表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地味令嬢の観察日誌が、なぜか王宮で配られているのですが  作者: トークン
観察者は観察される

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/12

第十話「常連たちが騒いでいます」

 第四巻を書いているという噂が、どこからか広まった。


 心当たりは一つしかない。エリーゼはランベルトの顔を思い浮かべた。あの男は口が軽い。いや、正確には「悪意なく漏らす」型だ。第二巻に十二ページ分記録してある。


 エリーゼはノートを開いた。


 ——緊急観察事項。第四巻執筆の噂が広まった。発生源:ランベルト・ハイン子爵と推定。根拠:他に候補がいない。対応策:諦める。


 最初に来たのはヴェルナー侯爵夫人だった。


「エリーゼ様、第四巻に私は出てきますか?」


「出てきます」


「何ページですか」


「現時点で八ページです」


「昨年より増えましたわね」と夫人は満足そうに言った。「内容は?」


「お茶会の観察です」


「あら、素敵。——ところで「猫タイプ」の件、今年は正確に書いてくださいましね」


「承知しています」


「それから」と夫人は少し声を潜めた。「シュタインフェルト令嬢のことも書いてあげてください。あの子、エリーゼ様のことをずいぶん気に入っているのよ」


「……すでに書いてあります」


「何ページ?」


「三ページです」


 ヴェルナー侯爵夫人が嬉しそうに笑った。まるで自分のことのように。


 次はドレフュス子爵令息から手紙が届いた。


 ——今年も詩を使ったのですが、令嬢方の反応が「またか」から「待ってました」に変わりました。様式美として定着した模様です。記録をお願いしたい。追伸:先日、令嬢の一人から「あの詩、好きです」と言われました。報告まで。


 エリーゼは手紙を二度読んだ。追伸の一行を、もう一度読んだ。


 ——ドレフュス子爵令息・今年の観察。詩が様式美として昇華した。令嬢から「好きです」との評価を得た模様。観察者として感慨深い。三年間、安定株として記録し続けた甲斐があった。来年の動向が楽しみである。がんばれ。


 マイヤー男爵令嬢からは直接訪問があった。


「エリーゼ様、第一王子殿下と三回目のダンスを踊りました」


「おめでとうございます」


「全部エリーゼ様の「がんばれ」のおかげです」


「私はノートに書いただけです」


「それが力になりました」とマイヤー令嬢は言った。目が潤んでいる。「第四巻にも書いてください。「がんばれ」って」


 エリーゼは少し迷った。ノートとは観察記録だ。応援の言葉を書く場所ではない。しかし、と思う。三年前に壁際で書いた「がんばれ」が、この令嬢の三回目のダンスに繋がったのだとしたら——それは記録する価値がある。


 エリーゼはノートを開いた。


 ——マイヤー男爵令嬢・今年の観察。三回目のダンス成功。観察者として、がんばれ。


「書きました」


 マイヤー令嬢が今度こそ泣き出した。


 エリーゼはしばらくその様子を眺めた。三秒考えた。ハンカチを差し出した。


 マイヤー令嬢がそれを受け取りながら「ありがとうございます」と言った。エリーゼは「いえ」と答えた。


 それからノートにもう一行書き加えた。


 ——嬉し泣きであることは把握している。とりあえずハンカチを渡した。これで良かったのかはまだわからない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