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砂漠の月  作者: ちあき
第三章 大神の森
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花嫁衣装

ハイトラは意外なほどしっかりしていた。

森の歩き方は熟知していて無駄がないし、喋る内容も芯が通っていて分かりやすい。

途中でするりと木を登っては、食べやすそうな実をセオの為にもぎ取って戻ってきた。


「ほら、これも食べられるぞ。さっきよりも柔らかくて食べやすい」


体に糖分がまわると大分力が戻ってくる。

セオは礼を言うとリョウよりも少し小さい少年を見下ろした。


「ハイトラ。リョウたちは一体どこへ連れ去られたんだ?」

「大神のいる集落だな」

「大神…。大神とは一体何者なんだ?」

「鬼だよ」

「鬼、とは?」

「うーん。よくは分からないけど、だいぶ昔に赤い光から生まれた呪われ子だってのは聞いたことがある」

「なに…?」


セオは思わぬ話に耳を疑ったが、ハイトラは肩をすくめた。


「だから、俺にもよく分からないんだって」


これ以上問い詰めても無駄だということだ。

ハイトラは考え込み出したセオをせっついた。


「早くここを抜けないと夜になるぞ。夜までに着かないと間に合わなくなる」

「…分かった」

「あ、でも先にこれだけは食べておいたほうがいい」


ハイトラは見るからに怪しげな赤い斑点の入った黒い実を差し出した。


「これは?」

「ソパルパの実。色々な解毒剤になる。集落でうっかり食べ物を口にした時のためにね。あの人たちは森の薬草を熟知してるから眠り草や麻薬、下手をすれば毒草を分からないように混ぜられることもある」


嫌な予感にセオの顔が曇った。

あのリョウが美味そうな飯を出されて手を出していないわけがない。

バンビにしても五分五分だ。

最悪全く意識のない二人を探し出し、抱えて逃げなければならない。


「ハイトラ」

「ん?」

「集落に着けばそこからは俺一人で行く。何が起こるか分からんしな」

「え…」


ハイトラは猫のような目を大きく開いた。


「だってセオはオレを砂漠へ連れて行ってくれるんだろ?」

「それは…生きて戻ればだが」

「もしかしてオレのこと心配してくれてるの?心外だなぁ、オレ強いのに。それに集落の中のことだって詳しいぞ」


可愛らしい見た目とは裏腹にハイトラの目の光は確かに強い。

セオはかなり迷ったが、困ったことに今頼れるのはこのハイトラだけだというのも事実だ。


「…分かった、中の案内も頼む。でも一つだけ約束してほしい」

「なんだ?」

「危ないと思ったら、何をおいても即逃げろ」


セオは大真面目に言ったが、ハイトラは呆気にとられた後に面白そうに笑いだした。


「セオって、変な奴だな」

「お前ほどじゃないと思うが」

「そんなにお人好しじゃいいように利用されちゃうぞ」

「…」


憮然たる面持ちになるセオに、ハイトラはまたしばらく笑い続けていた。

日暮れ時。

集落の屋敷では湯浴みに案内されたリョウが一人湯船に浮いていた。


「はぁ…。疲れたぁ。檜がいい香りぃ」


こんな時でも温かいお湯は体を芯から癒してくれる。

ぶくぶくと潜っていると外から声がかかった。


「お花様。具合はいかがでしょうか。お時間がかかるようでしたらやはりお手伝い致しますよ」

「い、いらないってば!!勝手に入ってきたら怒るよ!?」


慌てて追い返し湯船から出ると用意されていたタオルで水滴を拭う。

脱衣所に出ると籠に真新しい服が入れられていた。


「シャツ…じゃないな。何これ着物??」


それはどう見ても前開きになる紐がついた白く薄い長襦袢だ。

リョウがそれに袖を通すとさっき声をかけてきた女の人がまた入ってきた。


「失礼します」

「な、なに?」


女はぺったんこのリョウの体をまじまじと見てきた。


「…随分、痩せたお花様ですね」

「えーと、それは言わないでくれる?気にしてるから」


曖昧に笑いながら体を隠す。

流石にばれるかと思いきや女は特に気にせずリョウの着付けを始めた。

肩からくるぶしまで長さのある白くて薄い生地の着物をあてがい、腰には淡い水色の緩やかなリボンを通しくくりつける。

仕上げに赤い紅を引かれればなんとも可愛らしい女の子の出来上がりだ。

リョウは複雑な思いで鏡を覗き込んだ。


「これが花嫁衣装?なんだか死装束みたいだけど…」

「明日の湯浴みまでこの姿でいて頂きます。その後はまた新しい服を着て頂きます」


用事が済むと女はさっさと出て行った。

代わりに入って来たのは体の大きな熊男だ。


「来い。部屋へ行く」

「はぁい」


男はまだぴんぴんしているリョウを不審な目で見てきた。

食事はしっかり食べていたのでそろそろ薬は回ってきているはずだ。


「お前、眠くならないのか」

「え?いやぁ、流石にお風呂あがりすぐは…」


リョウはちらりと熊男を見た。

そしてわざとらしく大欠伸をしてみせた。


「ふぁぁ。そういや疲れてるし眠くなってきたかも」


熊男は一人うんうんと頷いた。


「この階段の上が客間だ。お前の部屋には既に敷き布団がしいてある」

「うん、分かった。ありがとう」


リョウはにっこり笑うと言われた通り階段を上がった。

熊男は扉が閉まるまでは見張っていたが、部屋からカタリとも音が聞こえてこないことを確認するとその場を後にした。

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