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火を灯すいちご

 そうこうしているうちに、もう11月が近づいているねえ。

 こーらくん、どうだい? 果物狩りとかに繰り出してみる気はないか? 取材を兼ねてさ。

 ここのところ、一時期よりも外出を気安くしやすくなったからね。また以前の調子に戻していくのもいいと思うよ。

 インドアはインドアで心地いいけどね……いざ、外へ出るあるいは出なくちゃいけないおりに、体力が落ちているのを実感するときが、しばしばさ。

 どうせなら、心の保養になることからぼつぼつ参ろうかと考えたんだ。


 果物狩りといえば、こーらくんは「火いちご」なる果物を見たことあるかい?

 店に出回ることはあまりなく、自然の世界で見つかることがほとんどだという。これもまた生前、火いちごを育てていた祖父から聞いた話なんだよね。

 あいにく祖父が亡くなってから、僕は火いちごを探してみたけれど、それらしいものは今に至るまで見つかっていない。これほどレアものだと分かっていたら、もう少し詳しく聞いといた方がよかったかなあ?

 こーらくんも、引き続きネタを探っているんでしょ? この火いちごの話、耳に入れてみない?



 僕が火いちごを知ったのは、祖父の家にはじめて行ったときだったかな。

 玄関から渡される廊下を歩くとき、天井に設置された明かりに目が行ったんだよ。

 昼間にもかかわらず、それらは光を帯びていた。けれども、自分の家で見るような電球とははっきりと形が違う。

 よくよく観察すると、それはイチゴだったんだ。手のひらサイズの電球に劣らない大きさのイチゴ。それが内々に光をたたえながら、僕たちを出迎えてくれていたんだ。


 最初は、細工物かと思った。

 イチゴを模したカバーなどをあつらえ、それを被せてあのように演出しているのだと。

 しかし、祖父の話では採ったとき、そのままの姿だと語ってくれた。父母もその事情は承知していたようで、首肯してくる。

 およそ、僕の知るイチゴとは異なる代物で、このとき僕は「火いちご」の存在を知ったんだ。


 火いちごは、祖父の家独自で育てているものだという。

 厳密には、全国を探せば他にも作っている家はあるかもしれないが、少なくとも祖父が確認している家はないとのことだった。

 畑に生えるイチゴとは異なり、イチゴノキを思わせる木に火いちごは実る。

 実際、祖父の案内でたどり着いた火いちごの木は、4メートルくらいあったな。それを祖父は持っていた高枝切ばさみでもって、狩りとっていく。

 僕は下で大かごをもって待ち受けていた。祖父の落下点への指示は正確で、いちごは枝から切り離されるたび、カゴの真ん中へ飛び込んでいく。


 かつん、かつんとカゴの中で音が立つのは、すでに入っている先輩に後輩たちがぶつかっていくためだ。

 ひとつひとつは、家に飾られるもの同じくらいの大きさ。重さもそこそこあり、それらが高所よりぶつかってくるなら、衝撃もなかなかのもののはず。

 それがどれもひびを入れることなく、カゴの中へおさまっていく。しかも、ぶつかるたびにカメラのフラッシュを思わせる光が放たれ、僕の目がくらむこともあった。


 火いちごの火だ、と祖父は語る。

 あらかた火いちごを取り終えると、祖父と僕は家の中へ取って返す。続いて、火いちごのこしらえを披露してくれるとのことでね。

 僕もそれを体験する。先ほどの様子を見るに、衝撃や摩擦がかかわるのだろうとは思っていた。

 とった火いちごのうち、祖父でひとつ、僕でひとつ取り、縁側へ場所を移す。

 火いちごはならした地べたへ寝かされると、そこに長いキリを当てがわれた。これより、これを回して火いちごへ火を入れるのだという。


 祖父の指示通り、僕はキリを回しに回し、火いちごに穴を開けんとしていく。

 表面にこぼれ始める赤い粒。そして突き立てるこの物体の硬さは、およそ食するいちごとは対極にあるもの。

 石と同等以上だろう。なにせ、削っていくキリの先から硬いものをこすり合わせる時に出る、独特の臭いが漏れてくるくらいだ。


 そのひとこすりのたび、いちごの内側には、あのぶつかりあったときに見た火がともり始める。

 まるで風に吹かれるような、揺らめき具合。それはキリの先がねじ込まれるたびに、ほんのわずかずつ強まり、身体を大きくしていく。

 実際に見たことはないが、お腹から胎児が頭を出してくるとは、このような感じなのだろうか。僕の動作ひとつひとつが、ここに命の息吹を吹き込んでいるかのように思えたよ。

 くわえて、傾きかける陽の光がいちごの表面に当たる。

 内とは異なり、外から跳ね返る光はいちごの赤みを帯び、角度の関係でうっすらと庭の土の上にも影を被せていった。


 そうして削りに削り、キリがいちごの半ばに達したとき。

 揺らめいていた火が、にわかに大きさを増した。たちまち内側を満たす輝きに、祖父はキリを抜くように指示を出す。

 抜き取った先端は、気持ち柔らかくなっているように思えたよ。それほどの熱がこもっていたということだろう。

 祖父はその開けたところをぐっと親指で押さえると、慣れた手つきで肩にかけていた手ぬぐいを被せていく。

 この穴を塞げば、あの天井に掲げる証明の代わりとなるという。期間は個体差があるものの、平均で二か月くらいだとか。

 知らない人から見れば、少ししゃれたインテリアに思えなくもなく、家では重宝していると祖父は話していたよ。


 更に、火いちごは虫対策にもなる。

 今年は実りが特に良い、ということで夜に改めてかの火いちごの木を見やったんだ。

 煌々と火を灯すいちごたちの輝きは、季節外れのクリスマスツリーを思わせるものだったけれど、そこへ水を差すのが虫たちの羽音。

 光に照らされた彼らの影は、大小さまざまだったが、それらが一様にいちごたちへ吸い寄せられていき……バチン、バチンと音を立てていく。

 誘蛾灯もかくやという、焼き殺しの手だった。その小柄な体が火あぶりになって落ち行くのがはっきり視認できるほど。

 そばの葉たちが燃えないあたり、火いちごには特殊な性質があるのかもしれない。もし、自然の緑の中で異様に虫の気配がない地点があれば、火いちごがあるやもな、と祖父は語っていたよ。


 祖父がなくなってからほどなく、火いちごの木に火いちごは成らなくなってしまった。

 今に至るまで僕は火いちごを見ていないが、こーらくんが取材をしていけば、いずれどこかで会うかもしれないね。


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