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3章 最弱のボクが遊園地で襲われる?

━ E世界の14日目、廃園となった遊園地のベンチにすわって、ボクは感傷にひたっていた ━

 

 ウォータースライダー棟は撤去済だったが、船型ブランコやメリーゴーランドは解体工事を夕陽のなかで静かに待っている。ティーカップを回しすぎて、気分が悪くなってダウンした夏休みの記憶。あの時の同級生は…。

 

 「トリック・あお?…トーリトー」

 小さな手が、ボクを目隠しした。幼く舌たらずな声、カスタードのかすかな香り。

 「それはトリック・オア・トリートかな」ボクは目隠しの手を優しく外して、ふりかえる。

 ブタ耳カチューシャをつけた1m級の幼女3人組が、お菓子と紙袋を握りしめながら立っていた。

 おそろいのスクール水着の胸には、白い布地が貼られ、名前らしきものがアップリケされている。

 

 「お菓子ちゃぶだい。くれなきゃ、グー・クー・ヌー♪のブイブヒ爆走3姉妹が、イタズラしちゃうよー」

 ベンチ端を回りこんできた次女らしいクーが、クリームパンをほおばりながら催促の手を突きだしてきた。ヌガーチョコバーをくえた末子のヌーは、ボクを目隠しした長女のグーに、拳大のペロペロキャンディを渡している。

 

 「嬢ちゃん達、お菓子ばっかり食べると虫歯になるよ」ボクはお菓子をもってないし、売店は閉まっている。お菓子のかわりに、ツッコミをいれることにした。

 「食べたら、すぐ歯みがくもーん。オジサンは、一人で歯ミガキできるー?」

 クーの小生意気な切りかえしは無視する。

 

 「ボクのことは、お兄ちゃんって呼ぼうね」呼び名は、早いうちに正しておきたい。

 「オーケー」「ヘンタイ兄ちゃん」「うんうん」

 3姉妹の返事に、ガクッとなる。

 「でも、ホワーイ?ヘンタイ?」「裸になりたがること、だってー」「うんうん」

 裸でバトルするのは仕様だと説明しても、彼女達には通じないだろう。おなかが痛くなりそうだ。

 

 緊急入院先の総合病院から一時退院したボクの出で立ちは、グレーの作業着の上下にサンダル履きだ。ダンボール箱を載せた台車を手押しして、箱の中のバッテリーとつながるカテーテルを隠している。このスタイルのおかげで、工事予定現場まで潜入できた。

 

 「はやく行こ。カートに乗りたいよ」

 末子のヌーが、台車のバーを押すボクの手を引っぱった。少しベトベトしているけど、小さな温かい手だ。

 でも、電動カート乗り場に着いたら、爆走3姉妹とバトル開始だろう。かわいい幼女達と遊べる時間を、もう少しだけ大事にしたい。

 

 「嬢ちゃん達、タブレット持ってないみたいだね。どうやってボクを呼びだす送信してきたの?」時間をかせぐため、質問してみる。

 幼女達の荷物は、お菓子と紙袋だけだ。通信用タブレットが納まっているとは思えない。

 

 「んーとね。これ、あげる。離れても、お話しできるよ」

 ヌーが、紙袋から獣耳カチューシャを取りだした。彼女のそばにしゃがむと、背のびしてボクの頭に装着してくれる。ボクは立ちあがって、骨伝導イヤホンを両耳にはめた。

 「これで、ヘンタイ狼兄ちゃんね」

 ヌーの声が、直とイヤホンの両方から聞こえてきた。常時通話タイプらしい。

 

 ボクは手をあげて、カチューシャの獣耳にさわった。狼の耳の中に、モバイル端末らしき感触がある。

 (子ブタ3姉妹が逃げて、狼兄ちゃんが追いかけるルールなら…体格差とリボルバーのあるボクの楽勝かな)そう思うと、顔がほころんでくる。

 

 ボクがニヤついている間に、3姉妹は10m以上も先行していた。

 「ヘンタイ狼兄ちゃん」「お菓子ほしいでしょー」「キャッチ・ミー、ブリーズ」

 3人ともヒップをつきだし、平手でペンペンたたいてボクを挑発する。

 幼女達の遊びに、つきあってやるか。

 「お菓子、食べちゃうぞぉ!」キャッキャッと笑いながら逃げる3姉妹を、ボクは強く台車を押して、追いかけ始めた。狼兄ちゃんらしく舌なめずりしながら。

 

