連れ去られた二人
リョウ達は縄で体を拘束され、岩陰に隠すように停めてあった小型船に放り込まれた。
エンジン音がしたかと思うと船は砂をかきあげながら進みだす。
新都から離れると、街人の格好をしていた者達は変装を解き麻色の生地と白い防具の独特な装備を付け直した。
甲板に転がされていたリョウは何とか拘束を解こうと身を捩った。
「なんなんだよこれ。これじゃ人攫いだよ!!」
「間違いなく人攫いだわ」
「セリー、ここは砂漠の上だし光に戻れないの!?」
「さっきから戻ろうとはしてるのだけれど、これのせいで出来ないのよ」
三人の左手には大部分がガラスで出来た分厚いバングルがはめられている。
「私達の力はガラスによって封じられてしまうの。リョウもそれをしている限り地力は使えないはずよ」
「え…」
試しに手に持ったままの石に意識を集中してみたが確かに光らない。
「あ、そうだこの石…」
リョウは器用に石を持ち替えるとその尖った部分で拘束されている縄をこすった。
縄が擦れる手応えは充分にある。
無心でそれに集中していると、状況に耐えきれなくなったシュルナーゼが震えながら泣きだした。
「セリー、わ、私たち、私たちどうなるの…」
「分からないわ。せめてセオが気付いてくれたら…」
リョウは後ろへ流れる砂漠を振り返った。
「おれが行く」
「え…」
「おれがセオを呼んでくる」
船はガタンと大きな音を立てると急に左へ旋回した。
立ち上がろうとしたリョウは派手にすっ転んだ。
「痛っ!!今度は何だよ!?」
外を見れば船が何かに追われているのが見えた。
「砂狼だ!!」
ざっと見ただけで二十頭はいる。
船は砂狼の群れを振り切ろうとしているようだ。
シュルナーゼはその揺れに堪えきれずに甲板を滑った。
「きゃっ…」
「シュルナーゼ!!」
リョウはやっと切れた縄を捨て手を伸ばした。
船から落ちそうになったシュルナーゼを掴み、甲板へと引っ張り戻す。
だがそこで起きた次の大きな揺れにリョウの体が宙に浮いた。
「うわっ!!」
「リョウ!!」
リョウは手すりを越えて外へと投げ出された。
風に巻き込まれ、上も下も分からないままどさりと砂の上に落ちる。
その衝撃たるや息が止まるかと思ったほどだ。
小型船はリョウが落ちたことに気づきもせず猛スピードで走り去った。
「う…、い、たたた」
リョウは体を丸めると受けた衝撃を何とか流した。
「せ、セオ…、セオを呼ばなきゃ」
もう一度石に力を込めたがやはり蒼く光りはしない。
リョウはガラスのバングルを外そうと何度も殴りつけたり石や砂に叩きつけた。
「はぁ、はぁ…駄目だ。壊れない!!セオ…、セオー!!お願いだから俺に気付いてよ!!セオ!!アメット!!」
叫びは広大な砂漠に吸い込まれ、すぐに風の音だけになる。
リョウは立ち上がると夜の砂漠を駆けた。
だが行けども呼べども誰も応えてなんてくれない。
今宵も眩しく輝く白銀の月が静かにリョウを見下ろすだけだ。
「…っセオー!!うわっ!!」
足をもつれさせ砂に倒れこむ。
荒い呼吸の合間に、嗚咽が混ざった。
「…うっ、うぅ。おれのせいだ。おれのせいだ、おれのせいだおれのせいだ!!シュルナーゼとセリーだって、俺を追って新都になんて来なければこんなことにならなかったんだ!!」
いつもそうだ。
いつもいつも、自分のせいで悪いことが起きる。
これはきっと自由になろうとした罰なのだ。
どうすることもできずに嘆いていると、リョウの周りで何かが動く気配がした。
それは闇に紛れながら徐々に距離を詰めてくる。
リョウが気付いた時にはもう目の前まで数匹が迫っていた。
「っ!!砂狼!!」
慌てて立ち上がるも既にすっかり囲まれている。
行き場をなくしたリョウは絶望の淵に叩き落とされた。
ーーーーーーーーー
戒めを解かれたセオはすぐに目を覚ますと飛び起きた。
見慣れたいつもの廊下が視界に入る。
「アメット!!」
己の意思を無理矢理ねじ伏せられたことに怒りが湧いたが、目の前で光るアメットは見たこともない程恐ろしい顔で沈黙していた。
「…アメット?」
アメットは体から炎のような赤い光を吹き出した。
「セオ、わしはしばらくこの砂漠の中で眠りにつく」
「は!?」
セオはわけが分からず混乱した。
「どういうことだ!?」
「セリーとシュルナーゼが人の手に落ちた。あの二人がいなければこの砂漠に溜まった穢れたサンドフローを抑えておくことができん。こうなってはわしが直接砂と同化しサンドフローを抑えるしかない」
「一体今何が起きているんだ!?」
「詳しくはあの小僧に聞け。砂漠の上でお前を探しておるぞ」
「リョウが!?リョウは砂漠にいるのか!?」
アメットは一際眩しく光るとただの赤い光の玉になった。
「よいかセオ。セリーとシュルナーゼを取り戻し、必ずここに戻ってくるのじゃ。最後のウワカマスラよ。己の使命を忘れるでない」
「アメット!!」
部屋中に光と声が共鳴しながら散らばっていく。
セオはあまりに突然のことに呆然とした。
だがすぐに我にかえると円盤から外へ飛び出した。
頬に冷たい風が当たる。
「アメット!!セリー!!シュルナーゼ!!」
砂の上に降り立ち叫んでも、誰一人として反応がない。
こんなことは初めてだ。
月明かりの中辺りを見回していると、遠目に砂狼の群れが見えた。
狼たちは獲物を捕らえた後のようにくるくると円を描きながら走っている。
「リョウ…!?」
直感的にそこにリョウがいると踏んだセオは全力で走り出した。




