第2話 班分け大作戦
翌日の、放課後。
わたしは、森本を、空き教室に、呼び出した。
「で。何を、手伝えばいいんだよ」
森本は、心底、嫌そうな顔で、言った。
「そう、警戒しないの」わたしは、微笑んだ。「減るものじゃ、ないでしょう」
「お前に、手伝わされて、減らなかった、試しがない」
……ふふ。
まあ、否定はしない。
でも。
森本は。
まだ、知らない。
これから、自分が。
どれだけ、壮大な、計画の。
歯車に、されるのかを。
◇
説明しよう。
例の、グループワーク。
「学校の、歴史・沿革を、調べる」というやつ。
四人一組で、班を、組む。
で。
うちのクラスの、班分けは。
――自由。
好きな者同士で、組んでいい。
……これが。
味噌なの。
くじ引きなら。
わたしは、細工するしか、ない。
でも、それは、リスクが高い。
見つかったら、一発で、アウト。
(そして、ループ)
だけど。
自由選択、なら。
話は、別。
誰も、くじなんて、いじらなくていい。
ただ。
「そういう、空気」に。
持っていけば、いい。
不破と、日下部が。
自然に、二人で、組むように。
……周りから、埋めていく。
◇
「いい? 森本」
わたしは、黒板に、図を、描いた。
「うちのクラスで、班を、組みそうな、組み合わせ。だいたい、決まってるでしょう」
「まあ……仲いいやつ同士で、固まるわな」
「そう」わたしは、頷いた。「で。不破と、日下部は。どっちも、顔が広い。放っておくと、別々の、班に、引っ張られる」
「だろうな。人気者、だし」
「それを」わたしは、言った。「阻止する」
「……阻止?」
「不破の、周りと。日下部の、周りを。先に、埋める」わたしは、図を、指した。「二人の、逃げ場を、なくすの。そうすれば。余った、二人は。自然と、組むしか、なくなる」
森本は。
図を、見て。
それから。
ゆっくりと。
顔を、上げた。
「……お前、なんで、そんなことすんの?」
……。
きた。
この、質問。
◇
ここが。
勝負どころ、だ。
わたしの、本当の、目的――
「不破と日下部が、二人で、わちゃわちゃするのを、見て、悦に入りたい」。
これは。
絶対に。
悟られては。
いけない。
バレた瞬間。
世界が、歪んで。
全部、やり直し。
だから。
わたしは。
涼しい顔で。
用意した、嘘を。
口に、した。
「――わたし、不破のこと、ちょっと、気になってるのよね」
森本の、動きが。
止まった。
「……は?」
「だから」わたしは、頬に、手を、当てて。「不破と、同じ班に、なりたい、女子が。いるでしょう? わたしも、その一人。……でも、ライバルが、多いの。だから、先に、周りを、固めて。わたしが、不破の、班に、入りやすく、したいわけ」
……我ながら。
完璧な、嘘。
「不破に、恋する、乙女」。
これなら。
わたしの、工作にも。
筋が、通る。
(実際は。
不破を、日下部と、くっつけたいだけ、なんだけど)
「……へえ」森本は、意外そうに、言った。「お前でも、そういうの、あるんだ」
「失礼ね。わたしだって、乙女よ」
「乙女は、人の、弱み、握らない」
「……こほん」
◇
森本は。
まあ、いいや、という顔で。
頭を、掻いた。
「で。俺は、何すりゃいいんだ」
「あんたには」わたしは、言った。「不破の、周りの、男子を。別の、班に、誘導して、ほしいの」
「……なんで、俺が」
「ノート」
「……はい」
早い。
……ふふ。
従順で、よろしい。
「でも」森本は、言った。「俺一人じゃ、無理だぞ。そんな、何人も、動かせない」
「わかってる」わたしは、微笑んだ。「もう一人。……使える駒が、いるの」
「駒って、お前……」
わたしは。
空き教室の、ドアを。
すっと。
開けた。
そこに。
面倒くさそうに。
壁に、寄りかかって、いる。
男が。
一人。
「――田口」わたしは、言った。「入って、いいわよ」
◇
田口。
わたしの、幼馴染。
家が、隣で。
母親同士が、親友で。
小さい頃から。
腐れ縁の、こいつ。
「……なあ、ミライ」田口は、げんなりした顔で、言った。「俺、まだ、何も、聞いてないんだけど。なんで、呼ばれたわけ?」
「あら」わたしは、にっこり、笑った。「手伝ってくれる、って。言ったじゃない」
「言ってねえよ! 勝手に、話進めんな!」
……相変わらず。
うるさい、やつ。
でも。
こいつは。
わたしに、逆らえない。
なぜなら。
田口は。
昔から。
わたしに、頭が、上がらない。
小さい頃。
わたしに、言い負かされ続けて。
すっかり。
服従が。
骨の髄まで。
染み付いて、いる。
「田口」わたしは、言った。「あんた、御手洗さんのこと、好きでしょう」
ぶっ、と。
田口が。
むせた。
「――なっ……なんで、それ……!」
「幼馴染を、なめないで」わたしは、腕を、組んだ。「あんたが、御手洗さんを、見る、目。……気持ち悪いくらい、デレデレしてるわよ」
「デレ……!? してねえ!」
「してる」
「してねえって!」
……ふふ。
かわいい、ものね。
◇
……ちなみに。
わたしは。
一つ。
勘違いを。
している。
田口は、御手洗さんが、好き。
御手洗さんと、わたしは。
……顔が、似ている。
(昔から、なぜか、よく言われる)
だから。
わたしは、思っている。
――田口のやつ。
御手洗さんが、好きってことは。
顔の、似てる、わたしのことも。
本当は、ちょっとは。
いいと、思ってるんじゃ、ないの?