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆  

 

 ようやく電動カート会場に着いた時は、日が暮れようとしていた。台車を押しながら園内を端まで走ったせいで、ボクはハァハァと息があがっている。

 (汗でぬれた作業着が、体に貼りつく。お風呂はいりたいなぁ)ボクは顔の汗を手でぬぐいながら、心の中でつぶやいた。

 

 幼女達は勝手に出入口を開けて、メリーゴーランドに似た円盤状の建物へ入っていく。ボクも台車を押しながら、中に入った。

 電動カートが3台停まっている以外に、遊具はない。夕闇に包まれた円形の会場内で、フローリングの床面が広く感じられた。

 

 「嬢ちゃん達、勝手にカート乗って大丈夫かな」ボクの問いかけは無視される。

 「ヘンタイ狼兄ちゃん、そこのハンドル回して」

 ヌーが指さした内壁に、手回しクランク・ハンドルが設置されていた。

 片手で回そうとしても、固くて回らない。

 「うんしょ、うんしょ」うなりながら、ボクは両手を使い全力でハンドルを回した。ガシャガシャ音とともに、鉄格子シャッターが下りてくる。ハンドルを回しきると、床面を囲む低いサイド・ウォールにシャッターが到着した。

 

 「ヘンタイ狼兄ちゃん、ハンドルの下のボタンも押して」

 背後からヌーの声が聞こえてくる。横長・扁平の鉄格子のすき間から漏れてくる夕闇の中、ボクはボタン・スイッチを押した。

 押したとたん、それは始まった。

 BGMのイントロ音が耳をつんざく。無数のスポットライトとレーザーの回転光が、カート会場全体をフラッシュする。場内中央の天井では、ミラーボールが、きらめいている。

 

 まぶしい回転光に小手をかざしながら立ち尽くすボクのそばに、ヌーが運転するカート零号車が停まった。半分ほどお湯がはいった4輪車付き洋式バスタブを牽引している。ボクはカート3台に包囲されていた。

 助手席に大シャベルや大工道具を載せた壱号車にはクーが、大ナベや料理用具を載せた弐号車にはグーが、乗っている。

 いつの間にかお揃いの黒サングラスをかけて、3人とも暴走族っぽい。

 

 「ヘンタイ狼兄ちゃん…裸になって。こっちのお風呂…はいりたいでしょ」

 カート運転席に座ったヌーが、牽引したバスタブを指さしている。BGMにじゃまされて、通話音声だけ途切れ途切れに聞こえる。

 「いや、それは…ちょっと」ボクは、断る理由を探すべきだろう。幼女に見られながら自分だけスッポンポンになるのは避けたい。

 「ほら、リードがつながっていると、服を脱げないから…」

 

 チョキン。

 「え!」ダンボール箱のそばでカテーテルが切断された瞬間、ボクのリボルバーからカテーテルが抜け落ちた。同時に発射された白い液弾は、抜け落ちた部分の真ん中で止まっている。言い訳の途中でボクが絶句した分、勢いを失ったらしい。

 「リード…切っちゃったー」

 ダンボール箱を載せた台車のそばに、壱号車が停まっていた。運転席のクーが大きくて長い枝切りハサミをチョキンチョキンしながら、カテーテル切断を自白する。

 

 「熱湯風呂じゃないよ…おはいり」

 ヌーが妖艶な笑いを浮かべながら、急に大人びた声で促してきた。

 (ヤバそうな雰囲気だ。バトル開始か)カートに包囲されたボクは、周囲をうかがった。

 壱号車のクーは枝切りハサミで遊んでいるし、弐号車のグーは大きな包丁とオタマを持ってカチャカチャぶつけている。オモチャじゃありません、と注意したくなりそうだ。

 

 「じゃ…風呂つかわせてもらおうかなぁ」手早く作業着の上下を脱いだボクは、股間を隠しながらバスタブに足を入れる。適温だった。

 作業着とサンダルを台車のほうへ投げると、腰の上までお湯につかる。ボクはバスタブの縁に両ヒジをのせて、背中を壁面に預けた。

 「いい湯カゲンだよ」ボクは片手をあげて、3人に空元気の笑顔を向ける。が、バトルの次の展開が気になって、心は温まらない。

 

