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育ちの意志

 お〜、ここらへんもようやくサザンカが咲くようになったのか。

 たき火の歌にも出てくる花だけど、聞いたところによると、サザンカは寒さに弱い花との話。歌の通りならたき火を求められるほど寒い中を踏ん張っているから、なかなかガッツのある花といえるかもしれない。

 季節の花たちも、また長い年月を経て、その顔ぶれが変わっていく可能性もあるかもねえ。

 太陰暦から太陽暦になって久しいけれど、ゆくゆくは季節の区切りなども変わって、秋の花も夏とか冬とかに分類されるんじゃないかなあ……なんて個人的には考えちゃっている。

 こうも気温の変化が激しいと、花たちも大変かもしれないなあ。彼ら自身は、自然のもたらす現象のまま、その身を咲かせて散るばかりかもだけど。


 けれども、彼らも自然界にいるだけに本能に忠実。自らを育て、子孫を残そうとすることに関しては、ときに強い力を見せることもあるだろう。

 僕が以前に聞いた話なんだけど、聞いてみないかい?



 友達が小さいころに体験したことだという。

 当時の友達は、たんぽぽの綿毛を散らすのにご執心だった。あの無数に飛んでいく綿毛たちは、子供心に印象強いよねえ。

 手で持って、吹き飛ばすのみにとどまらなかった。足で引っかけて、その綿毛をおおいに散らせてやったんだ。

 はためには行儀が悪いが、僕は気持ちいいし、たんぽぽにとっても遠くへ綿毛を飛ばす目的が果たせる。ウィンウィンの時間といえよう。


 そのうち、友達の興味はタンポポのみにとどまらず、他の草花の種子運びにも興味を示すようになっていった。

 ぼうや花弁の中にできた種なんかは率先して飛ばしに行くし、くっつき虫を大量に引っ付けては、わざわざ橋一本はさんだ遠くまで歩いていき、そこで放す……なんてこともした。

