。
これで。
一つ。
心強い。
でも。
まだ。
わたしの、計画は。
始まった、ばかり。
……そして。
わたしは。
まだ。
知らない。
もう一人。
とんでもない、味方が。
……この、学校に。
潜んでいる、ことを。
(第4話 了)
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【 湊ミライの ループ攻略メモ 】
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一、 これは わたしの願望が見せる世界
二、 心底"満足"すれば抜けられる
(満足=不破×日下部の尊さを見届けること)
三、 思惑を勝手に見抜かれたら即リセット
四、 ただし 自分から明かして引き入れた味方はセーフ ←New!
(=わたしが主導権を握ったまま なら続く)
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◆ 味方リスト
・森本 … 実務担当。中二病を握って協力させる。
(尊さは 分かってくれない)




