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第二十七話

「ここでお別れだ。皆、頑張ろう!」


 親ゴブリンの囮役をかってでた徹君と別れる。

 一番危険な役を受けた彼は何やら秘策があるようで、いつも以上に自信に満ち溢れていた。その後ろ姿が夜の闇の中に消えていく。


 残った俺達4人。


「よし、それじゃ、やりますか。うぇ~い」

「うん」

「あーしもやるよ」

「おうよ」


 とりあえず恒例のハイタッチ。

 こういう時はノリよ、皆の「うぇ~い」にさっと合わすと、触れた手の軽いの衝撃で体温が上がる。何気に天使な河合さんの手に触れてテンションが上がる。二回目の接触いけるか!っと思ったが、埼玉君の「うぇ~い」に妨害された。苦しみの、う、う、うぇ~い!


 そんなテンションアゲアゲの俺達の役目は、徹君がゴブリン親を巣から引き離した後、子ゴブリンを落とし穴に誘導し、上から色んなものを投げつける事だ。

 なんともアレな計画だと思わなくもなく、現代人の俺は激しく倫理感の様なものを揺さぶられるけど、それは気にしない事にした。この世界では必要な事だとわり切る。


「緊張するねぇ~」


 ブルブルと河合さんが肩を震わせている。

 空気はそれ程冷えてはいないから、寒いわけではないだろう。武者震いか、戦闘のトラウマからくるそれであろう。

 「大丈夫だよ」っと、その華奢な肩をポンポンっと叩き、肩に触れた手をひねり、彼女をくるっとこちらに向かせてフィギュアスケートのペアの演技(18禁版)のような事をしながら励ましたくなるが我慢する。まだそこまでの仲ではないと思う。


「大丈夫、大丈夫っしょ。上手くいくっしょ、くっきーもそうっしょ?」


 相変わらずチャラい埼玉君だが、その陽気さが場を和ます。

 河合さんが「そうだね」っと頷き震えが止まる。


「多分大丈夫だよ」


 俺もそう思う、何故なら、そう、俺がいるからね。

 天使のアイテムがあればどうにかなるだろう、問題ないと思う。


 それより徹君が心配でならない。

 異様に自信満々だったけど、本当に大丈夫だろうか?

 一番危険なのは紛れもなく彼なはずだ、その不安が心に過ぎる。


「へぇ~、あんた、随分と余裕オーラじゃん。魔物を侮ると大変な頃になるし、分かってるし?」


 東堂さんの忠告。

 でもそれはたしなめるようなものではなく、逆にちゃかすような明るい声。

 この場で士気が下がるような言動はしたくないのだろう。


「でも、今日はそれを倒すっしょ」

「うん、私も頑張ります」

「あーしもやるよ」

「えっと、俺も」


 やや乗り遅れながらも、本パーティーの勢いに合流。

 今度は乗れましたよ、「やってしまった感」を感じずに乗れましたよ、私。


「あっ、徹君だよ」


 河合さんの声で魔物がいるであろう洞穴を見ると、その視線の先では徹君が頭に懐中電灯の様な魔道具?をつけて洞窟に近づいている。

 右手には、全長1m程ありそうな謎の長い草?を持っている。


 何も知らずに見ると笑ってしまいそうな姿だが、アレはきっと大事な装備なんだろう。

 決してネタやビジュアル目的で持っている訳ではないと思う。


 変出者風の徹君は、そーっと洞窟に向かっていく。


「大丈夫かなぁ?」

「大丈夫っしょ。徹君なら、余裕っしょ!」

「あ~しもそう思う」


 皆、作戦の成功を信じてる模様だが、俺はちょっと不安だった。

 何故かは分からないが、いいようのない不安の様なものを感じており、彼ら程楽観的になれなかった。


 そんなアンニョイな気分で見つめていると、さっと肩を摩られる。

 東堂さんがこちらを見ずに、その綺麗な手でトントンっと優しく撫でてくる。彼女の顔は皆と同じように徹君に向けられている。


 その感触を受けると、肩を竦めながら「問題ないよ」っと彼女にだけ聞こえるような声で呟く。

 彼女は特に反応しなかったので、先程は偶々手が当たっただけかもしれない。

 

 再び洞窟に目を向けると、徹君は草にどうやってか火をつけてそれを地面に置き、草から白い煙がもくもくと発生し煙が洞窟の中に入っていく。


 すると、暫らくして中から出てくる緑の人?かと思ったら、ゴブリンだった。

 ゲームで見るあれと同じだ。

 

