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三話 私が守ってあげるからね。

それからしばらくして、メイドがスープと温かい紅茶を運んできた。

食事の匂いがした瞬間、彼は顔色を上げた。

余程お腹が空いていたのだろう。

彼の前に料理が置かれると、私は彼の前に座った。


「さ、食べて。お代わりもしていいからね」


男の子は厚い前髪から私に視線を送った。

まるで艶やかな珊瑚の玉のような、綺麗な目をしていた。

彼はおずおずとスプーンを持つと、そっとスープを飲んだ。

瞬間、体の動きが止まったと思うと、それから無我夢中でスープを飲んでいった。

食事を終えると、やっと落ち着いたのだろう。

少年は私の前を向いて、ぺこりと頭を下げた。


「……遅くなりましたが、本当に、ありがとうございます。こんなにも、たくさんのことを、していただけるなんて」

「ううん。気にしないで。勝手に助けただけだからさ」


少年の所作は、美しかった。

空腹のときでもスープを飲んでいる時、食器と食器が重なって音がすることはなく、今座っている時も背筋がすっと伸びていて行儀の良さが伺えた。


(もしかして、どこかの偉い貴族の使用人で、そこでひどい目にあって来たのかな? ブレプリの貴族って、クズ多いもんなぁ)


原作のドロデスだけでなく、ブレプリ内の貴族ってだいたいが権力で人に好き勝手するクズだ。

やれ増税による搾取をしたり、女を略奪したり……使用人や領民を虐待なんて日常茶飯事だもん。

きっと彼もそういった感じで逃げてきたんだろうな。


「君、お名前、言える?」

「なま、え」


そういうと、彼はまた黙ってしまう。

……自分の名前を言うことで前の主人のことを調べられると思ってるのかな。

しばらくして、彼は顔を上げた。


「ル……ルル、です」


きっとその名前は偽名だろう。

それでも私はそれ以上詮索することなく、どこから来たのかを聞いた。


「家が、貧乏で……生きていくために村を出たんです……他に家族もいないし……だから旅に出て」

「そうか……じゃあ、冒険者になりに?」

「はい。魔法には、自信があります」

「ルルくんは、いま幾つ?」

「……9歳です」


私は驚いた。

6歳か7歳くらいだと思っていた。

平均的な9歳児よりも小さいもの。


「ルルくん。私はこの領地の男爵で、ギルドマスターなの。そんな私からいうけど、君の歳ではまだ冒険者になれない」

「!? そ、そうなんですか?」

「なれても12歳からだよ。それでも16歳までは保護者の同行が必要になる。これは例外はない」

「……そんな」


ルルは見てわかるほどに、肩を落とした。

でもこの歳で魔法に自信があるってことは、やっぱりそれを利用されたのだろうか。

魔力の高い人間を奴隷にしようとしたり、自分の魔術の糧にする悪役も原作にいたしな。


(きっとこの子も、同じような目にあったんだろう。だから私に出来ることは……一つだけだ)


私はルルくんの手を取った。

まだ小さい子供なのに、その手は細く、骨が当たった。


「ルルくん。君を冒険者にすることはできない。でも、君が大きくなるまで守ることはできる」

「まもる? 私を、ですか?」


私の言葉にルルくんの紅色の瞳に光が宿った。

私は両手で彼の手を包み、その瞳に目を合わせる。


「私の領地には魔法を教えてくれる人もいる。だから安心してここで学んでくれればいい。君が強くなるまでは、この私が責任もって守ってあげるから」


ルルくんは目を潤ませて、その薄い頬に涙を伝わせた。

それから彼は「ありがとうございます」と小さな声で呟いて、ぽろぽろと泣き続けた。

私は思う存分彼を泣かせた。

それから使用人にルルくん用の部屋を用意させ、後日、魔術の講師に連絡を取った。


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