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ロクスイ(六術)  作者: ろくろ
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第3話:代償/救済

【生徒会室:規律と追及】

「……言い訳は聞きません」

久瀬麗奈の氷のように冷たい声が、生徒会室に響く。

その視線の先には、先ほどH組で暴れていた2年生の先輩たちが、文字通り「蛇に睨まれた蛙」のように硬直して立っていた。

「伝統ある本校において、未熟な下級生への術式使用は、即ち『暴力』と見なします。貴方たちには一週間の停学と、復帰後の奉仕活動を命じます。……下がりなさい」

先輩たちが這うように部屋を去った後、麗奈は静かにため息をつき、代わりに前に出された刹那へと視線を向けた。

「さて、本田刹那君。貴方の霊力値は『0』。理論上、術式の起動どころか、霊的な干渉すら不可能なはずです」

「はい。ですから、あの時は本当に足がもつれて、たまたま手が当たってしまったというか……」

刹那は頭を掻きながら、困ったような笑みを浮かべる。

麗奈の瞳が、鑑定士のような鋭さで刹那の全身を舐めるように走った。

(……嘘ね。あの時、彼の重心は微塵もブレていなかった。あの一撃、ただの『0』に、あんな練り上げられた体術ができるはずがない)

麗奈は椅子に深く腰掛け、扇子でトントンと机を叩いた。

「……いいでしょう。証拠がない以上、これ以上の追及はしません。ですが、貴方のその『偶然にしては高すぎる身体能力』、有効活用させてもらいます」

麗奈は冷徹に、決定事項を告げた。

「来週から一カ月間、政府の追加予算一兆円によって導入される**『最新霊子増幅訓練施設』の設営および重機搬入作業**を命じます。魔導機器の重量は数トン単位。無能力者の貴方には過酷な重労働ですが、その『頑丈な体』で貢献しなさい」

「ええっ、重機ですか……?」

「異論は認めません。……本田君、貴方が何者であれ、この学校で『規律』を乱すことは許さない。行きなさい」

【生徒会への勧誘

刹那が肩を落として部屋を後にした直後、室内の温度がさらに数度下がったような感覚と共に、一人の少年が入室してきた。日の国の四柱の一つ、枢木家の御曹司、枢木隼人だ。

彼は乱れ一つない制服の着こなしで、麗奈の前で完璧な会釈をしてみせた。

「久瀬の姫君、お呼びでしょうか。先ほど廊下で、醜く狼狽える二年生の無能共とすれ違いました。礼節を欠いた不届者は、早急に処分されるべきです」

その言葉遣いは丁寧だが、眼差しには弱者への容赦ない蔑みが宿っている。

「枢木君。貴方に生徒会副会長への就任を正式に打診します」

麗奈の言葉に、隼人は深く、優雅に頭を下げた。

「光栄です。国家四柱として、国の未来のため尽力していきます。貴女の傍らで規律を正すこと、この上ない喜びです」

【放課後:黄金色の癒やし】

「……っていう感じに、こってり絞られてきたよ」

駅前のベンチ。刹那が事情を話すと、結城遥が大きな瞳を潤ませて身を乗り出した。

「本田くん、ごめんね……! 私がみんなを巻き込んでしまって、さらに本田くんにだけ迷惑を掛けて……。本当に、本当にありがとう!」

「いや、いいんだよ。それに、重労働くらいなら慣れてるから」

そんな刹那の隣で、瀬川伊織が穏やかな微笑を浮かべた。

「刹那くんは強いね。麗奈さんに睨まれてそんなに平気でいられるなんて。……でも、無理はしないで。僕らもできることは手伝うから」

伊織が差し出したのは、紙袋越しにも熱が伝わる焼き立ての鯛焼きだった。

遥が袋を開けると、香ばしく焼き上げられた小麦の香りが、夕暮れの空気にふわりと広がる。

「見て、この生地! 表面がカリッとしてて、中は赤ちゃんの肌みたいにモチモチ……!」

遥が鯛焼きを割ると、中から黄金色に輝く、とろりと濃厚なカスタードが溢れ出した。バニラビーンズの黒い粒が見えるほど本格的なクリームだ。

「んん〜っ! 甘い! 卵のコクが凄いです……! 疲れが全部どこかに飛んでいっちゃう!」

遥の幸せそうな声につられ、刹那も一口。

熱々のクリームが舌の上でとろけ、濃厚な甘みが口いっぱいに広がる。カリッとした尻尾の香ばしさと、卵の風味豊かなカスタードのコントラストが絶妙だった。

「……本当だ。これ、最高に美味しいな」

「でしょ? 明日から、みんなで頑張ろうね。本田くんの労働も、僕たちの修行も」

伊織の穏やかな微笑みと、頬をカスタードで汚しながら笑う遥。

「うん。……みんなで一緒なら、何とかなりそうだ」

刹那は心からそう思った。今はまだ、この甘い鯛焼きの温かさが、彼らにとっての唯一無二の救済だった。


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