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地味令嬢の観察日誌が、なぜか王宮で配られているのですが  作者: トークン
観察者は観察される

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9/13

第九話「条件、守られていません」

 交渉から三日後、エリーゼは王宮の図書室で第四巻の整理をしていた。


「ここにいたのか」


 殿下だった。


「話しかけないという条件でしたが」


「話しかけていない。ただ声をかけただけだ」


「それを話しかけると言います」


 殿下は涼しい顔で向かいの椅子に座った。エリーゼはため息をついてノートを開いた。


 ——条件違反、一回目。初日である。


 翌日、中庭でメモをまとめていると背後に気配がした。


「邪魔じゃないか?」


「邪魔です」


 殿下が声を上げて笑った。そのまま隣に座った。


 ——条件違反、二回目。二日目である。早い。


 その翌々日、王宮の廊下を歩いていると、いつの間にか隣に人の気配があった。


「いつからいらっしゃいましたか」


「さあ」


「……廊下で待ち伏せですか」


「通りかかっただけだ」


 廊下は一本道だった。エリーゼは一秒考えて、追及をやめた。


 ——条件違反、三回目。廊下は一本道だった。それだけ記録しておく。


 エリーゼは観念してノートに新しい項目を作った。


 ——生態記録・R殿下。

 出現回数:三日で三回。

 話しかけた回数:三回。

 条件を守った回数:ゼロ。

 感想:条件とは何だったのか。


「何を書いた」と殿下が覗き込んだ。


「殿下の生態記録です」


「生態」


「はい」


「俺は動物か」


「観察対象は平等に扱います」


「……法則性とは何だ」


「出現場所に規則性があるかどうかの調査です」


「ない」


「それも記録します」


 殿下が何か言いかけたところへ、ランベルトが飛び込んできた。


「殿下、議会の資料が——」


 部屋の状況を見て固まった。殿下とエリーゼが並んで座り、エリーゼがノートに何かを書いている。


「……俺も書かれますか」とランベルトが恐る恐る聞いた。


「すでに第二巻に載っています」


「何ページですか」


「十二ページです」


「十二!?」


 ランベルトが頭を抱えた。


「……何が書いてありますか」


「隠し事をしているときの顔の特徴と、その頻度です」


「頻度まで!?」


 殿下が声を上げて笑い出した。エリーゼはそれを全部記録した。


 ——本日の観察。

 条件違反:三件。

 ランベルト子爵の動揺:想定以上。

 充実度:高。疲労度も:高。

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