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終わりの石

 よーし、みんな復習だ。どうして日本の家屋には、石造りの家があまりないのだろうか?

 ひとつ、地震がよく起こるから。

 五重塔などの構造でも話したが、木造による柔構造は揺れに強い。石はもろにエネルギーを受け止めて、壊れやすいからな。

 造山帯にあり、地震の多い日本には木の方が都合のよい場面も多い。

 

 ひとつ、高温多湿な気候だから。

 石造りだと結露しやすく、カビの温床になりやすい。それに対し、木材は水分を自分たちがある程度吸い取り、通気性も湿度の調整にも向いている。

 きっと昔には石で作った家もあったのだろうけど、それらも木造の性質には勝てず、長期の住居としては姿を消さざるを得なかったんじゃないかな、と先生は思う。


 日本の住まいとしては向かなくとも、しばしば大きな意味を持たせられるのは、木に勝るとも劣らない石の特質でもある。

 先生たちの昔の話なんだが、聞いてみないかい?



 先生たちがまだ子供だった頃の地元は、土地の開発もまだ途上といったところ。

 駐車場の姿も少なく、学校の敷地を出れば、まだまだあぜ道、田畑に野っぱらが広がる風景というのは、珍しくなかった。

 その遊び場としている一角。最近、手を入れられるようになってきた、自動車専用道路の高架沿いの一角で。

 先生たちは、一抱えもある大きな石を見つけたんだ。

 形はきれいな直方体を成していて、曲線部分はほとんどない。おそらく人為的に手を入れられたであろうことは、容易に察せられた。


 しかし、こいつがどこからやってきたのか、先生たちは判断がつかない。

 近くにある高架を支えるために、土山たちの土台となったアンカーたちからこぼれたのが最有力だが、残念ながらこの石がきり出されたような痕跡は、付近に認められず。

 誰かが放ったにしても、このぬかるんだ地面の上で、たいして土にうずまることなく横たわっているから、雑に扱われていたわけでもないようだが。


 意味不明の物体。

 大人なら及び腰になるところだが、子供にとってはたいてい興味の対象。

 先生たちも、当時は通学路の片隅に秘密基地を設けていた。かの石を戦利品代わりとして、基地へ持って帰ったんだよ。

 ここもまた、いつ手を入れられるかもしれない、林を生やした小さい土山。その一角に、誰かが置いていったブルーのビニールシートとひもと枝を駆使して作った、即席テントの要領で、先生たちは基地を構えていた。

 その一番奥まったところ、床の間的なポジションへかの石をでんと設置したんだ。

 この時点では、あくまで戦利品のつもり。ここにいられるのもみんなの興味が続く限りで、新しく取って代わろうものが見つかったら、いつその座を奪われるか分からない存在だったよ。



 しかし、石の運び込みから三日が過ぎて。

 また新しい、同じような形の石が見つかった。今度は前回より数百メートル、道路沿いに南下した草むらの中で、目に留めたらしい。

 いざ運び込まれてみて、最初の石に劣らない形の整えぶりに、先生たちはいっそう怪しく思ったよ。

 水洗いをして泥をすっかり落としてみた二つの岩は、周辺に転がる石たちとは違う、ほのかな緑色をたたえていたんだ。

 ヒスイやエメラルドといった、宝石たちの輝きに比べれば、ずっと薄くて鈍いものといわざるを得ない。

 しかし、コケなどのように後から張り付いたもの由来にしては、あまりにもまんべんなく浸透しすぎている。いくらか強くこすった程度では、いささかの色落ちも示さない。

 

 元から、この色の石だったのだろうか、とは思う。

 しかし先生たちの知識の中で、このような石の存在はないし、出会うこともまたお初。

 判断を決めかねているうちに、それから一週間のうちで同じような石たちにめぐり合っていく先生たち。

 続く2つは、位置こそ先駆者たちのものとは異なるが、一週間後に発見された5つめの石は少し様子が異なっていた。


 正面から右側面への角にかけて、削り取られた跡があるんだ。

 これまでの石と比べると、その傷つき具合は顕著なもの。石の縦いっぱいに刻まれた溝は、ところどころ浅く深く、石に刻まれる線としての長さもまちまちで、やはり人の手が入れられたのは間違いなさそうだ。

 しかし、この石。一週間でおそるおそる試してみたところ、かなりの硬度を持つ。

 授業でも使う彫刻刀に、家の日曜道具代わりのげんのうも持ち出して立ち向かったが、かえって得物のほうを傷ませてしまうばかり。

 よほど上等なものを持つ、誰かの手によるものだろうと思われたが、その正体はいまだはかりかねていたよ。

 しかし、その結論はほどなくやってくる。


 この時点で遅れていた、秘密基地のメンバーのひとりがようやく姿を見せたんだ。

 いま基地内にある、石たちのお仲間とひと目で分かる、ほのかな緑色をたたえた石を抱えながら。

 その石にも同じように、削られた跡が浮かんでいる。石の正面から、左側面にかけてがだ。


 ――もしかして、先ほどの石と合わせるんじゃ?


 ゲーム慣れしている子供たちは、この手の考えへすぐ行きつく。

 先生たちは、先に確保していた石を倒し、持ってきてくれた石に刻まれた部分と、くっつけようと試みた。


 うまくいった……が、そうゆとりをもって見られた時間は長くない。

 二つの石を合わせたとたん、まるで磁石を仕込んでいたかのごとく、残りの石が飛ぶようにして吸い付いてきたんだ。

 合わせた石の底面に、くっついていく石たちが成すのは、横2、縦2の石によって構成された台座。

 そこへ寝かされていた二つ合わせの石が、私たちの軽い拘束を跳ね飛ばし、くっついた台座の石たちもろとも、その場でぴんと屹立したんだ。


「基地の墓」


 つながりあったそれが、そう読めたとき。

 先生たちは自分たちの足下が、にわかに吸い込まれるかのような感触に襲われたんだ。

 いずれも反射と運動の神経が悪くないメンツで、助かった。

 先生たちが飛びのき、後方へ逃げ出すのと共に、先ほど立っていた一帯の地面はすり鉢状に沈み込んでいく。

 シートも枝もひもも、先生たちがたくわえたブツたちも、ことごとくが底深いすり鉢の中へ消えていった。


 あの石もろとも、基地にあった一切がっさいを呑み込んだのち、おのずとあたりの無事な土たちが、すり鉢の底を目指して滑り落ちていく。

 ほどなく、ことごとくを呑み込んだ深さとは思えないほど、穴はあっけなく閉じられてしまう。そこにはしっかりとした土が、顔を見せていたんだ。


 それが先生たちの秘密基地の終焉だ。

 思えば年をはさんで、あのあたりを占拠していたからなあ。

 あの石たちは先生たちの好奇心も見越したうえで、終わりを求める基地へ天がもたらしてくれた手引きだったのかもしれない。


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