 「スタート…ゴー!」

 グーの声を合図に、3台のカートは時速8キロほどで走り始めた。パラヒラパラヒラと暴走族ホーンを鳴らしながら、グーの弐号車が円形会場の中心近くを周回する。すぐ外側をクーの壱号車が、パプゥパプゥと外国ポリスのサイレン音をあげて追走する。ヌーの零号車と牽引されるボクのバスタブは、大外を周回しながらスピードをあげていく。バスタブ内のお湯が波だって、バシャンバシャンこぼれる。

 

 「シートベルトしめなくて、いいのかな」牽引する零号車に向けたボクのけん制発言は、運転中のヌーの背中に無視された。

 「格子さわると…感電するよ」

 前方を見たままのヌーから通話を受け、ボクは両ヒジをバスタブ内側にひっこめた。スピードアップするたびに、バスタブの揺れが大きくなる。鉄格子にぶつかりそうだ。

 

 注意して見ると、鉄格子シャッターは部分的にバチバチと空中放電しているようだ。

 (高圧電流の鉄格子デスマッチ。濡れた裸で、感電しやすくするための風呂だったのか)大揺れして湯をこぼしながら爆走するバスタブ。その縁にしがみつきながらボクは後悔した。

 

 もう時速20キロ近くだろう。バスタブは上下左右に激しく揺れまくって、すぐにも横転しそうだ。

 (外側に横転したら、裸で鉄格子に激突して感電する。ならば!)ヒラメいた瞬間、ボクはバスタブからジャンプして周回軌道の内側にとびだした。

 

 床面に着地し、転がりながらスライディング。濡れた体が、予想以上に遠くまで転がる。が、持ちこんだ台車にぶつかった。台車から落ちたダンボール箱と作業着がブレーキ材になって、止まることができた。

 

 擦りむき傷に顔をしかめながら立ちあがる。ちょうど、手回しクランク・ハンドルのある内壁の前だった。鉄格子シャッターが設置されていない場所。ここで守備できれば、感電する心配はなさそうだ。

 

 円形のカート会場の反対側、ボクの正面に零号車が停まっていた。小手をかざして見ると、横転したバスタブとカートの牽引装置のそばで、ヌーがしゃがみこんでいる。壊れて走行不能になったのかもしれない。

 

 その時、ボクの斜め左と右から、弐号車と壱号車が突進してきた。気づくのが遅れた分、跳びのくのが遅れる。

 ダーン!

 「ぎゃッ」右足首が、カート2台の厚いゴム製バンパーに挟みうちされる。ボクは右足首をおさえながら床に倒れた。

 

 激痛でのたうちまわっている間に、壱号車に続いて弐号車が、向きをかえてやってきた。起きあがって逃げる。

 右足でふんばれない。左足もやられたらアウトだ。

 追いつかれる!

 追突される寸前に跳びあがった。が、壱号車の前部ボンネットに尻もち。

 ボクを振り落とそうとして、壱号車はジグザクに走る。ボクは後ろ手で、フロントガラスにしがみつく。

 

 ジグザグ走行をやめた壱号車は、前方の鉄格子めがけて突っ走った。厚いゴム製バンパーで護られたカートは格子に接触しても平気だろう。が、衝突のショックで格子へとばされたら、裸のボクは感電死だ。

 

 壱号車の左後方へとびおりる。コースを変えた弐号車が目前に迫ってくる!

