塞ぎ選び
う~ん、この暑さもそろそろおさまってくれると、助かるんですけどねえ。
髪を短くしたはいいですけれど、汗をかくことに変わりはなくって。自分の身体がちゃんと機能してくれているのを感謝しつつも、うっとおしさはぬぐえず。一生、付き合い続けていくとなると、気のつかいかたも考えないといけません。
いや~、なにもせずに生きていきたいのに、向こうから付きまとってきますから、対応してあげないとゆくゆくはこちらが被害をこうむる。世の中、怠惰なものには厳しいんですね~、どこもかしこも。
先輩も、細心の注意を払ったほうがいいですよ~? いや、注意を払ってもどうにもならないこともあるかもですね。アウトオブ想定なことをされると、どう対応していいか分からないですから。
私の場合ですか? 私はまだそのようなことはありませんけれど、おじさんに関しては少しやっかいな目にあったケースがあるようですよ。
興味があったら、ちょっと耳に入れてみませんか?
おじさんが中学生くらいのことらしいです。
当時のおじさん、まわりに比べていっとう小柄だったらしいんですよ。なんでも小学校五年生の時分から、さっぱり背が伸びていなかったようで。
まわりが成長期で何十センチも伸びることも珍しくない中での停滞。整列のときの最前線を張るまで、時間はかかりませんでした。
男子にとっては、悔しいところだと思います。自分がはっきりと後れをとっていると、認めるのはしんどいでしょうし。成長期はこれからだと言い聞かせて、将来のための方策を練るのが妥当な線かと。
しかし、おじさんの悩み事は低身長だけではありませんでした。
まずは足。
特にぶつけた様子もないのに、朝起きてみるとおじさんの足裏から膝にかけて、青あざだらけだったときが、たびたびありました。
次に頭。
同じく起床時に、頭が汚れていることが多いのです。枕をあらためると、黄色いフケらしきものが散らばっていて、汚らしさを演出しました。その臭いは生ごみのかたまりをいくらか希釈したようなもの。
最後に体。
これらの異常がみられるとき、決まって全身が猛烈にだるいのです。取れるべき肉体疲労が全然解消されていない。そんな気持ち悪い気分だったとか。
足の部分に関しては、指圧しても特に痛みを覚えることもなく。アザ自体も24時間でほとんど消えてしまう有様だったみたいですね。
頭に関しては一過性。朝にこれらを取り除いてしまえば、昼間に出てくるようなことはありません。なのでフケのように身体のうちから分泌されるようなもの、とは考えづらかったようですね。
――誰かが俺の身体でいたずらしている?
おじさんがたどり着いた結論は、それでしたね。
寝ている間の自分が、何かしら好き勝手されている。念のため、部屋の戸締りをしっかりするようにし、備えていたようなのですが。
その晩、おじさんはにわかに体をゆすられて目を覚ましたそうです。
まず感じたのは、息苦しさ。布団を頭からかぶったときよりも、もっとひどい。電源を入れた、かっかと温まったこたつの中へ体を突っ込んでいるかのようです。
冬場ならともかく、いまは夏場。これだけでもおじさんにとっては不快の極みだったそうですが。
そこへどっと、頭へ別の熱が注がれます。細かい粒となって頭を打つそれらは、朝になると嗅ぐ生ごみの香り。ずっと強烈なものでした。
そして足より駆けあがるは、痛みさえ感じる振動。刺されるよりも、絶えず殴打されるかのようで、こうしている今も無数の拳を振り下ろされているかのよう。
これはたまらない、とおじさんは必死に暴れたみたいです。
最初のうちはなんとも好転しなかった感じでしたが、やがて体全体がずれていくような感触。ほどなく、足のほうからずるりと抜けたかと思うと、おじさんは中空へ投げ出されてしまったそうなんです。
薄暗い空は、星も雲も一切が見えず。ただ大きな梁が一本渡してあり、どこかの部屋の中らしいことは分かりました。ただし、おじさんはそこにおいて毛虫程度の存在感しかないものだとも。
おじさんは、とある穴からずれ落ちていたそうです。それはとてつもなく大きい人の、「耳の穴」。その頬の横を自分は落ちているのだ……と察した時に、自分の部屋で目が覚めたそうです。
頭にはあの臭みがするものが、たっぷりついています。足はやはりアザだらけでしたが、今回は先ほども感じた痛みが残っていたのだとか。
おじさんが大きくなるにつれて、無くなっていったらしいのですが、いまだ正体もつかめていないことらしいですよ。