 大まかには人の様な体系だが、所々形が変わってブヨブヨしている緑の皮膚。

 それは脂肪ではなく筋肉の塊の様に見え、その肉感からくる圧迫感に衝撃を受ける。 


 ゴブリンはキョロキョロと辺りを見回し、徹君の姿を発見する。


 一瞬見つめ合う二人だが、すぐに徹君が地面にある石を拾ってゴブリンに投げる。

 すると、ゴブリンに当たって石がコテっと地面に落ちる。


 ゴブリンは数秒徹君を見つめると、のそのそと動きだし徹君に近づく。

 すると一目散に逃げる彼。


 洞窟から離れていくゴブリンと徹君。


「よし、今よ!」


 東堂さんの掛け声で俺達は草むらから飛び出し、洞窟目がけて走り出す。

 埼玉君が燃えている草を蹴って洞窟にないに煙が入らないようにする。


 中に入ると、そこにはすやすやと眠っている子ゴブリン、先程見たゴブリンと僅かに色が違い、薄い緑。


 だがすぐに目を覚まして、つぶらな瞳で俺達を見つめる。

 不思議そうな顔で、目をパチパチとさせ、「何だろう?」という表情だ。


 見つめ合う一時。


 ゴブリンがのそっと立ち上がり、手元の石ころ拾いこちらに投げてくる。

 が、その柔らかなポーズとは対照的に、剛速球の様なそれが俺の頭の横を通り過ぎ壁を破壊し、ドゴンっという音と共に大きな穴ができる。


 全員呆然。

 

 あれま?本当にお強いのですね、この方、子ゴブリン様。

 その緑の個体が近づいてくる。


「逃げるよ」


 東堂さんの掛け声に合わせて洞窟から出ていき、落とし穴に向かって駆ける。

 子ゴブリンは中々のスピードで楽しそうに駆てくるが、追いつかれることはない。このままのスピードで大丈夫だ。



 落とし穴につくと、何故か足を緩める子ゴブリン。

 俺達は木の枝と葉で隠した落とし穴の向こう側で待機するが、子ゴブリンが中々近寄ってこない。


 どういうことだ?

 

 まさか・・・気付いたのか?


 そんなまさか、そんな馬鹿なことが・・・

 隠している落とし穴をよく見ればその存在に気づくことが出来るが、夜の闇の中では難しいはず。ゴブリンの生態に詳しくないので何とも言えないが、人でも分からないものを、目が怪しそうなゴブリンが判別できるのだろうか。


「くっ、あの緑、落ちないし」

「もうちょっとしょ、おびき寄せるっしょ」

「わ、私がやります」


 河合さんが立候補と同時に前に出る。

 止めようと思ったが、予想外のその行動に驚いて反応が遅れてしまう。


 彼女はささっと落とし穴を避けて円上に進み、その前で立ち止まる。

 今の露骨な動作で落とし穴の場所がばれたよう気がするけど気にしない、ひょこひょこ歩く彼女の姿は可愛かった、可愛いは正義、罪状=無罪。


「ミクやばいっしょ、ばれるし」


 私が無罪って言ったでしょ!無罪です!っと東堂さんに心の中で叫ぶ。


 河合さんの後ろには落とし穴、彼女の前には子ゴブリン。

 子ゴブリンが河合さんを見ているが、そのつぶらな瞳で何を見ているのか?ゴブ目からは読み取れない。


「こっちですよ!私、ここですよ」


 河合さんがわざとらしく声を上げるが、さすがにそれはアレではないかと思った。

 その、さすがにそれはまずいのではないかと思ったけど、ピョンピョン飛び跳ねる河合さんは可愛いかったので無罪。


 子ゴブリンも彼女を可愛いと思ったのか、頭をかしげるのみで動かない。


 彼女は足踏みをし、タン、タン、タタンっとステップを踏む。

 よく分からないが、多分あれで注意を引いているのだろう、きっとそうだ、そうに違いない。その華麗なリズムが夜の森に響き、心をムズムズさせる。


 だがしかし、子ゴブリンは動かず、彼女を興味深そうに眺めるのみ。

 ポカンとした表情inゴブリン版といった感じをうけなくもない。


 観衆の視線を受け河合さんは足踏みを早めるが、ふいに足を崩してしまい「きゃっ」っと叫び倒れる彼女。


「や、ちょ、やば!」


 東堂さんのその声の通り、ヤバかった。

 彼女は落とし穴を覆う葉の膜に触れると、それを突き破ってドボンと落ちてしまった。


 ズゴッと地面の穴の中に落ちていく彼女。

 俺達がつくった落とし穴に何故か落ちる彼女。

 僅かな土煙と、葉を宙に舞わせながら消える彼女の姿。


 それを呆然とした表情で見る俺達と子ゴブリン。


 一瞬時が止まり、沈黙が場を包む。



 シーン



 シーン



 シーン



「ちょ、どうするし、ミク、落ちちゃったよ、これ、やばくない?やばくない?」

「やべーっしょ、やべーっしょ、やべーしょ」


 確かにヤバイ。

 尋常なくヤバイっと冷静に思う、一体何で、何が、どうなってる?

