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第5話 娘でも妹でもなく

第五国境防衛基地。

この基地に限らず、軍人の女性は少ない。

結婚している者は、別の安全な場所に家族が住んでいる場合と、すぐに会える同じ基地内に住んでいる場合がある。


「ウェンさん、お食事ですか?」

「カバー准尉さん。お疲れ様!そう、朝ごはんだよー」


ウェンさん、マジ天使。

この第五国境防衛基地内のオアシス!

いつもレン少佐といるし、カルボ少尉とシラス少尉も近くにいるからなかなか話せる機会が無かった。

だが、しかし!


「レン少佐は今日は?」

「昨日作戦のためとはいえ、屋根の上を走っちゃって。あ、レンじゃなくて、タイト准尉さんが。それで菓子折りを持っていってるところ、タイト准尉と一緒に!あ、でねでね、その菓子折りなんだけど、私が選んだんだよー!すごく美味しそうだったから食べたくなっちゃって。レンに買ってもらっちゃった」


可愛い〜!年相応の可愛さ。素直な笑顔。

目の前の男が、恋愛対象として見ていることに気づかない純粋さ。

国宝として保護すべき対象!


しかしここで前から思っていることがある。

それは。


「ウェンさんって、レンさんのことどう思ってるんですか?」

「……えっ」


もし、レン少佐も私と同じ幼女趣味だとしたら?

ウェンさんを既に囲っているとしたら?

ウェンさんが嫌がる前に、つまり物心つく前から既にあらゆるところに手を出しているとしたら?

それは私が助けないといけない!


そう使命感を持って聞いたはずが……。


「どうって、……好き、好きだよ……。……」


目の前には耳まで真っ赤な状態のウェンさんがいた。


「やだ、もしかしてレン以外にはバレバレなのかな。ずっと、ずっと、レンのこと好きなんだけど。でも、でもでもっ!その気持ちバレちゃったら、一緒に、住めなくなるでしょ?そんなのやだなの。……お願い、レンには内緒、……ね?」

「は、はい…………」


真っ赤な顔で、うるうるとした涙目で見られたらそうとしか言えなかった。


*


「レン少佐はウェンさんのことどう思われていらっしゃるのですか?」

「優秀な副官だが」

「……。えっ、他には?」

「他、とは?……子供?」


突然来てこの准尉は何を言ってるんだ?

上官だぞ。

シラス少尉と目を見合わせるが、准尉の考えが分からない上に、レン少佐も迷惑そうな素振りを見せないから対応に困る。


「こ、子供……?えーと、それは、娘さん、という意味ですか?」


おいおいおいおい!!!地雷だったらどうする!

死んだ姉の子とか、兄の子とか、身内を亡くされた身だったらどうするんだ!

それはシラス少尉も同じことを思ったらしく、口を挟んでいた。


「おい、何が言いたいんだ?」

「えっ、気になっていたことをお聞きしているだけです」


……本当か?

だとしたら、この准尉、非常に頭が足りない。

きっと指揮なんて任せたら、隊が全滅する。

いま全滅していないのは、レン少佐とウェンさんの指揮があるからだろうか。


「娘……。いないから分からないな」

「では、年の離れた妹さん、ですか?」

「絶対に妹ではない!」

「なぜそこまで強く否定なされるんでしょう?」

「おい、口が過ぎるぞ」

「構わない。……私には3人姉上がおられるから、なんとなく、違いが分かるんだ」

「えっ、お姉様いらっしゃるんですか!?」


……はっ、いけないいけない。

つい一緒になって反応をしてしまった。

レン少佐が、ウェンさん以外の人のことを、特に自分のことを言うなんて珍しくて反応してしまった。


「いる。3人もいるから少々……。いや、これ以上はやめておこう」


うるさいとか、迷惑だとか、そういう悪いことを思い出していたな。

弟とは肩身が狭かっただろう。


「つまり、その、あの、ふしだらな感情とか……」

「おい!失礼だろう、さっきから!」

「構わない。そうか、ウェンのことを心配してくれてるのだな。ありがとう。……えーと」

「……カバー准尉です」


……心が広すぎる、レン少佐。

名前を覚えていないのはどうかと思うが、僕だってこの准尉の名前を覚えていなかった。


「あの、で、妹でも娘でもないのなら、ウェンさんとは何で?」


まだ聞くか。この准尉は。

睨みつけるが、鈍い准尉は伝わらない。


「あぁ。私が軍人として初めて赴任した頃、家の前で……、その、拾ったんだ」

「拾った?!」


そんな、犬猫みたいな言い方……。

ウェンさんがこの場にいないのだけが救いだ。


「聞けば、親がいないと言うから仕方なく家に招き入れたんだ。自分の名前も分からないと言うから、咄嗟に家から持ってきた小説の……、私がこうなりたいと思う軍人の名前から拝借して、『ウェン』と名付けた」


完全に犬猫の扱い……。

いや、でもそれで5年も一緒に暮らせるだろうか。


「1人にするわけにもいかないから、フレイジャー大将……、当時は中佐だったな。事前に連絡をして、軍に連れて行った。私は人の名前と顔を覚えるのが苦手だったから、誰彼構わず信用ができない。仕方なく、連れ歩いたんだ」


信用できないって……。

確かに顔を覚えていないのは致命的だ。

でも、だからと言って……。


「するとウェンは最初『この人は目上の人?』なんて本人の目の前で聞くから肝が冷えたこともあったが、私より人の名前を早く覚えてしまって。そこからは、生きやすくなるマナーよりも、生きるための手段を教えるようになって、いまのウェンになったな」

「なになに?私の話?」


さっきまで話聞いていたのか!というほどタイミングよく、ウェンさんが現れた。

そしてウェンさんはカバー准尉がいることを確認すると……。


「あっ、カバー准尉……。え、えーと……。……あっ、私、トイレ行くの忘れてた!」


あからさまに、逃げていった。


「どうしたんだ?ウェンは」

「さ、さぁ……。あー、私、そろそろ職務に戻ります、ね……」


さっきまであれこれ根掘り葉掘りと聞いていた准尉は、逃げるように司令室を後にした。

レン少佐は気にしない様子だったが、明らかにおかしい。

後でウェンさんに聞いてみようか。

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