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砂漠の月  作者: ちあき
第二章 囚われた光
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増える謎

間近で聞こえる人の話し声で、リョウは目が覚めた。

まず視界に入ったのは自分に取り付けられている酸素マスク。

そして目線を上げると人影が二つ見えた。

リョウはそれが誰かに気付くとどっと冷や汗が出た。

そこにいたのは、レオとバルゴというリョウの最悪ランキング上位に入る二人だった。

急いで目を閉じるとまだ意識のないふりをする。

幸い二人はリョウが起きたことに気付かず話を続けていた。


「それで、リョウ様は口を割ったのですか」

「いや。生意気にも反抗してきやがったからな」

「貴方がリョウ様の反抗くらいで手を焼くとは思えませんが?」

「お前もこいつの小賢しさくらい知っているだろ。何をしたかは知らんがまんまと本邸から逃げやがった」


バルゴは苛立った様子で部屋をウロウロ歩いた。


「ルナハクトは日に日に新都に近付いています。どうにかアジトを見つけだし、根絶やしにしなければ新都はいつまで経っても砂漠を越えられない」

「だがリョウはその名に反応がなかったぞ。間抜け面で聞き返してきやがったからな」

「そこがルナハクトのアジトだと知らないだけかもしれません。何にせよ生き延びた状況を洗いざらい吐かせてください」


レオがちらりとリョウを見下ろす。

視線を感じながらもリョウは死ぬ気で寝たふりをした。

バルゴはぴたりと立ち止まると声を潜めた。


「グレイシス一族は着々と力をつけつつあります。あれは近々力づくでも砂漠を縦断するつもりです」

「いよいよルナハクト退治に乗り出すってのか?百年前もそうやって砂漠に出た一族が滅びたってのに懲りない事だな」

「官僚の皆様は南の国をどうしても手に入れたいようですからね。それにしても大した策もなく迂闊に攻め入るのは良くありません。まずはやはりルナハクトの本拠地を突き止めるべきです」