 何で彼女が穴に落ちたのか未だによく分からないんですが。


 その時。


 「私の事は心配ありません。ですから魔物を!」っと下から聞こえる声。

 

 僅かに反響しているその声、彼女の戦意は落ちていないようで、それに無事だった。

 その声に安堵するが、しかし肝心の落とし穴が露見しており、しかも彼女が穴の中にいる。


 え?ちょっと、どうしましょう?展開だ。

 本当にどうしようか?う~ん。


 露出している状況でゴブリンを落とし穴の中に落とすことは出来ないだろうし、もし、それができても穴の中の河合さんが大変な事になるだろう。

 狭い穴の中でゴブリンとご一緒は、エログロ同人誌展開しか思いつかない。


「戦うし、普通に戦うし」

「「??」」

 

 その威勢の良い声に反応して、俺と埼玉君が東堂さんを見る。

 「何、いってるんだ?」と言う目で俺と埼玉君の目が合う。


「やるしかないし、ミクを助けるためにも。あの緑をどうにかして、穴からミクを助けるし」

「そ、そうだな」


 そうだ、驚いてる場合じゃない。

 ゴブリンをどうにかして、河合さんを助けないといけない、そうだよ、「?」ってる場合じゃないし、そんな時間はない。

 

 だがどうするべきか?

 穴にいる河合さんはロープでも垂らして助けるとして、問題は子ゴブリンだ。


 黙って河合さん救出劇を見守っているはずはないだろう。

 そうだといいが、それはさすがにありえない、それならば誰かが相手をしなければ?一体誰が?っと隣の二人を見ると、あれ?こちらを見ている二人。


「よし、あんた頼んだし、」

「よろ、くっきー」


 二人が俺を見るその顔は、若干のドヤ顔がまざっている表情。

 

「はい?え?・・・その・・・はい?」


「聞いたよ、あんた。何か絵をかいて出せるんでしょ。それで相手するし」

「そうっしょ、クッキー以外無理っしょ」


 まぁ確かに、その気でしたけど、はい。

 私が相手をしようと思っていましたから、私が相手しますよ、はい。

 はい、頑張ります。


 何故か腑に落ちない気がして、俺はやさぐれた。

 ふぅ~っと深呼吸してその邪気を体外に吐き出した。


「やります」


 脱力した体でとりあえず頷く。


「それなら、よろ。あーしらミク救うから」

「しょ」


 そうして二人は落とし穴に駆け寄り、腰につけていたローブを垂らして河合さん救出作戦を開始する。その迅速な行動を「ふむふむ」っと見送るって、早くゴブの相手しないとと。


 小さい緑に近寄ると、子ゴブリンは不思議そうにこちらを見ている。

 つぶらな瞳とじーっと睨み合うが、相手に動きは無い。


 子ゴブリンが襲ってこないことを祈りながら、袋から本を取り出しスケッチを開始する。

 天使から貰った、書いたものを具現化できる本だ。


 ゴブリンの足が折れる絵を描こうとしたが・・・



 カキカキ



 カキカキ



 だめだ、上手くいかない、全く上手くいかない。

 ゴブリンっぽい何かにしか見えない。絵を描くのが完璧な素人という訳ではないが、そもそも魔物の絵は書いた事がなかった。魔物娘属性など俺には無かったし、グロイ系の物は避けていた。


 そのためか、全く上手く書けず、目の前のゴブリンを見ながら書いても線がずれる有様。


 一応小さな声で書いた絵に対して「――ドロップ――」と呟いてみたが、やはり何も出なかった。多分、絵の質が足りないのだろう。


 芸術家の様に本のページを破り、くしゃくしゃと紙を放り投げる。

 爪を立てて頭をかき、髪の毛をわさわさとする。


「だめだ!だめだ、上手く書けない!」


 そんな乱心中、目についたのは石ころ。

 妙に目を惹かれたので、試にそれを書き「――ドロップ――」と呟く。


 すると、石が出てきてそれをかじる。


 リンゴ味の石だ。

 書いている途中にリンゴ味、リンゴ味、っと念じたので予想通りだが、中々美味だ・・・

 念じて入れた物と同じ味。


 んん?

