第十六話「常連たちに知られました」
共著の噂が広まるのに、三日もかからなかった。
最初に来たのはヴェルナー侯爵夫人だった。
「エリーゼ様、第五巻は共著とお聞きしました」
「はい」
「私の項目は誰が書くのですか」
「両方で書く予定です」
「殿下の項目と私の項目、両方読めますか」
「……検討します」
「ぜひ」と夫人は満足そうに言った。「殿下がどう書くか、非常に気になりますわ。昨年の夜会で殿下がこちらをご覧になっていたのは気づいていましたけれど、どんな印象を持たれているのかしら」
エリーゼはその発言をそのままノートに書き留めた。ヴェルナー侯爵夫人は殿下の視線に気づいていた。三年間の観察記録には書いていなかった。やはり抜けているものがある。
次はドレフュス子爵令息が手紙を寄越した。
——共著とのこと、おめでとうございます。私の項目は詩について詳しく書いていただけますか。今年は新しい詩も考えました。追伸:殿下はどんな観察をされるのか、令息仲間の間で話題になっています。
エリーゼは即座に返事を書いた。
——新しい詩を使うのですか。令嬢方への影響を観察するのが楽しみです。殿下の観察については、完成してからのお楽しみということで。
マイヤー男爵令嬢は直接訪ねてきた。
「エリーゼ様、共著の話、本当ですか」
「本当です」
「殿下と並んでノートを書いているんですか」
「添削もしています」
マイヤー令嬢が夢見るような顔をした。
「素敵……」
「添削なので地味な作業ですが」
「そういうことじゃなくて」とマイヤー令嬢は言った。少し迷うような顔をしてから続けた。「エリーゼ様、自分のことに気づいていないんですね」
「何のことですか」
「殿下が——」とマイヤー令嬢は言いかけて、口を閉じた。「なんでもないです」
「なんでもないとは思えませんが」
「第五巻を読めばわかります」とマイヤー令嬢は笑った。「楽しみにしています」
エリーゼはその背中を見送った。
——マイヤー男爵令嬢の発言「自分のことに気づいていない」。言いかけて止めた。意図的に隠した顔だ。
「自分のこと」が何を指すのかは、わからない。それが何なのか、まだ言葉にならない。
——観察継続が必要だ。自分自身の。




