二十四話 ……誰?
そこには黒いローブを纏い、フードを目深にかぶった少年がいた。
身体つきと声から察するに年頃はルルくんと同じくらいだろうか。
しかし初対面で敬語使わないとか……
まあブレプリの世界の民度だからね。しょうがないわ。
「そうだけど」と言う前にルルくんが前に出た。
「こちらの名を聞くなら貴様から名乗れ」
うわ。
声にめっちゃ棘がある。
怒ってるなあ……
ローブを着た少年は、一瞬固まるものの「やれやれ」と呟いて答える。
「そんなキレるなよナイトくん。ちょっと質問しただけじゃないか」
そして少年はローブから冒険者証書を出して私たちに見せる。
「俺はシャドウっていうんだ。よろしくな」
シャドウ。その名で思い出す。
確かポワソンが管理をしている王都のギルドで活躍しているという新進気鋭の冒険者がそんな名前だった気がする。
(あ~。王都の冒険者だから地方のギルマスを見下しちゃうのも無理ないか。あのポワソンさんの下にいるんだし)
彼が自己紹介したので私も自分の身分を明らかにする。
「始めましてシャドウさん。私はテレーシア領の領主でありギルドマスターであるドロシー・テレーシアです」
私が自己紹介をすると、シャドウは固まった。
まるで変なことを聞いてポカンとしてるかのように。
「は? なんで? だって確かアイツって一人っ子だったよな?」
「シャドウさん?」
「ああ、ごめんごめん。質問なんだけど、アンタってお兄さんか弟いる?」
なんだコイツ。いきなり家族構成聞いてくるなんて。
あ……もしかして男の人が好きな人で、身分のある男性には媚び売るような人なのかな?
あんまり褒められたことじゃないけど、そういう生き方をしてる子もいるからなぁ。
「いえ? 私に兄弟や姉妹はいないよ?」
「……そ、そっか」
それからまたシャドウはぶつぶつと独り言を言い出す。
「は? なんで? テレーシアはあのクソがギルマスとして支配してて、みんなが俺の助けを求めているはずなのに。え? またバグ?」
そんな様子をルルくんはまるで虫けらでも見る様な冷たい流し目で見ていた。
「ドロシー様、もう行きましょう。あんな無礼者にこれ以上構う事ありません」
シャドウの耳にも入るだろうにはっきりと言い放ち、ルルくんは私の肩を抱いてその場を去ろうとする。
だが突然シャドウは声をあげた。
「ああ! これだけ聞いていい?」
「なにかな?」
「アンタのとこの領にトーカとエリチカとブリュレって冒険者いるだろう? 彼女たちの宿ってどこ? 彼女たちと会わせて欲しいんだけど」
『三つ葉』のファンなのかな?
でも法律で冒険者たちの個人的な住所を教えることは禁じられてるし、きっぱり断ろう。
「それは個人情報なので出来かねます。ご了承ください」
「そんな! そこをお願いしますよ! 俺と彼女たちは特別な絆で結ばれているんだ!」
「でも、これは法で禁じられていますから。王都でも同じだと思いますよ?」
「法律が何だっていうんだよ! 俺に会えないトーカたちを救うためなら、そんなの糞くらえだ!」
ええ~。
法律や決まりより自分の話が大事って言ったよこの人。
もしかして貴族子息なのかな? 特権階級意識やば。自分以外どうでもいいわけ?
「テレーシア領のギルドマスターの言う通りだ。失礼する」
「! 待てってえ! な、なら、せめてこれだけトーカに渡してくれよぉ!」
甲高く叫ぶシャドウが私に駆け寄る。
彼が私に渡したのは中央に細長く型が抜かれている円形の金属だった。
それは刀の鍔だったと、前世の記憶でわかった。
私がそれを受け取ると、同時にルルくんが早歩きでその場を去っていく。
「『四つ葉』の皆に伝えてくれよ! 俺がもうすぐ会いに行くって!」
シャドウの声がしたがルルくんは振り返る事も許さず、レストラン街に向かった。




