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第二十九話

「どう、何か分かるし?」

「いや、何も」


「もっと、良く見るし」

「おう」


 ゴブリンがいた洞窟に戻るが、そこには魔物の姿も徹君の姿もなく、帰ってきた形跡もないように思える。


 暫らく洞窟内を東堂さんと探っていると、


「くっきー、加奈、来た来た、早くでないとまずいっしょ」


 入口から埼玉君の声が聞こえ、その声に急かされて洞窟を出る俺と東堂さん。


 そして草むらに隠れると、ゴブリンが肩に徹君を担いで歩いてくる。

 徹君は気絶しているようだが、一件大きな怪我は見られない、何故か服がいやらしくはだけているが、気にしないでおこう。それが彼のためだろう。


「捕まってるね」

「あぁ」


「やばいっしょ、食べられるんじゃない」

「美味しくないよぉ~」


 徹君の味は知らないが、確かにまずい、味ではなく状況が。

 このままではゴブリンに彼が囚われていても良い事は何一つないだろう、なるべく早くどうにかしないといけない。


「助けるし、あーし、仲間は見捨てないよ」

「俺っちも」

「私もです」

「俺もだ」


「それじゃ、田中、頼んだよ」

「頼みます」

「よろしくです」


 皆が俺を見る。

 はい、分かっておりましたよ、私目にその役目が来ることは、なんとか察知しておりました。なんていったって、二度目ですからね。今回は河合さんにもお願いされたから頑張っちゃおうかな。


「おう」


 っと気合を入れて返事をするが、でも、どうするべきか。

 相手は大きなゴブリン、徹君から離れてくれれば手榴弾投げて一発だが、今のこの状況では彼が巻き込まれるのでそれはできない。とにかくゴブリンと徹君を離す必要がある。


「どうにか、ゴブリンと徹君を離せないかな?」


 困った時は、仲間に相談だ。


「う~ん、又、誰かが囮になる?」


 何か同じような展開になりそうな気がするが、俺が囮なら問題ないか。


「囮は俺がやるよ。それでそのまま倒す、だからみんなは徹君を」

「う~し、そうしようか。一応あーしはあんたについてくよ。二人いれば徹は運べるだろうし」


 まぁ、確かにそうだけど、何か嫌な予感がしなくもない。

 それに一人の方が身軽で動きやすい。


「危ないから一人の方がいいかな」

「いーしょ、いーしょ、まさかあんた、又、一人締めするき?するき?」


「違うって、違う。でも本当に危ないよ」

「大丈夫し、あーしは大丈夫」


 そうすか~。

 謎の自信に満ち溢れている彼女を説得するのは面倒だ、それなら一緒に移動した方がいいだろう。なるべく早くしないと徹君が食されるかの可能性も無くはない。

 

「それじゃ、行こうか」

「うし、うし」


 俺と東堂さんがゴブリンが入った洞窟に近づくと、中から何かが飛んでくる。

 

 やばい、ばれたかっと思ったが違ったようだ。

 ゴブリンはこちらに背を向けたままで、飛んできたのは・・・服?それも、これは・・徹君が着ていた物だ。


 まさか、今すぐに、ナウに、彼がゴブリンに食されるのか?

 いたされるのか?胃の中に移動してしまうのか?


 焦りながらそっと近づくと、そこには服を向かれた徹君の姿。

 トランクス一枚、通称パン一の彼が洞窟の床に転がっている。思った以上に彼の体は鍛えられており、その筋肉質な身体に思わず見とれてしまう。


 だが、ゴブリンには徹君を食べるような気配はなく、ただ彼の頭を膝の上に乗せ大切そうに撫で撫でしているだけ。それはさながら人形遊びをする女の子のような仕草。


 なんでしょうね、見てはいけないシーンを見てしまった気がします。

 凄くいたたまれない気分です。

 

 私、あのゴブリンの子供爆殺しましたしね。もっと鬼畜のプレイをしてくれないと、色々モチベーションが上がらないんですよ。例ば、同人誌の様に徹君をアーするとか、食すとか。それなら、「くそー、あいつ。絶対殺してやる」ってなるんですがね。


 っと黄昏ていると。


「あんた、今がチャンスよ。後ろから一気にやればいいわ」

「いや、無理だ。今やると徹君も巻き込むことになる」


「そっ、それなら離すし」


 地面の石を拾い、徐に投げる彼女。

 が、それはゴブリンをはずれ、徹君にヒットする。


「な、なにやってるんだよ!」

「知らないし。野球得意じゃないし~」


 その衝撃で目が覚める徹君だが、ゴブリンの顔を見て硬直する。

 それとは反対に、ゴブリンは彼が目が覚めたことが嬉しいのか、頭を撫で、首の下を摩る。まるで猫の様に徹君を可愛がるゴブリン氏の、するっとした手の動き、彼の背中を摩る。


