第二十八話「答えを伝えました」
翌日、王宮の小さな庭で、エリーゼはルードヴィッヒと向かい合っていた。
いつものベンチではなく、立ったままだった。
ルードヴィッヒは普段の姿勢のまま立っていたが、エリーゼには違いがわかった。手が少しだけ握られている。視線がいつもよりこちらに固定されている。表情は崩れていないが、待っている人間の顔だ。観察者として三年間積み重ねてきた目が、今その緊張を捉えていた。
殿下も、答えを待っているのだ。
エリーゼは深く息を吸った。
「お返事を申し上げます」
「ああ」
声がいつもより低かった。
「お受けします」
殿下が、息を吐いた。
その息の長さが、待っていた時間の長さだった。
「殿下と——」とエリーゼは続けた。少し止まった。観察者の語彙ではない言葉を、人前で口にするのは初めてだった。
「殿下と、一緒にいたいので」
殿下がしばらく動かなかった。
「……それは」と殿下は言った。「君の言葉か」
「私の言葉です」とエリーゼは答えた。「観察者の語彙にはなかった言葉です。昨夜、初めて自分の中で見つけました」
「俺のためか」
「私のためです」とエリーゼは言った。「殿下のためでもありますが、まず、私が私の意思で出した答えです」
殿下は何も言わなかった。庭の木が静かに揺れた。
「ただし、条件があります」
「条件か」
「三つあります」とエリーゼは言った。「一つ。観察記録は今後も続けます。共著も継続します」
「当然だ」
「二つ。観察中に話しかけることは、引き続き条件違反として記録します」
「努力する」
「三つ目」
エリーゼは少し間を置いた。
「私は観察者として記録することと、関わる側として決断することを、両方できる人間になります。それを許してください」
殿下はしばらく黙っていた。
「許す、ではない」と殿下は言った。「望んでいる」
「それは、観察者として記録すべき発言ですか」
「記録するな」
「なぜですか」
「今この瞬間は、二人だけのものでいい」
エリーゼは笑った。今度は外側で、はっきりと笑った。
「——わかりました」
殿下が手を差し出した。エリーゼはそれを取った。
風が吹いた。庭の木々が揺れた。エリーゼは初めて、その音をノートに書かない選択をした。




