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砂漠の月  作者: ちあき
第二章 囚われた光
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寄り道

不穏な空気を孕みながらも熱い風が吹き抜ける砂漠。

セオの研ぎ澄まされた感覚は驚くほど正確だった。

バンビは高い砂山から、オアシスで休憩を取る新都軍を見下ろしていた。


「…ほんとに、いたわ」


リョウも身を低くすると目を凝らした。

あの掲げ挙げられている旗には見覚えがある。


「グレイシス正規軍…。赤鷲の旗は三重臣の一人、ガン・グレイシスだ。こんな奥まで進軍してくるなんて今までなかったのに」


セオとバンビが揃ってリョウを振り返った。


「お前、いやに詳しいな」

「正規軍って…そんな」


バンビは傍目にも狼狽していた。


「ねぇ、思い切り飛ばして東から迂回したら新都軍より先に最南端へ辿り着けるかしら!?」


セオは考える顔になった。

速度はこっちが早くとも距離を考慮すればその差はあまりないだろう。


「ギリギリだろうな」

「何とか争いが起こる前に見つからないように基地へ入らないと…。砂漠が荒れる前にリョウを保護して貰わなきゃ」

「リョウを?」


そのリョウはずっとオアシスを凝視していた。


「リョウ、どうしたの?」

「いや、あれ…」


リョウが食い入るように見ていたのはオアシスから離れていく一人の青年だった。

その服装から正規軍ではなさそうだが腰には立派な長剣が備えられている。

陽の光が当たるとプラチナブロンドの髪が淡く光った。

あの繊細な髪色はそうは見かけない。

リョウはふらふら歩きだしたかと思うと、急にオアシスに向けて走りだした。


「リョウ!?」

「ごめんセオ!!ちょっとだけ寄り道してくる!!」

「ちょっと寄り道するような場所か!!リョウ、戻れ!!」


リョウは止まるどころか蒼く光ると猛スピードで砂を下りだした。


「バンビ!!乗れ!!」

「だ、誰がバンビよ!!あんたにはそう呼ばれたくないって!!」


叫びながらもバンビはすぐにセオの後ろへ飛び乗った。

セオはエンジンをふかせると急いでリョウの後を追った。

リョウは夢中で砂を滑り下りていた。

自分が蒼く光っていることになんか、気づきもしていなかった。

ただその人が幻のように消えてしまう前に本物かどうかどうしても確かめたかった。


「アイ兄…!!」


その人はオアシスから少し離れた遺跡の影に入った。

リョウは何の躊躇いもなく同じ場所へ飛び込んだが、その途端足をかけられて盛大にすっ転び、勢い余って何メートルも砂の上を滑った。


「いったたた!!」

「え、り、リョウ!?」

「え…?」


顔を上げてリョウは愕然とした。


「クルハ兄様!?」

「誰が追ってきたのかと思ったらまさかのお前かよ」


アイトと見間違えたのは、彼そっくりの三番目の兄だった。

性格は全く違うが、その顔も身体つきも髪の色までも昔からアイトとクルハはよく似ていた。

クルハは物騒に目を細めると蒼く光るリョウの腕を掴んだ。


「お前、なんだよこの光は」

「あ…」


リョウは腕を振り払おうとしたが、クルハの力は見た目を裏切る強さだ。

どんなにもがいてもその手はびくともしなかった。


「離して!!離してよ!!」

「新都へ帰るぞ。レオ兄が待ってる。その光のこともきっちり自分で説明してよね」

「イヤだ!!クルハ兄様!!」


クルハはリョウを引きずりながらだらだらと歩いていたが、急にその手を離すと剣を引き抜いた。

自分目掛けて鋭く飛んできた石を正確に叩き落とす。


「うわっ。あっぶな!!誰だよ!?」

「セオ!!」


リョウはすかさずクルハの脇をすり抜けた。


「あ、こらリョウ!!死にたくないなら新都へ戻れ!!」

「あんなとこにいた方が死んじゃうよ!!」


リョウはひらりとバイクに飛び乗るとクルハを振り返った。

思えばこんなにクルハと喋ったのは初めてだ。


「さよなら、クルハ兄様」


バイクは砂煙を上げてあっという間に遠ざかった。

クルハは剣を鞘になおすと小さくなる弟の背中を見送った。


「ばかリョウ。あーぁ、レオ兄に報告するのやだなぁ。俺が怒られちゃうじゃん」


クルハは相変わらずたらたらと歩くと面倒そうにオアシスへ戻った。

バイクの上ではセオががみがみリョウに怒っていた。


「全く、無謀にも程がある!!その周りがすぐ見えなくなる癖なんとかしろ!!」

「ご、ごめん」

「とにかく、このまま東へ回る。今日中に出来るだけ南へ近づくよう飛ばすぞ」

「うん」


セオは加速をかけると太陽に背を向け無心で走り続けた。

風を受けながら何時間もバイクに乗るのは想像以上に体に負担がかかる。

夕日が真っ赤に燃える頃にはバンビもリョウも一歩も動けないほどへろへろになっていた。


「うぅ…流石にきつい。セオってばほんとに容赦なく走るんだもん。バンビちゃん大丈夫?」

「おぇぇ…まだ足元が揺れるぅ…。こんなんで野営の準備なんかできるのぉ…??」


一番負荷が大きかったはずのセオだけは一人さっさと辺りの見回りに動いていた。


「ここはそんなに獣の気配はなさそうだ。立てるか?」

「無理ぃ」

「むりぃ…」


二人の無理ぃが重なると、リョウのお腹は更にひもじい音を立てた。


「セオぉ、セオのうちに帰ろ?セオがいれば砂漠の何処からでも帰れるんでしょ?」

「どこでもいいわけじゃない。地力が溜まりやすいポイントがないと中へ入れない。それに入るのは良くても出口はまたランダムに飛ばされるぞ」

「あ、そっかぁ…」


リョウはがっくりと肩を落とした。

セオは役に立たない二人にため息をこぼすと、少し離れた場所で砂に片膝をつき手を置いた。

バイクはそこに出ている。

ということは別の何かを呼び出す気だ。

リョウが期待に目を輝かせていると、砂はセオを中心にバイクの時より倍以上大きな渦を巻きだした。


「お…大きい!!セオ、これって…」

「離れろ」


立ち上がったセオが二人を下げると、見上げる程大きな球体が現れた。

それはまるで古びた機械のように錆だらけで、窓らしきものが一つだけついている。

球体の底から派手な軋みを響かせながら四本の柱が現れ、柱はどっしりと砂漠に根付くと球体を高く持ち上げ止まった。


「な、な、な…」


バンビは腰を抜かしそうになったが、リョウは興味津々だ。


「凄い!!何これ!?入れるの!?」


セオが柱に触れると、球体の底が丸く割れゆっくり円盤が砂の上に降りてきた。


「入るぞ」

「うん!!バンビちゃんこっち!!」


バンビはふらふらと立ち上がると恐々近寄ってきた。


「ほ、本当に入って大丈夫なの?」

「嫌ならそこで野宿してろ」

「…なんでそんな言い方しか出来ないのあんたは」


バンビはぶつぶつ言いながら円盤に飛び乗った。

三人は一瞬の浮遊感を体に感じると、もう球体の中へと吸い込まれていた。

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