 徹君はブルつくが、直ちに危険は無いようだ。

 直ちに生命の危機はないので一安心。というか、このまま放置しても身体に損害はないように思えてきた。目の前のゴブリン氏なら、立派に彼の面倒を見てくれるだろう。


 ゴブリンはその手を徐々に下げていき徹君の尻を摩ると、彼が唇を噛みしめて頬をモゴモゴさせる。何かを耐えるように唇を噛みしめる彼の表情、初めて見るその悩まし気な姿は、俺の心をドキッとさせる。


 そういえばあのゴブリン、メスなのかオスなのか、よく分からないな。

 どっちなのだろうか?


 その時、再度石が投げられ、ゴブリンに当たる。


 「やりぃ」っと騒ぐ東堂さん。


 ゴブリンはめんどくさそうに後ろを振り向き、俺達と徹君を見比べると、手前の石を拾いこちらにポイ投げする。ポイッと手首だけで投げる軽い奴だ。


 何気なく放たれた石だが、超号速球、石が壁に当たり破壊される。


 アブな?ってか、マジで危ない、当たってたら普通に死んでましたよ。


 ゴブリンは石があたらなかったことにがっかりしたような表情をするが、すぐに徹君を撫ではじめる。俺達にはあまり興味がないようで、目の前の徹君にご執心。


「皆、僕の事はいい、だから、だから逃げるんだ!」


 ゴブリンにパン一で尻を撫でられながら叫ぶ徹君、どうやら俺達の姿に気づいていたようだ。その行動はシュールだけど、身を犠牲にした彼の意思は、その必死な声から伝わってきた。


「徹、今助けるし!ほら、あんた」

 

 俺の背中をポンッと押す東堂さん。

 ポンっとゴブリンのすぐ近くに押し出される俺。


 ゴブリンが振り返りギロリとこちらを睨むが、その表情はつまらなそう。

 だが、鼻をヒクヒクさせると雰囲気が一変する。


 最後に尻をがつっと掴んでから、徹君を膝から下ろし俺を睨む。

 その視線を辿ると、俺の服にゴブリンの青い血が僅かにかかっていた。


 っち、そういうことか、どうやら青い血から気付いたのだろう、俺が何をしたのか。

 その表情が見る見るうちに険しくなっていく。


 そしてゴブリンが俺に突撃してくる。

 そのスピードは速く、子ゴブリンの駆け足とは比べ物にならない。

 

 とっさに本を開き、書きだめしておいた絵に触れて呟く。


「――ドロップ――」


 すると出てくる銀色の缶のようなもの、FPSゲームでお馴染みのスタングレネード。

 現実で、海外通販で買って使用した事があるので機能も問題無いはず。


 それのピンを抜き投げる。


「二人共、目と耳を塞いで」


 次の瞬間、強烈な光と音が洞窟内に響く。

 

 その光の中で徹君に駆け寄り、体を担ぎ洞窟の外に移動する。


 洞窟の外では、埼玉君と河合さんが待機しており、すぐに東堂さんも洞窟から出てくる。

 

「徹君をよろしく」

「えっ、うぇ、なんで裸?」

「色々あったんだ」



 そして俺は洞窟内に戻る。


 そこには頭を押さえているゴブリン、先程のスタングレネードで目をやられたようだ。

 しばらくは回復しないだろうが、これはチャンス。


 天使の袋から手榴弾らしきものを取り出し、奴に向かって投げる。

 

「じゃあな」


 さっと地面に伏せると爆発が起こり、先程と同じように爆音と同時に爆風が吹き抜けていき、その圧力が肌を摩る。


 それが収まったところで再び目を開くと、ゴブリンの体は消えていた。

 そして再び温かい空気に身体が満たされていく、レベルUPか何かなのだろうか。


 すると、ゴブリンが死んだ場所にクリスタルの様な物が落ちているのを発見し、それを拾いポケットにいれて外に出る。


 そこには皆が勢揃い、つい数時間前に見たポカンとした表情が再現されており、今度はその中に徹君もいる。


「今の爆発、まさか?」

「あぁ、倒してきた」


「ちょ、また、あんた一人とかないしー」

「めんご」


「まぁ、よくないけどいいし。それよか、今日は帰るし。実際二匹チョメったわけだし」

「そうだな」


 彼女は徹君を気づかっているのだろう。

 特に外傷はないが、ゴブリンに捕まり、パン一で摩られていたので精神的なショックがあるかもしれない。きっと少しはあるだろう。


 そんな徹君は、今では服を着ており埼玉君が背負っている。

 

「それじゃ、街に帰りますか」


 東堂さんの声をきっかけに、俺達は宿に戻った。

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