 横へダイブ。ボクのそばを弐号車のボディがかすめていく。

 壱号車に続いて弐号車も、ドーンとサイド・ウォールに衝突する。

 キャッキャッと笑いころげるクーとグー。

 運転ハンドルをきると、車体を80度方向転換して左右に遠ざかっていった。必死のボクを、なぶるかのように。

 それからも、かわして逃げるだけで精一杯。致命傷を負う前になんとかしたい。

 180秒経過していないせいか、頼みの銀色リボルバーはまだリロードしてこない。

 

 挟みうちされそうになった3回目、ボクが際どくかわすと、壱号車と弐号車は斜めに衝突。反動で2台横並びのままドンッとサイド・ウォールにつっこんだ。そのまま動かない。

 

 夏休みに電動カートに乗った記憶が戻ってきた。サイド・ウォールにぶつかって動けなくなった時、係員が歩いてきて、車体を後ろに蹴とばして、向きを変えた記憶が。

 (この電動カートは、バックできないはず…くっついて停まったから、方向転換するスペースがない。動けないんだ!)ボクは心の中で雄叫びをあげた。

 

 右足の痛みも忘れて、駆けよる。弐号車の助手席から大ナベを、壱号車から大シャベルを、とりあげる。

 壱号車の後部に回り、左右の後輪の間にシャベルをつっこむ。シャベルをテコにボディを持ちあげると、伏せたナベをボディの下へ蹴り入れた。

 左足でナベをガシガシと横蹴りして押しこむ。後輪駆動を空回りさせて、一丁上がり。

 

 次!

 放置していた台車に走りよる。押しながら急いで戻り、弐号車の後部に回りこんだ。

 手押しバーを上に引く。前部を低く、後部を高く、台車を前傾させる。ボディ下に台車をつっこみ、 「ヤッ!」と気合をいれながら左足でテコの台車を強く踏む。弐号車の後部を宙に浮かせる。二丁上がりだ。

 

 「まいったか!」台車を踏んだまま、ボクは吠えた。が、反応がない。

 弐号車の運転席をのぞくと、グーが消えていた。壱号車のクーも逃げたあとだ。

 「3人とも尻だして出てこい!ペンペンお仕置きしてやる!」叫ぶと、ボクは台車から離れてノッシノッシ歩いた。

 ちょうど180.01秒経過して、リボルバー銃身は仰角45度。トリガーに指をかけて3姉妹を探す。

 

 零号車のほうに気配。ガニ股で近よっていく。横転したバスタブの後ろから3姉妹が逃げだした。今度は、壱号車と弐号車の後ろへ縦列になって隠れた。

 

 「両手をあげて出てこないと…セイ射…テッポウでうっちゃうぞ」ボクは狙いを定めると、幼女向けに言いかえて脅かした。

 縦列先頭はヌーだ。左手にナベブタ、右手に大シャモジ。クーが後ろからフライパンをかぶせて、ヌーの頭をガードしている。

 ヌーが、舌をベェとつきだした。

 「ちっちゃいテッポウなんて…こわくないもん」

 

 「くっ」ドピュッ、ドピューン。イタい指摘をされて、ボクは思わずトリガーを強く2回ひいてしまった。

 2発目の青い液弾はナベブタで、3発目の緑の液弾はシャモジで、ヌーがカンペキに防ぐ。

 (マズい。3人に残り液弾3発をセイ射したら、6発目でボクは死んでしまう)狙いを修正しながら、ボクは左斜め前方へ進んだ。

 (1発で2人か3人に当てないと)ボクの狙いを察したヌーが、正対するように体の向きを変える。

 

 液体を弾丸として飛ばすために、粘性を高く設定してあった。連射すると粘性が落ちて液弾が散弾になったり、射程が短くなったりするから、3.5秒以上あけて連射するようドクターから注意されていた。

 

 シャモジに命中した緑の液が柄のほうに流れ落ちてきた。ヌーがシャモジを放りだす。クーが、ヌーの右手へオタマを手渡そうとしている。

 

 その瞬間、ボクは4発目の黄色の液弾をセイ射した。

 すばやくオタマを構え直したヌーが、液弾をはじく。

 が、オタマの凸面にバチャとヒットした液弾は四散。散弾となった大粒の液がヌーの頭上のフライパンにビチャンと当たり、黄色い粒子の飛沫となってヌー達に降りかかった。

 ドングリ眼でボクを見つめる3姉妹。

 ちょうど210.00秒経過して、バッテリーが切れたボクはヘナヘナと倒れこんだ。

 

 ゲホゲホ、ゴホゴホ。黒サングラスをむしり取った3人は、吸いこんだ飛沫をセキこんで出そうとする。ひとしきりセキこんだ後は、涙目で不平不満の嵐だ。

 「ペッペッペッ!」「ゲロゲロゲロ!」「クサい!」「ヘンタイ」「ギャクタイ」「うったえてやる」

ブヒブヒ文句を言いながら遠ざかっていく3姉妹を、ボクは横倒しのまま見送った。

 

