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十四話 『婚約者』の正体

翌朝。

私はルルくんの部屋を訪ねた。


「ルルくん、おはよう」


返事は帰ってこない。

朝日がシーツに包まれた彼の体を照らしていた。

私は彼の手を取って、その指をゆっくりと曲げる。肘や膝も同じように曲げては伸ばしていく。

昏睡状態の人間が目覚めた時に体が鈍らない為のマッサージを、医者に教えてもらった。

彼の体をほぐし終わり、もう一度ルルくんに声をかける。


「じゃ、私は仕事に行ってくるね。行って来ます」


そう言って私は集会所に向かった。

ギルドでの仕事は変わらない。ただ、ルルくんがいないせいか少しばかり人の活気が少ない気がした。

『三つ葉』の皆もまだ聴取を受けているのか、それとも責任を感じてか来ていない。

事務仕事をしていると、冒険者の会話が耳に届いた。


「やっとゴーマンのヤツが居なくなったか。このギルドも平和になったぜ」

「パーティー内での私闘はご法度だし、それに永久剥奪になるレベルのことしたんだって?」

「一緒に組んだ女の子の飲み物にクスリ盛ろうとしたんだってよ。それで手籠めにするつもりだったらしいぞ? そこまでゲスだとはなぁ」

「それに気づいたルルが止めなかったどうなってたか……早く戻って来て欲しいもんだ」


例の話はやはり話題になっている。

そりゃそうだ。

冒険者の人も、受付嬢も、それとなく私を気遣ってくれるのがわかった。

まあ、私はルルくんの保護者だから、心配してくれてるんだろうな。

昼休み。

私に古参の受付嬢が二人近づいてきた。


「女将さん……今日は私たちに任せて、早く帰って下さいね」

「そうですよ。なるべくルルさんの側にいてあげてください」


そんな二人に、私は笑う。


「ありがとう。でも大丈夫だよ。私だけ抜けるわけにもいかないし」

「何言ってるんですか! ルルさんにとって女将さんがどんなに大事な存在かご存じでしょう!?」

「そんな大袈裟な……確かにルルくんはテレーシア家の養子だし、家族だけど……」


そういうと、受付嬢の一人が私の手を取った。

そして真剣な眼差しで言うのだ。


「だってルルさんは女将さんの婚約者でしょう!?」


?????????

彼女の言っている意味がわからなくて、固まってしまった。

え? ええ?

なんで私がルルくんの婚約者ってことになっているの?

どうしてそんなことになってるの?

てか、私の婚約者って、公爵家の人間ってことになってたよね?


「あの、どういうこと?」

「もういいんですよ! 隠さなくって!」

「前男爵ご夫婦の前でルルくんが血華を披露して、自分の本当の身分を明かした時『その時が来るまでは御内密に』と言っていたので、これまで私たちも黙っておりましたが……今は緊急事態です」


え!?

あの謎の公爵家の人間って、ルルくんだったの!?

でも両親の前で血華を出せたってことは、本当に公爵家の人間なんだよね。

だったらどうして私に言わなかったのだろう、と思いかけて、私は彼との出会いを思い出した。


(原作での公爵家も結構なクズで腐敗してたからな……もしかして妾腹とか私生児で、虐げられながら育ったとか、なんじゃないかな?)


ルルくんの出生には納得したが、まだ謎が残る。

どうして両親に自分が公爵家と血が繋がっていると言ってまで、私の婚約者だと嘘をついたんだ?

あの人達が私にお見合いを急かすから助けるつもりで言ったの?


「公爵家の血があるからこそ、あれだけの強さがあるわけですよ……そんなルルさんが女将さんに恋して、是非婿入りしたいと言ってくれるなんて……まさに運命ですよ」

「事情があって出奔したとは言え、高貴な血を引いたルルさんが婿に来てくれることを、大旦那様たちはひどく歓迎して、祝福してくれましたよ。持参金はしっかりと払ったし、後はルルくんの成人を待つだけ」

「私たち、もう女将さん達の結婚式の用意してありますから。皆でカンパしたし!」

「ちょっと、それは言わないことになってるでしょ!?」

「あ! そうだった。この事は忘れて下さいね、女将さん! とにかく、今日は早く帰ってルルさんの所へ行ってくださいね?」


きゃっきゃっとはしゃぐ二人に、私は固い笑みを浮かべるしか出来なかった。

その後、どうやって仕事を終えたか覚えていない。

終業時間になって、私は従業員の皆の無言の圧を受けて館に帰っていった。


(わかんないことだらけだよ。起きたらルルくんに聞かないと)



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