バンビの信念
「ばんび!!ばんび待って!!」
「でも早く行かないとリョウが!!リョウが…!!」
バンビはなりふり構わず天幕を目指していた。
新都軍はすぐそこまで迫っている。
戦場にいる限り、女や子どもなど関係なく敵は襲ってくるだろう。
時間があるのなら迂回してでも避けるべきだが、バンビは無茶を承知で真っ直ぐ争いの場へ突き進んだ。
「ばんび!!」
ハイトラはバンビを狙う新都兵を薙ぎ倒した。
だが別の兵が後ろからハイトラに剣を振り上げる。
バンビは咄嗟に庇うように前に立った。
ハイトラは毛を逆立てた。
「ばんび駄目だ!!」
バンビは丸腰だ。
どう考えても次の瞬間には真っ二つだ。
だがバンビは瞬きもせず剣先に集中すると、気合いの声を上げた。
「はあっ!!」
「何!?」
バンビを襲った新都兵の手から急に剣が奪われる。
兵には何が起きたのか分からなかったが、ハイトラだけはその動きをしっかりと見ていた。
バンビは鮮やかに白刃取りを決めたのだ。
そのまま奪い取った武器を逆手に取ると、あっという間に剣の柄で急所打ちをし敵を地に沈めた。
「は、はぁ…はぁ…。行きましょう!!」
「おう!!」
バンビは邪魔な剣を捨てると、戦地の隙間を縫ってまた走り出した。
「ばんび!!」
「何!?」
「さっきの、カッコよかったぞ!!」
「えっ、そ、そう!?これでも一応砂漠の精鋭部隊に抜擢されてるんだから!」
天幕が近づいてくると、邪魔なのは新都軍より信者になった。
壇上の周りに集まった信者は誰一人通すまじと頑なに陣取っている。
「すみません!!私リョウの…シエル様の知り合いなんです!!ここを通してください!!」
「馬鹿を言うな!!何人たりともここを通すなとセガン様の御命令だ!!」
「でも!!」
「何と言おうとも通さん!!戦に巻き込まれたくなければさっさと街へ避難しないか!!」
かなり粘ったがやはり通してはもらえない。
手をこまねいていると突然右手側から朝日とは違う黄金色の光が迸った。
「あれは…!!」
「セオの光!!」
頑として動かなかった信者達が一斉に左右に割れ道が出来る。
その間を走ってくるのは間違いなくセオだった。
「セオ!!」
「お前ら…!!」
セオは手に光を集めると黄金刀を具現化させ握りしめた。
それを逆手に持つと器用に戒められた縄を掻き切った。
「セオ、リョウ…リョウが!!」
「分かってる」
セオは天幕の前の信者達をひと睨みした。
「…そこを退け」
「せ、セオ様…しかし!!」
「道を開けろ!!」
セオの結晶石が反応し光を増す。
ウワカマスラの光を目の当たりにした信者達は慌ててその場に平伏した。
バンビはセオの光と同時に胸元に異変を覚えた。
「な、なに?熱い…!」
襟を開くとそこには見たことのない菱形の刻印が刻まれセオと同じ色に光っていた。
「何これ!?」
セオが光を収めるとバンビの刻印も光を失った。
その途端体の熱も急に冷める。
「何だったの今のは…」
もしかして結晶石を預かっていたことに関係があるのかもしれない。
気にはなったが今はそれどころではない。
バンビは襟元を正すとセオに続いて天幕へ走った。
三人はすぐに中へ飛び込んだ。
「リョウ!!」
「リョウ…いない!?」
中には誰もいなかった。
ただリョウが吐いたと思われる血の跡だけが生々しく残っている。
それは転々と森へ向けて続いていた。
ハイトラは外に飛び出ると天幕の上まで飛び乗った。
目一杯高いところで背伸びをしながら遠くまで目を凝らす。
「…いた!!あそこだ!!」
「どこ!?」
「崖の下!!でも…誰かに取り囲まれてる!!様子がおかしいぞ!!」
「え!?」
「オレ先に行く!!」
顔色を変えたハイトラは地面へ飛び降りるとその足で風のように駆け出した。
余程切羽詰まったものを見たのか、そのスピードは見た事もないほど速い。
危険を感じたセオはハイトラに続こうとしたバンビの肩を掴んだ。
「お前は行くな」
「え!?絶対いや!!」
「何があるか分からないんだぞ!!」
「それが何!?何があっても私はリョウを…仲間を見捨てたりしない!!」
バンビは挑むようにセオを見上げた。
「大切な人をこの手で守る為に私は戦士になったのよ!!何も出来なくても、例え死ぬことになっても、自分の気持ちに背を向けて後悔だけは絶対にしたくないわ!!」
バンビの言葉は深くセオの胸に突き刺さった。
その信念はいつだって揺るぎない。
強くしなやかで、そして温かい。
リョウを傷つける事しか出来なかった自分とは大違いだ。
「せ、セオ…?」
気が付けばセオはバンビを抱きしめていた。
何故そうしたのかはセオ自身もよく分からない。
バンビを離すとセオはほろ苦い笑みを浮かべた。
「…俺より前には出るなよ、リオ」
「え?あ、せ、セオぉ!!」
セオは背を向けるとハイトラの後を追って走った。
「な、な、な、なんで??」
バンビは何が起きたのか全く分からず真っ赤になった。
だがセオの後を追いながら、セオがまだ側にいる事に泣きそうなくらい安堵していた。