 先頭のグーが、手回しクランク・ハンドル下のボタン・スイッチを押す。BGMが止まり、全照明が消えた。出入口を押しあけて、グーとクーが順に会場外に出る。

 最後尾のヌーの影が会場外の薄明りに溶けていった後、ボクは暗闇と静寂の中に一人残された。

 

 「あのボタン・スイッチをリセットすれば…外へ逃げることができたのか」バカだった。情けなくて、ハぁぁとタメ息をつく。

 忘れていた右足首の痛みが戻ってきた。

 

 前回まではドクター映像がサポートしてくれた。最近は3姉妹の呼び出し通信を取り次いだ以外、何も言ってこない。ひどい助言ばかりだが、やっぱりドクター映像がないと心細かった。

 寒い。おなかまで痛くなってきた。

 

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆  

 

独白━ アタシはシナノ・ミキ、18歳。訳あって現実のA世界では無職だ。

E世界の病院で掃除人をして仮想通貨eイーネを稼いでいる。 

特技はハッキングとクラッキング ━

  

 三毛猫の獣耳のカチューシャをつけたミキは、E世界ポータルサイト“悪逆ニュース”を観ていた。

 “彼氏にしたくないアバター1位”アイカワ・カオルを撮影した動画や静止画が、10個以上アップされている。

 

 「まいったか!」と吠えている画像は、「また裸」「幼女相手に」「オトナげない」とディスられている。

 「おカシ…ちゃうぞぉ!」と舌なめずりしている画像には、「ロリコン」「ヘンタイ」「死ね」のコメントが殺到していた。    

 

 「ウソばっかり」

 ミキはつぶやいた。

 (『お菓子、食べちゃう』→『おカシ…ちゃう』なんて、切り取り編集じゃん)ミキの体の奥で怒りが渦まく。

 

━ アヤツとの出会いは最悪だった。

E世界の迷惑アバターを退治するために雇われたというカオル。アヤツが強大化した最初のバトルで14棟のビルが破壊された。その中に、アタシの勤め先のパン屋もあって…職を失ってショックだった。だから、現場掃除に来たアヤツを憎んだ。罵った。石も投げつけた ━

 

 ミキの頭の中に、先日の記憶がよみがえってきた。

 ストレート・パンチにふっとばされ、背中から落ちて、パン屋のビルを壊したアヤツ。

 壊したビルのガレキ掃除に来て、弁償しろ!と野次を浴びたアヤツ。

 石を投げられて困った顔をするアヤツ。

 

━ 当局から転職先の病院を紹介された夜、地下道で寒さに震えて泣きながら寝ているアヤツを見つけた。弱虫で情けないアホ、一番嫌いなタイプ。でも、なぜか気になってアタシはオッカケている…アヤツを ━

 

 地下道で大量のダンボールと工事養生シートにくるまり、自分の腕を抱えて震えながら泣いているアヤツ。巨大化したのに小心者のアヤツ。

 

━ プロレス勝負後の深夜、腹痛で苦しんでいたアヤツのために救急車を呼んだのはアタシ。1.7m級に戻っていたから、転職先へ入院できるように手配もした。カート会場のバトルも、噂を聞いて先回りして、最後まで見届けた ━

 

 ミキは、セーラー服3人組の電車内の会話を思い出した。

 「この画ヤバいじゃん」「短小モロ出し、ありえねー」「人間やめたくなりそう」

 ミキは、彼女達の肩越しにタブレットをのぞいた。

 プロレス勝負の後で、動けなくなって仰向けにノビているアヤツの静止画だ。

 

 (迷惑アバター退治をさせているのに、ここまでアヤツを貶めるのはフェアじゃない)ミキは、右手の拳で左の掌をパチンと打つ。

 (でも、なんか…おかしい。迷惑アバター達が暴れだしてから、アヤツがE世界へ召喚されるまで早すぎる。バトルを煽りながら、アヤツを…カオルを貶すニュースばっかり。誰かが何か仕掛けている)左の人差し指にアホ毛の房を巻きつけながら、ミキは考え始めた。


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