と。
……ふふ。
幼馴染だし。
まあ。
満更でも、ないんでしょ。
――だが。
これは。
完全なる。
勘違いである。
田口が、御手洗さんに、惹かれているのは。
あの。
不思議で。
つかみどころのない。
独特の、雰囲気。
「中身」に。
惚れているのであって。
顔なんか。
一ミリも。
関係、ない。
むしろ。
昔から、素のミライを、知っている、田口にとって。
ミライは。
――死んでも。
付き合いたく、ない。
「顔が、似てる」なんて。
むしろ。
御手洗さんに、失礼だ、とすら。
思っている。
……が。
ミライは。
それを。
知らない。
◇
「とにかく」わたしは、言った。「田口。あんたには、日下部の、周りを、担当してもらう」
「日下部の、周り?」
「そう。日下部と、組みそうな、男子を。別の、班に、流すの。森本が、不破側。あんたが、日下部側。……二人で、外堀を、埋めて」
「……いや、待て」田口が、手を、上げた。「なんで、俺が、そこまで」
「御手洗さんに」わたしは、微笑んだ。「あんたが、去年の、体育祭で、こっそり、彼女の、写真、撮ってたこと。……教えても、いいのよ?」
田口の、顔が。
真っ青に、なった。
「……鬼か、お前は」
「幼馴染よ」
「幼馴染の、皮を、かぶった、悪魔だろ」
……ふふ。
ひどい、言われよう。
でも。
これで。
駒は。
二つ。
揃った。
◇
森本と、田口。
二人を、使って。
不破と、日下部の、周りを。
じわじわと。
埋めていく。
誰にも、気づかれず。
自然な、流れを、装って。
……完璧な、作戦。
そして。
何より。
気分が、いいのは。
――この、ゲームに。
参加、できない。
二人が、いること。
◇
廊下で。
すれ違った。
御手洗さん。
相変わらず。
単色の、派手な、マフラーを。
巻いて。
ふわふわ、歩いている。
「あら、湊さん。ごきげんよう」
「ごきげんよう、御手洗さん」
……ふふ。
御手洗さん。
あなたは。
いま、受験勉強で。
それどころじゃ、ないものね。
このクラスの、班分けにも。
学校の、恋愛模様にも。
まったく。
興味が、ない。
……盤面の、外。
それから。
図書室の、前で。
見かけた。
五百旗頭さん。
難しそうな。
宇宙の、本を、抱えて。
何か、ぶつぶつ。
数式を、呟いている。
……あなたも。
探偵さん。
このゲームの、ことなんて。
何にも。
気づいて、いない。
……盤面の、外。
普段の、この二人なら。
侮れ、ない。
御手洗さんは。
ふわふわ、しているようで。
妙なところで。
人の、機微に、気づく。
五百旗頭さんは。
数字と、理屈で。
何でも、見抜いて、しまう。
……本当なら。
わたしの、企みなんて。
とっくに。
見破られて、いても。
おかしく、ない。
でも。
今回は。
違う。
御手洗さんは、受験で。
五百旗頭さんは、宇宙で。
二人とも。
頭が、いっぱい。
わたしの、盤面になんか。
目もくれない。
……そして。
このゲームの、ルールを、知っているのは。
何周も、ループしているのは。
……わたし、だけ。
わたしだけが。
一段、高いところから。
盤面を。
見下ろして、いる。
……ああ。
なんて。
気分が、いいの。
◇
「……なあ、湊」
森本が。
じとっと。
わたしを、見た。
「お前、また、なんか、すごい、悪い顔、してるぞ」
「あら」わたしは、慌てて、微笑んだ。「気のせいよ」
「ぜってー、気のせいじゃ、ない」
「ふふ」
「……こわ」
いけない、いけない。
顔に、出ていた。
……気を、つけないと。
バレたら。
――終わり、なんだから。
さあ。
作戦は。
動き出した。
あとは。
不破と、日下部が。
めでたく。
二人きりの、班に。
収まるのを。
待つだけ。
……ふふ。
楽しみ。
楽しみ。
(第2話 了)
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【 湊ミライの ループ攻略メモ 】
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一、 これは わたしの願望が見せる世界
二、 心底"満足"すれば抜けられる
(満足=不破×日下部の尊さを見届けること)
三、 思惑を勝手に見抜かれたら即リセット
(記憶を持ち越せるのは わたしだけ)
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※ 御手洗さん(受験)と五百旗頭さん(宇宙)は、
今回は盤面の外。出し抜くなら今のうち。




