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二十六話 許せません!

手紙の内容は、こうだ。


――三人が待っているので、会いに行く。俺の顔を見れば絶対に思い出してくれるはずだ。


全く意味がわからず、自分勝手なものだ。


「彼は一体何なの? ……トーカさんだけじゃなくて『三つ葉』の皆に執着してるようだけど」

「わかりません。ただの付き纏いだったらこちらで対処できるんですが、王都のS級冒険者ですし、下手なことが出来ないですし……」


私は『三つ葉』の三人を見る。

彼女たちは嫌悪の念を抱きながらも、毅然とした目線でこちらを見ていた。

そして刀の鍔を胸に抱いたトーカが前に出て、私を見て言う。


「女将さん。私たち、その人に会います」

「トーカさん……」

「直接、聞き出さないと。どういうつもりだったのかって」


隣にいる二人もトーカと同じ気持ちだったようだ。


「わたくし達もトーカについていきます」

「ブリュレもいく。そのクソッタレの顔見てやりたいしね」


彼女たちは友人の為に怒り、立ち向かおうとしていた。

三人の絆を感じ私も意を決した。

王都のギルドの権力は、絶大だ。

そうだとしても止まる事は出来ない。

トーカたちはもう「自分が破滅しないために気を使わないといけない人物」ではない。

誇るべきテレーシアの冒険者であり、大事な仲間だ。

そんな彼女を傷つけられて黙ってはいられない。


「私もその面会に同席します」

「女将さん!?」

「立会人として私が同席します。例の冒険者の素性が知れない今、責任のある私が『三つ葉』の皆さんの味方として前に出る。そうすればあなた達に掛かる負担は少ないでしょう」


私は唾を握って、少し冷たくなったトーカの手に自分の手を重ねる。


「冒険者を守るのは、ギルドマスターの仕事です。どうか私を信じて任せて下さい」


トーカに私の想いが届いたのか、彼女はコクリと頷いてくれた。

ブリュレとエリチカも納得してくれたようだ。

そして、一週間後。

王都からシャドウがやって来た。

私は彼を応接室に通す。そこには『三つ葉』のメンバーも揃っていた。

待ち時間から少し遅れて、彼、シャドウは現れた。

傍らに二人の女性を伴って。

眩い金髪の貴婦人は赤いドレスを身に纏い、赤茶色のショートヘアにふさふさと毛の生えた耳を立てショートパンツから足をむき出しにしている獣人の少女はシャドウの腕を抱いていた。

二人の女性を、私は知っていた。

貴婦人はこの国の第三王女オルテンシア。

母親である側妃の身分が低い事とあまりに膨大な魔力を持ったことで腫物のように扱われ、事実無根の濡れ衣を着せられ追放された。原作では悲劇的な生い立ちに諦めていたが、主人公フィンたちの前向きさに感化され、彼らに協力していった。

獣人の少女はチータ。

獣人族の国から違法に連れて来られ奴隷として虐げられて来た闘士であり、悪しき貴族により隷属魔法で汚れ仕事をさせられて来た。そこを『四つ葉』に救われ、皆に忠誠を誓う義理堅い人物だ。

そんな彼女たちは今、原作ではありえないほど媚びた様子でシャドウに寄り添っている。


「ごめんごめん。俺一人で行くっていったのに、どうしてもコイツらが着いていくって聞かなくてさあ」

「当り前ですわ。旦那様を一人には出来ませんもの」

「そうだにゃんご主人様ぁ。ご主人様と他の雌が会うなんて許せないにゃん」


思わず声が出そうになる。

だって、原作でのオルテンシアとチータとは口調も全く違うのだ。

オルテンシアは威厳がありながらもあからさまなお嬢様言葉なんて話さなかった。

チータも本来は一人称がオレでぶっきらぼうな少年のような口調であり、こんな萌えキャラテンプレな話し方なんてしなかった。

どうしてこうなったんだ?

……ドロデスから女体化した私が言えた義理じゃないけど、原作から変わりすぎてる。

シャドウたちはドカリとトーカたちの向かいのソファーに腰かけた。

戸惑ってはいたが、責任者として私は口火を切った。


「では、シャドウさん。どうして『三つ葉』の皆さんと面会をしたかったのか、伺ってもよろしいでしょうか?」

「うん、そうだな。じゃあ、いよいよ顔を見せようか……」


勿体ぶった言い回しをして、シャドウは目深にかぶったフードを手に掛ける。

そしてそれを取り、素顔を晒した。


「え……?」


思わず声が出た。

頭頂部に葉っぱのようなアホ毛の生えた深い茶色の短髪。

くりくりした黒い目。

自信満々な笑み。

悪く言えば「ラノベ主人公の平均的な顔」であるその少年。

彼こそが、この世界、ブレプリの主人公であるフィンであった。

だが私以上に驚いていたのは、ブリュレとエリチカだった。


「お前……っ」

「あなたは……!」


二人の反応にフィンの顔をした男は手を叩いて喜んだ。


「やっと思い出してくれたか!? そうだよ、俺だよ。お前たちの勇者ことフィンだ! 迷い、虐げられ、自信を持てなかったお前たちの背中を押してやった、あのフィンだぜ! 会いたかったろ?」


