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彼女の発見

 見つけることはできても、発見はできない。

 この言葉を聞いて、みんなはどう思うだろう。ちょっと頭にクエスチョンマークが浮かんじゃったりしなかっただろうか?

 発見という言葉は「存在はしていたけれども、今回はじめて見つけた」というニュアンスを持つ。二度目以降は発見ではなく、ただの「見つける」にスケールがダウンしてしまうわけだ。

 一番手になることは、多くの人にとって魅力だろう。まさに選ばれた者でなくてはなることのできないステータスのひとつ。二番手、三番手と続いていけば、その新鮮さはたちまち陳腐なものになり、独特の輝きを失ってしまうだろう。

 見つかったものについても、ただ一つのうちならいいが、どんどんと見つかっていくと、替えがきくからと扱いが雑になる。ひいては乱用、乱獲の果てに真の絶滅の危機を迎えるやもしれない。発見とは、ある意味で終わりのはじまりともいえよう。

 ゆえに私たち、「見つける」でおさまっているうちは平和でいられるかもしれない。まどろむほどに退屈でもあるだろうが。

 そこへ「発見」があったとしたら、ことが動く。なにも世界全体レベルでなくとも、これまでとは異なる何かが起こる。それをみんなは望んでいるだろうか。

 見つけると発見についての、先生の昔話。ちょっと聞いてみないかい?


 まだ先生が幼稚園にあがって、間もないことだった。

 当時、家の近くに住んでいた子たちとよく遊ぶ機会があって、そのうちの一人が土いじりの好きな女の子だったんだ。

 時間を見つけては、片手で握れるシャベルを持ってあちらこちらの土をほり返していたなあ。

 彼女は土の中から、石を探すのが好きな子だった。先生の目からすると、無差別な掘り返しにしか思えなかったが。暗い色、明るい色の別なく、シャベルの先に乗せられるような大きさのブツを見つけるや、しげしげとそれを眺めていく。

 彼女は、先に話した「発見」を求めているようだった。まだ誰も見たことのない、日の目を見ない石。それらを探り当てることに、熱中していたなあ。

 けっこう成果を見せびらかしてくる子でもあったから、協力を申し出たことも何度かある。困っている人がいたら、力になってあげなさい、としつけられていたからなあ。


 でも、彼女は頑として断ってきた。「発見」が失われるかもしれないから、と。

 先生という、人手を増やしたことで、その第一発見が先生に奪われる恐れが出てくる。もしそうなったら、自分が許せないだろうから、と。

 善意からの申し出を断られる、というのは当時まだ人生経験の浅い先生には、ショックだったなあ。

 だが彼女は土を掘り出したら、それこそ自分で区切りをつけるまで、わき目もふらずに作業へ取り組み続ける。手伝いが手伝いとして機能せず、邪魔になる可能性は大いにある。

 いずれ彼女のおめがねにかなう「発見」があるのだろうか。そのようなことを考えながら、ときに彼女から報告を受け、ときに作業している背中を見ていた先生だったのだけど。


 夏の日暮れどきのことだった。

 すでに午後6時を回っていたが、空はまだ明るさを残していて、彼女もまた外で土をほじり返していた。

 あちらこちらへ出張しては土を掘る彼女だけど、自宅の敷地内の庭を掘ることにも余念がない。そうしている姿を見るのも、先生にとっては日常茶飯事で、このときも仕事している彼女を2階からぼんやり見下ろしていた。

 ちょうど、見たいテレビ番組などもなく、ぼけぼけしているついでだ。じっと見張っているわけじゃなく、そっぽを向いている時間のほうが長かったけれど。


 そのそっぽを向いていたときだ。

 にわかに先生は、片頬に強い光と熱を受ける。ちょうど、彼女が土を掘り起こしていた方向からだ。

 顔を向けると、彼女が掘っていた穴から白みをふんだんに帯びた黄色い光が放たれていて、そのまばゆさは思わず目を細めてしまうほどだったよ。

 穴の脇にひざまづいていた彼女は、その光の中でバンザイをしながら喜んでいる。


「見つけた、見つけた!」


 そう騒ぐ彼女の背中に、放たれている光の一部が取りまいたかと思うと、まるで蝶を思わせる一対の羽の形を帯びる。

 その羽がわずかに羽ばたいたかと思うと、彼女の身体はすうっと空へ浮き上がって、そのまま濃くなりはじめた、夜の中へ消えていってしまったんだ。シャベルと、その脇へ掘られた穴を残してさ。

 穴からはもう、あの強い光はすっかり消え去っていたんだ。


 あの子がいなくなったことそのものは、当時のあそこへ住んでいた人ならみんな知っていること。

 けれども彼女の家族はというと、いくら問い詰めても、最初から彼女がいなかったかのように振る舞ってさ。彼女がいた証明となるものも、片っ端から処分していってしまったんだ。

 少なくとも、いま彼女のゆくえを追うすべは何も残っていないはずだ。人間のなすことができる方法では。

 でも、もしもあのときの彼女のような「発見」が、まだどこかにあるのならば。再会することもできなくもないかもしれない。そのとき、何が起こるかは予想ができないけれどね。

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