 よかれと思ったおせっかいで、友達自身が苦痛に思っていないから延々と続く。植物たちも目論見以上の成果が出て、本望だろう。

 望む報酬は、ただ自分の満足感だけ。年をまたいで練り歩き、もはやどれだけの植物の子孫繁栄に貢献したか分からなくなる、秋の日のことだったらしい。


 学校を出て少し歩いた道路沿いで。

 むぎゅ、と友達は足元に違和感を覚える。靴をどけると、その下でぴんと茎を立てる植物があったんだ。

 イバラのつるを思わせるしなりを感じた。子供とはいえ、人間の重さがもろにかかっただろうに、すぐさま体勢を立て直すとは並のものじゃない。

 友達は素直に感心したそうだ。

 どっしりと構えたアスファルト。そこから思いきり頭を出して育とうとする構えは、すさまじい生命力を感じさせる。

 いまは花もつけてないが、もし種を残すことになったら運んでやろうと、なかば上から目線で見下ろしていたそうだ。


 けれど、それからも友達はそこかしこで、足元からのごあいさつを受ける。

 ふとした拍子に、足裏が地面へ触れるのをさえぎられた。それはいずれも、何かしらの植物。

 そこが土の上でも、石の上でも、先に見たようなコンクリートの上であっても、お構いなしだ。にょきっと頭を出していて、友達の体重を受け止めて。

 それでも、足をのければ立ちどころに姿勢をただしていく。これからの自分の育ちに、邪魔だといわんばかりの反骨心だ。


 当初、友達はその心意気を嬉しく思っていたが、こいつが体育館へ整列する段になっても起こるとなれば、さすがに気味悪く思う。

 バスケットボールなどで使う、各種ラインが示されている板たちの合間。昨日まで自分たちが掃除をしていた足元に、それも整列完了の直前まで気を払っていたはずの一枚に。

 はっと、足の裏を突かれた。これまでの連中のように、曲がってしまったんじゃない、最初からピンと背を伸ばしていたんだ。


 足をあげる。

 板と板のわずかなすき間。ほんの10センチに満たない高さ、太さだって縫い針と大差ないその黒い一本が、確かに上履きの底へ触れてきたんだ。

 冷や汗が出た、とは友達の談。

 そこを避けて立ち直したものの、朝礼の間はちらちらと、ついそちらへ目を向けてしまったらしい。

 たったいま、この場に生えたとしか思えない、その一本をね。



 移動教室の間も、トイレなどに行く間も、休み時間中も。

 友達は動くたび、ひょいと上履きへ目線を落とした。廊下のリノリウムの上、トイレの敷き詰められたタイルの上とて、油断はできない。

 彼らのたくましさ、突拍子のなさはこれまでの機会が保証してくれている。いつまた、これらを突き破り、おのが存在をアピールしてくるかは分からない。

 十分に気をつけておかなくては……とは、自分一人ならばできる話。

 学校という共同生活の場。クラスメートとのかかわりとなれば、避けがたいもの。

 

 その移動教室で、階段を降りるとき。

 いつもだべるクラスメートのグループのひとりが、不意に友達の背中を押した。

 故意か偶然か、悪意かおふざけか。

 もはや確認のしようのないことだ。踊り場まではわずか二段ほどしかなく、仮に踏み外したとて、大きなけがをするようには思えない高さだった。

 そこへ急に突き出る、体育館のときのような茎さえ現れなければ。

 

 かわせなかった。踏みつけた。うずくまった。

 茎は今度こそ上履きを貫き、右足を深々と刺したんだ。その証拠に、踊り場へついた靴裏からは、かすかに血のたまりができ始めている。

 すぐ保健室へ連れていかれた。傷は母趾球のあたりに小さく、深い穴となってできていたんだが、そこが妙に硬いことに先生と二人して首を傾げたらしい。

 確かに、ここが硬化してタコみたいになることは、ままある。友達ももう何か月もこのような感じで、さして気にしなくなっていたようだ。

 

 それが今は、はっきりと分かる数センチほどのふくらみを帯びている。昨日までは、そのような気配はちっともなかったのに。

 しかも、突き刺しはそのふくらんだ頂を、きれいにとらえて穴を開けていたんだ。

 出てくる血も、ガーゼで拭ってみると赤みの中に、微妙な緑色を帯びていて、ひとえに出血とも断じがたかったという。

 友達はここ数日あたりの、自分の足下に対する体験を先生へ語る。いずれも植物がらみということもあり、先生は友達から採った血液らしきものを、試しに保健室内の観葉植物の鉢植えへ垂らしてみたんだそうだ。



 そいつが風もないのに、つけた枝葉ごと、踊るように身をよじったのを二人は見た。

 中や後ろに人がいて、動かしているならまだ分かる。そのような意図さえ感じるような、不自然な動きだったらしい。

 ほどなく、身のよじりは止まったものの、先生がおそるおそる確認したところ、影になっていて表向きは人へ見えないようにしている、葉っぱの穴。

 そこが手品のようにふさがっていたというんだ。周囲のややくたびれ気味の色合いからは遠い、新品同然の鮮やかな色をもって。


 友達の血らしきものも、これ以降は出てくることはなく。ふくらみもまた空気を抜かれた風船のようにしぼんでしまって、もうあとは穴が開いたタコといった風情になる。

 血に汚れた靴下や上履きも、その部分はすっかり乾いてしまって、先と同じような効果はなかったらしいんだ。

 ひょっとしたら、と前置いて先生が語ったところによると、いくつもの草花の種をつむいだことで、友達の身体はあの間のみ、植物の命をはぐくむのに適した存在となっていたのではないか、とのことだった。

 その体液のひとしずくでもって、植物がたちまち勢いを盛り返してしまうほど、すさまじいもの。それが足裏のあそこへ集中していたのではないか、とね。


 それを少しでも味わわんとする渇望が、他の植物たちをおおいに執着させて、今回のようなことを起こしたのではないか、とのことだったらしいよ。

 事実、タコが自然に治っていったし、彼らが唐突に顔を出してくることもなくなったとか。


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