レオは含み笑いをすると、リョウの横たわるベッドにどさりと腰を下ろした。


「随分ルナハクトに拘るな」

「…」

「俺も小耳に挟んだのだが、どうやらそこにアイトの幽霊がでるそうだな」


突然出たその名に、思わずリョウは目を開いた。

バルゴは一瞬言葉を飲んだがすぐに苦いため息をついた。


「その真相は定かではありません」

「しらばっくれるなよ。二年前、官僚どもは血眼になってあいつを葬りたがっていた。そのアイトを探し出して一体どうするつもりだ」

「関係ありませんよ。邪推はなさらぬように」


バルゴは不機嫌そうに言い放つと部屋を出て行った。

レオも程なくして部屋を出る。

じっと我慢していたリョウは、足音が遠のくのを我慢強く待ってから酸素マスクを外し、詰めていた息を吐いた。


「アイ兄が、アイ兄が生きてる…?」


他の話など吹き飛ぶほどリョウは混乱していた。

レオの言い方は、どこかアイトが生きていると確信めいていた。

だがリョウは見たのだ。

二年前、事故に遭い棺桶で眠るアイトの姿を。


「どういうことなんだ??ルナハクトって…。やっぱり、やっぱり砂漠に行かなきゃ」


リョウは急き立てる思いにベッドから飛び降りた。

といっても、いきなりドアから出るような馬鹿な真似はしない。

まずは窓を開くと外を覗き込んだ。

暗闇で地面が全く見えないということは、少なくともここは三階以上だろう。

遠くに目を凝らせば街明かりが突然途切れ、その先が砂漠であることを教えてくれている。

反対側には電波塔が見え、そこで大体自分がいる場所に見当がついた。


「ここ…、多分レオ兄様所有のリ・サンド病院だ」


リョウはじんと痛んだ首筋に触れた。


「あれ?」


ざらりと指に当たるはずの痣がない。

急いで壁に取り付けられた鏡を見に行ったが、やはりない。


「解除されてる!?今なら、逃げ出せる…!」


リョウはポケットに手を触れた。

だが今度はそこに石の感触がない。


「えっ…うそ!?」


ポケットを引っ張り出しても身体中を探ってもやはり結晶石が見当たらない。


「うそだうそだ!!確かに最後まで握ってたのに…!!取り上げられたのかな!?」


ベッドをひっぺ返して探していると、枕元からころんと結晶石が転がり落ちてきた。


「あ、あった!!あぁよかった!!ほんとよかった!!」


心底ほっとしていると突然病室のドアが開いた。

リョウはぎくりと固まったが、入ってきたのは四十過ぎくらいの看護師だった。


「あら?もう起きられたのですね」


リョウの意識が戻ればすぐに知らせるように言われていたのだろう。

看護師は部屋に備え付けられている内線を取ろうとした。

リョウは咄嗟に口元を押さえ床にひっくり返った。


「うぅ…気持ち悪い…」

「だ、大丈夫ですか!?」

「まだ横になりたい…。いい?」

「勿論です」


看護師はくしゃくしゃになったベッドを整え直すとリョウを寝かせてくれた。


「ありがとう…。おれ、なんだか息苦しくて…」

「酸素マスクを付け直してあげるわ。貴方にはまだ休養が必要みたいね」

「もう少し眠っていてもいいかな」

「その方が良さそうね」


リョウはすぐに目を閉じると体から力を抜いた。

看護師はリョウが眠りにつくのを見届けると、誰にも連絡を取ることなく部屋を出て行った。

部屋が静かになるとリョウはすぐに飛び起きた。


「今のうちだ」


辺りを警戒しながら部屋を出ると、ナースセンターの窓下をくぐり、エレベーターホールまでそっと向かう。

何食わぬ顔でさっさと病院を抜け出したが、うまくいったのはここまでだった。

病院の敷地を出ればいかつい警備服を着込んだ大勢の見張りが並んでいる。


「まさか、おれ一人にここまでやるか…?」


はっきり言ってこれは予想外だ。

だがぐずぐずしていればレオが戻ってきてしまう。

リョウはフードをかぶり、病院から出てきた患者に混じって顔を隠しながら門をくぐった。

見張りは怪しげなリョウをじろじろと見ている。

何とかやり過ごせますようにと祈っていたが、それも虚しく三人の男がこっちへ近づいて来た。

リョウは声をかけられる手前で思い切り走り出した。

後ろからは見張り達の騒ぐ声が聞こえ、足音が追って来る。

いくらリョウがすばしっこくとも相手はプロだ。

程なくしてリョウは沢山の手に捕らえられた。


「離せ…離せよ!!」

「お、大人しくしなさい!!暴れるんじゃない!!」

「嫌だ!!いやだいやだ!!なんで俺なんかにそんな構うんだよ!!もう放っといてよ!!」


大暴れをしていると、リョウのポケットから赤い光が眩しく光った。


「うっ!!何だこの光は!?」


光がリョウの周りを取り囲むと、捕らえていた手がリョウから弾かれた。


「なっ、さ、触れん!!」

「これはどうなっているのだ!?」


騒ぐ男たちを尻目にポケットから石を取り出すと、赤い光は真っ直ぐ南へと伸びた。


「シュルナーゼ…?」


それはまるでリョウを砂漠まで導いているかのようだった。

リョウは考える前に走り出した。


「ま、待ちなさい!!」

「リョウ様!!」


男たちはリョウの後を追おうとしたが、赤い光は建物の中も貫通して伸びている。

不思議なことにその中を走るリョウも建物をすり抜けて消えて行った。

リョウは走りながら体がとても軽いことに気がついた。

それに全く息が上がらない。

光の先まで駆け抜けると、そこには思った通りシュルナーゼがいた。


「シュルナーゼ!!」

「リョウ!!」


リョウがシュルナーゼに飛びつくと光が消え、視界が普通の夜の街へと変わった。

そこはさっきリョウが砂で埋めた砂漠の出入り口の近くだった。

リョウは満面の笑みでシュルナーゼを抱きしめた。


「ありがとう…、ありがとうシュルナーゼ!!すごく助かったよ!!」


シュルナーゼはきゅっとリョウを抱き返し、泣き顔のまま笑った。


「私がしたんじゃないの」


リョウはシュルナーゼにつられて隣に立つ女の人を見上げた。

初めて見た人なのに、リョウの目はすぐに驚きで丸くなった。


「…まさか、セリー?」


セリーは頷くと複雑そうにリョウを見つめ返した。


「リョウ、このまま全てを捨てて砂漠へ来る覚悟はある?」

「え…」

「新都に出て、貴方が誰なのかは大体分かったわ」


リョウは驚いて石を強く握りしめた。

そして切羽詰まった顔で何度も頷いた。


「捨てる!!全部全部、何もいらない!!だからお願い、セオには何も言わないで!!」

「…」

「お願いセリー。おれを、信じて…」


リョウの思いは本物だ。

だがセリーはここへきてまだ迷っていた。


「私が砂漠で赤い光に戻れば、自動的に意識はアメットに繋がるの。だからアメットに隠しておくことは出来ないわ。後は自分で直接アメットを説得してセオに黙っててもらうことね」


その前に叩き出される可能性も大いにあるがそれはリョウ次第だ。

シュルナーゼは心配そうにリョウを覗き込んだ。


「でも、リョウ。砂漠へ出られる?さっきみたいに苦しくなったら…」

「あ、それは大丈夫みたい。さっき死にかけたからかな?解除されてるんだ」


念の為もう一度首筋に触れてみたが、ちゃんと痣は消えている。

リョウは大きく息を吸うと満面の笑みで砂漠を指差した。


「セリー、シュルナーゼ、行こう!!」


一歩を踏み出そうとしたが、その時また異変が起こった。

街の人が数人、突然リョウ達を取り囲んだのだ。


「大人しくしろ。遂に見つけたぞ、砂漠の民め」

「え!?」


確か以前もそんな事を言われた覚えがある。

リョウ達三人はあっという間に枷をはめられると、そのまま担がれ砂漠へと連れ去られた。

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