その締まりのない笑みは、原作の屈託のない爽やかなフィンの笑顔とは全く異なっていた。

まるで自分と目が合った女は皆自分を好きだと勘違いしていたセクハラ野郎と同じだ。

アイツ、結局性根が直らなくて遠くに追い出したっけ。


「なにが勇者よ! ブリュレに馴れ馴れしく触って来やがったキモ野郎じゃん!」

「わたくしの体型を揶揄っただけでなく、背中を叩いてきただけでなく……ブリュレやトーカにまで無礼を働いたなんて……」

「それって、皆さんが男性不信になった出来事の犯人……?」


彼女たちの言葉に、私も驚く。

トーカの父の形見を盗み。

ブリュレに触り。

エリチカの背を叩いてセクハラ発言をした。

そんな最低な男が同一人物で、目の前にいるだなんて。

当のフィンは責め立てる彼女たちを見てもきょとんとした顔をして小首を傾げるだけだった。


「なんでそんな態度してんだよ……ブリュレがツンデレなのはわかるけどトーカやエリチカまでそんな顔するなんてさぁ。知ってんだぜ? 俺が頭撫でたらお前らはすぐ俺に惚れちゃうの。あ、もしかして、俺が他の女たちと一緒だから嫉妬してんの? しょうがないじゃん。原作の悲劇を回避するために、俺はあちこちでチート能力を集めて来たんだ。オルテンシアとチータが先に味方になったけど、お前らのことを忘れたことなんて一度もねえぞ? その誓いもこめて子供のころのお前らに会いに行ったんだろぉ? トーカのお父さんの形見だって、いずれトーカが自分からくれるんだから、ちょっと時期が早まっただけじゃんか。そのお陰で、俺はすぐにS級冒険者になれたんだぜ? 褒めてくれたっていいのになぁ。さ、こうして会えたわけだし、俺と一緒に王都にいこうぜ、みんな。俺の事待っててくれたんでしょ? 俺が来るのを待って、テレーシアなんかで待っててくれたんだろ? でも大丈夫。もう俺がいるんだから。これからは皆で仲良く暮らそうぜ? 勇者になるには、お前らの助けがいるからさ」


そう長々と意味の分からないことを言ってニチャリと笑って手を差し伸べる。

……いや。

原作の記憶を私は思い出す。

トーカが自分の父の形見である刀の鍔をフィンに渡すシーン。

それはテレーシア領での一件が片付いた時に、フィンを心からリーダーとして認めてトーカが渡していた。

その鍔には雷神の加護が付いており、それを受けたフィンは更に活躍する。

目の前のフィンに似た男、シャドウは「トーカの形見を貰う時期が早まった」と言っている。

そんな事を知っているということは、もしかして、この人は……


「ふざけるな!」


バンッ、と机を叩いてトーカは立ち上がる。

彼女はブリュレとエリチカと並んで目の前の男を睨みつける。


「私や父、そして仲間たちだけでなく……女将さんを……私たちの背中を押してくれた恩人と、その人の治めるこの土地を侮辱するなど……! 許せるわけがないだろう!」

「あんたと同じ空気吸う王都に行くくらいなら、肥溜めでもテレーシアにいるほうがマシだっつーの!」

「わたくし達は三人で一つ。そんなわたくし達を支えてくれるのが、女将さんを始めとしたこのテレーシアの人々なのです! わたくし達に、あなたのような人は必要ない!」


彼女たちの言葉に胸が熱くなる。

彼女たちにとって私、そしてこの領地も大切な存在になっていたんだ。

こんな状態でも、嬉しいと思う。

最早ただの取り巻き女と化したオルテンシアとチータは「旦那様に何と無礼な!」「ふざけるにゃん!」とキャンキャン喚く。

私は意を決し、堂々と言い放つ。


「シャドウさん。これが彼女たち『三つ葉』の意志です。彼女たちは我らテレーシア領の冒険者。王都には行きません。これで面談は終了でよろしいですね?」

「……は?」

「あなたがかつて彼女たちに働いた無礼についても、無視できません。今この場で、謝罪していただけないでしょうか?」


自分の管理下である王都のS級冒険者に頭を下げさせたとなれば、ポワソンは黙ってないだろう。

本気で私を潰しに来るかもしれない。


……そんな事、怖がってられるか。

今私に出来る最大限の事をするだけだ。

この馬鹿野郎に、トーカたちに謝罪をさせる。

傷ついた心は戻らなくても過去との決別くらいにはなるはずだ。

その為にも堂々とした態度で彼の前に立つ。

絶対に引いてやるものか。

シャドウと名乗っていたフィンは俯いてカタカタと肩を震わせた。

そのまま謝罪するかと思ったが、違った。

顔を上げた、彼の顔。

その目はまっすぐに私を向いて、憎悪の炎を燃やしていた。


「お前のせいか……ドロデスうぅぅぅっ」



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