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残しの心

 ふーん、ここに建っているお城っていうのも、現物がそのまま残っているわけじゃなく、建て直しなんだな。

 時代劇の撮影なんかでも使われるらしいが、このあたりはいかんともしがたいってところか。昔ながらの建造物、守っていくのは並大抵のことじゃないみたいだしな。

 そうして力及ばず、崩れ去ったものはどうなるだろうか?

 多くは、その業務を負ったものによって、いずこかへかたされてしまうだろう。しかし、物の形はなくなっても、志までが消えるとは限らない。俺たちも注意をしておいた方がいいかもしれないな……。

 俺の昔の話なんだけど、聞いてみないか?



 もう十数年くらい、前になるだろうかね。

 家の近くに建っていたお住まいが、取り壊されることになった。

 先祖代々の土地持ちで、当代でも県議会議員を勤めていたことのある人が住まう、お屋敷だったんだ。

 シートで囲ったのち、何日にも渡る工事を経て、その一帯はほぼ更地と化してしまった。

 工事の計画も入っていたらしい。

 これまではこの敷地の入り口が邪魔して、県道はT字に分かれるばかりだった。それが、このお屋敷のあった敷地にまっすぐ道路を通す十字路にすることによって、回り道の時間が大幅に短縮される。

 お屋敷の持ち主がどう思っているか分からないが、大勢にとってはありがたいことだろう。ありがたいことだったが……異変は数日後から起こった。


 かのお屋敷があったところより、数百メートル先にある信用金庫。その高さは周囲の家屋を大きく越えて、あたかも山のようにそびえたっていた。

 周囲を圧する、縦に長い長方形の威容。それが、この日はひしゃげていた。

 向かって右端の角が、フロア半分ほどいびつな形でへこんでいたのさ。こうべを垂れた角は黒くゆがみ、自分の申し訳なさに顔色を悪くしているかのようだ。

 連動して、建物の窓たちも割れている。消防隊が非常時に侵入する経路となる隅の窓が、上階から下階にいたるまで見事なくらいの粉みじんだ。

 営業はしているようだったが、しばらくは見れた姿でないものになるのは確かだろう。


 その一件だけじゃない。

 よその背が高い建物も、軒並み同じような損傷を受けていた。

 家の一角をおおいにゆがませ、傷ませて、その直下の窓を破り、壁をヒビ割らせる。

 店なら立派な営業妨害だろうが、その犯人を誰もがはかりかねていたよ。怪しい人影というベタな手掛かりはなく、損壊の直前までそれらしい仕掛けは見つかっていないんだか。


 そのうち、俺の友達の家が所有している倉庫もやられた。

 なぜ知っているかというと、その倉庫に眠っていた使い古しの雀卓こそ、俺の麻雀キャリアの始まりだったからだ。

 麻雀のルールを覚えたとき、実際に牌を触りたくてたまらなくなってな。同志たちで集った際、あてをつけてくれたのがその友達で、案内されたのがかの倉庫というわけさ。


 元より、道路に面した三階建ての建物で、かねてより存在は見知っていた。それが友達の家のものとまでは把握していなかったが。

 その二階の奥まった場所、周辺の置物をかたして確保したスペースに俺たちの卓は存在していた。

 親からも正式に許可をもらっているということで、俺たちは面子がそろう日の放課後なんかはそこへ入り浸り、門限ギリギリまで対局としゃれこんでいたものさ。

 その倉庫が、これまでの建物たちと同じような被害を受けたんだ。

 またその時も雀卓目当てで赴いたおり、同じようにみんなで倉庫の入り口から入ったところ。


 上階から物音。みんなしてびびって肩をすくませちゃったね。

 ここは管理している友達の親も、年に数えるほどしか入らないとされる場所で、これまでの経験上、無人であるこの空間しか知らずにいた。

 それが急に音を立てるなら、警戒せざるを得ないわけで。

 しかも、これが物の山が崩れたとすぐ察せられるものなら、まだよかった。けれども、音はなおも大きさを増すばかりか、より揺れの源が近づいてきているように感じられたんだ。


 下りてきている。

 屋根を越え、三階を破り、二階を貫いて。源は確かに俺たちの立つ一階へ達した。

 あたりへ雑多に、山のように積まれた段ボールが震える。奇跡的なバランスをたもっていた山のてっぺんが崩れると、中腹にかけてもそれにつられて降り落ちるよりなかった。

 巻き起こる、茶色くてほこりっぽい雪崩から、身をかわすので精一杯な俺たち。そうこうしているうちに、山三つほど向こうで響いていた音源は、とうとう床へ達したらしい。

 ひときわ大きい地震。

 それは周囲の山々へとどめを刺すには十分で、落ちた拍子に古いビデオデッキや工具類、その他シロウトの目には何に使うか分からない破片たちが、次々と足元へ転がった。


 誰一人ケガがなかったのは、幸運というよりない。

 瞬く間に平地と化した倉庫内。そのために、俺たちは先ほどよりもはっきりとらえることができた。

 ここより奥まった一角の天井に、人が頭を出せるくらいの穴が開いていることを。

 ほこり立つ中でも興味はおさまらず。つい箱たちの間をすり抜けて、穴の真下まで行ってしまったよ。

 コンクリートでできた床にも深々と埋まっていたのは、黒い塊。まじまじと見つめて、それが年代物の建物に使われるような、瓦の一部だと俺たちは見て取った。

 トタンをメインとしたこの倉庫には、およそ似つかわしくない建材。剥がれ落ちてきたという線はないだろう。

 そして何より、この近辺で瓦が使われていたといえば、ただ一ヵ所。あの取り壊されてしまったお屋敷跡くらいしか思い浮かばない……。


 そんなことが頭をよぎるさなか。

 うずまったはずの瓦が、ふと身じろぎしたように思えた。見守るうちに、さらに二度、三度と。

 虫とかが、内側でもがいているのかと初めは思った。

 けれども、その瓦をぐっと持ち上げ、うずまりの縛めから解いてきたのは、しっくいだった。

 しっくいの壁、いやこの形は柱とたとえた方が近いだろうか。

 それが瓦を高々と持ち上げ、たちまち俺たちの膝近くまでやってきたんだ。

 その材質もまた、かつてのお屋敷の壁の建材を思わせるものだったわけさ。そいつはいったんその高さで止まるも、またミリ単位でじりじりと、その背を伸ばし続けていく……。


 倉庫は出入りできなくなり、友達が親に掛け合ったところ、これまでの信用金庫たちの状態と同じく、シートに覆われた状態になり、一般の目から隠されてしまった現場。

 似たようなことはそれからもちらほら起こったが、その間ももくもくと道路工事は続き、当初の目論見通り、ここの交通量はガツンと増えたよ。

 しかし、あのお屋敷の存在はいまや、当時から住んでいる人の心の中にしか残っていない……。

 ひょっとしたらあの瓦も、屋敷がなくなるのを惜しんで、後釜を作ろうとしたのかもしれないと俺は思っている。

 己の身とかつての建材を引っ張ってきて、自分たちのいたあのころを、もう一度とね。


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