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蛇面ドウ

 わ~、このラーメン屋もずいぶん大胆にリニューアルしたねえ。食券制で長く頑張ってきたけれど、いよいよタッチパネル式を導入か。やはり、こちらのほうが効率良くなるんだろうかね。

 何を新しくし、何を残していくか。

 経営に限った話ではなく、あらゆるもので大切なことだ。どれもこれも同じにしてしまったら、個性がなくなってしまいお客などをつかむのはギャンブルになっていくだろう。

 自分が大切にするものと、相手が大切にしているもの。これがうまく合致したときこそ、太いパイプができあがり将来の発展にもおおいに役立つだろう。

 格別、大事にしているわけでもないように感じる、普段使いのものだと、そのあたり実感が薄いかもしれない。でも普段から使うってことは、それだけ必須というわけで重大問題にもつながりかねないもの。

 それらの補修に関する、奇妙な話をちょっと前に友達から仕入れたんだ。聞いてみないかい?


 蛇面ドウ、という生き物をつぶらやくんは知っているかな?

 人面犬の亜種とされるが、この「ドウ」という生き物はヘビのように長い胴体を持っていることが特徴であり、名の由来とされる。

 ならば、なぜわざわざ「蛇面」などと、ことわるのか。普通のヘビとは異なるのか。

 ごもっともな意見だと思う。あくまでヘビによく似たツラをしているだけで、別の存在であることは確か。

 その大きな違いとして、蛇面ドウは舌を出す動作をめったにしない、という点だ。

 知っての通り、ヘビは舌を出すことで周囲のにおいをかいでいる。においの粒子を下に集め、口の中の器官へ持っていくことにより、情報分析に役立てる。視力や聴力で、他の生き物に後れをとることもあるヘビたちにとって、重要な判断材料だ。

 しかし、蛇面ドウにはそれがない。舌を出すことなく、しかめっ面のままで地面を滑っていき、茂みから茂みへ。物陰から物陰へ、移動を繰り返す存在とされている。


 ――別にそれだけなら、ほっとけばいいだろ? たいした問題にならない?


 これまた、ごもっとも。

 ただ近所にいる生き物のひとつにすぎないだろう。この程度だったら。

 でも、友達が体験したという話は、もうちょい深くへ突っ込んでいくんだ。


 蛇面ドウを見た、という声がにわかに広まったのは、夏休み明けして間もなくのこと。

 学校に通っているみんなの家の近くで、目撃したという声がぽんぽん飛び出てきた。

 友達も数日前に、自宅近くで蛇面ドウを見ている。隣の家へ回覧板を届けにいった戻りで、家の縁の下からニュッと顔を出したそうなんだ。

 その顔は真っ白くひび割れていて、胴体は真っ青。身体の細さも日用品のホース程度のもの。

 友達が驚く間ににょろにょろと地面を泳ぐや、近くの草むらの中へ身を隠してしまった。けれども、その直前に少し奇妙な行動を見せた。

 蛇面ドウが顔を家の壁へ向けたかと思うと、いったん大きく口を開いたんだ。その開口の大きさたるや、友達のこぶしどころか顔がまるまる入ってしまいそうな大きさだったとか。

 ほんのわずかな間のこと。何かを食べたり、とらえたりする様子もなく、口を閉じた蛇面ドウはすみやかにその場を去っていった。


 同じクラスの子も、同じように口を開く蛇面ドウの姿を見たという。

 その動きが何を意味しているのか、様々な説が飛び交ったものの、結果は昼休みに入ってほどなく、もたらされた。


「蛇面ドウが出たよ!」


 その声に、色めき立つ生徒たち。

 友達も興味が湧き、先に動いた子へついていく。どうもグラウンドの正門から堂々と入ってきたらしい。

 昇降口を出る前からでも、遠方にある人だかりから居場所はすぐに分かった。友達が駆けつけてみると、家で見つけた個体と同じような面構え。青い胴体と真っ白い顔を持ったそいつがいたんだ。


 すでに包囲網ができあがっているというのに、蛇面ドウは逃げようとしなかった。むしろ、より学校の敷地内を奥へ入らんとする方向へ、身体をくねらせていく。

 ヘビのたぐいは遠巻きに見るのはよくても、いざ寄られると驚いてしまう人もいる。蛇面ドウを通せんぼしようにも、それらの人から生まれるわずかなほころびも見逃さず、滑り込んでいく。

 友達も包囲網へ参加。ヘタに踏んづけて足を止めようとしても、ダメだ。それがほんのわずかな間の地面離れであっても、蛇面ドウは見逃さず、できた抜け穴へ滑り込んでいってしまう。

 向かわんとしている方角は、おおよそ見当がついた。グラウンド隅の体育倉庫へ、どうにか回り込んででも向かおうとしている。

 そうは問屋がおろさないと、有志たちによるディフェンスの壁が作られて、何分間もの通せんぼがされていたのだけど。


「――みんな、そいつを通してやれ!」


 大人の声。ジャージの上下に身を包んだ生徒指導の先生が、みんなの輪の近くまで来ていた。

 反射的に包囲は緩み、その機を逃さずに蛇面ドウは体育倉庫へ滑っていった。その速さは、全力で駆けても追いつけるか怪しく思うほど。

 あっという間に、倉庫の壁横へたどり着いた蛇面ドウが、友達が自宅で見たような大口を開けるところ。

 そして、体育倉庫が積み木か何かであるかのごとく、たちまち崩れ去ってしまうところだったのは、ほぼ同時のことだったとか。

 上からこぶしで殴られたように、中央から落ち込むように崩れていった小屋は、みんなの目の前でがれきの山と化した。ただ、蛇面ドウが開いた大きな口を受けた、壁の一角をのぞいてだ。

 小屋のてんまつを見届けると、蛇面ドウはさっと手近なフェンスへ向かい、そのすき間から抜け出て、どこかへと姿を消してしまった。


「蛇面ドウはな、ときおりああして『寿命』を伸ばしてくれるんだ。建物たちのな。あいつの吐息を受けられたものは、向こう数年間は無事でいられる。あの倉庫も間に合っていればな……今回のことで、機嫌を損ねないといいんだが」


 生徒指導の先生はそう話していたみたいだ。

 友達はそれ以来、蛇面ドウを見かけずにいるという。

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