 まてよ、それなら・・・

 それなら、良い方法があるのでは?


 ピカーンと脳裏に駆け巡るその発想。

 

 さっと手を動かし、バナナを書き「――ドロップ――」と呟くと現れるそれ。

 一房に7本のバナナがついており、それを一本取り食べると中々の美々。


 もう一本取り、子ゴブリンに向かって投げる。

 地面に落ちるそれだが、子ゴブリンは恐る恐るそれを拾い、俺のマネをして食べる。


 一口目は慎重にかじるだけだったが、その後はもぐもぐと食べている。

 一心不乱にバナナを食べ、そこそこ満足そうな表情をしている気がする。

 ゴブリンの表情の意味など分からないが、多分美味かったのだろう。


 俺はもう一本バナナを取り、子ゴブリンに投げる。

 それは僅かに今までとは違う逸れで、姿は同じだが中には違うものを念じた物。

 

 それを先程と同じように拾い、口に運ぶ子ゴブリン。


 かかった!


 っと思ったが、特に反応は無い。

 一瞬「んん?」という顔をするだけで、普通にバナナを平らげた。


 っち、やはり無理だったか。

 今のバナナには、猛毒である薬物を念じていれたが、やはり文献で読んだだけだと上手く反応しなかったのだろう。実際に毒物など摂取した事ないので、その感覚を基準値まで高められなかったのだと思う。それとも上手くいったが、ゴブリンと人の体は違うので効果を発揮しなかったか。

 上手くいけば、即死間違いなしと思ったのだが残念だ。


 それならば次だ。

 まだ策は残っている、次にかける。さくさくいこう。


 もう一本バナナを房から取り、同じように投げる。

 再度同じように拾って食べる子ゴブリン。


 パクリとバナナに食らいついた瞬間、動きが止まり・・・

 ぺっ、くっ、ぺっ、っとそれを吐き出す子ゴブリン。

 

 効果はあったようだ。

 そう、これはあの天使に食べさせられた、腐ったみかん味のリンゴのバナナ版。

 そのまま卒倒でもしてくれないかと思ったが、吐き出すだけだった。


 というか、怒ってこっちをみていますよ。

 まずった、完全にまずったかも。


 機嫌を取るために普通のバナナを投げるが、ぽいっと手で払われる。

 くっ、まずいな、完全に警戒してやがる。


 これなら、最初から餌付け作戦でいった方が良かったかもしれない。

 バナナを穴から遠ざけるように投げていけば、今頃ゴブリンを他の場所に誘導できたような気がする。ぐぬぬぬぬっと思わず唇を噛んでしまう。


「ぐぬぬ」


 っと思わず声が漏れる。

 だが俺の焦りを踏みにじるように、子ゴブリンが、のそのそとこちらに近づいてくる。


 くっ、くるなよ、くるなよ。

 俺は美味くないぞ!不味いぞ! 


 その迫力に怖気づき心の中で罵倒する。

 後ずさりながらも天使の袋から手榴弾らしき物を取り出し、それを片手で持ちピンを抜く、それを投げつけ地面に伏せる。


 それがトンっと子ゴブリンの足元に転がった瞬間、

 子ゴブリン足元に転がる黒い物体を見た瞬間。


 爆音と同時に閃光が放たれ、爆発的な光が放たれる。

 その光の放射が、爆風が圧力となって肌を揺らす。


 数秒の閃光と土煙の後目を開けると、そこには大きなクレーターがあるだけで何も残っていない。緑の液体がそのクレーターの中心地に飛び散っている。

 

 あれま、私、やってしまいましたか?

 私、あのゴブリンをやってしまいましたかな?


 そんな事を思った瞬間、身体に流れ込んでくる温かい風の様な感触。

 その風が通り抜けた箇所は、体中の細胞が活性化していくようで、体の中で何かしらの反応が起こっていることを感じる。

 

 それが数秒間続き、唐突に終わる。

 何故だか分からないが、力が体に漲っている気がする。


「な、なにが起こったの?」

「うぇ?」


 っと声が聞こえて振り返ると、河合さんの両肩を抱えた埼玉君と東堂さん。

 そうやら河合さんに大きな怪我はないようだ。


 三人はこちらの状況をみて口を開けて震えている。

 その驚愕の表情を受けると何故か恥ずかしくなる。 


「その・・倒しちゃったぁ・・・てへ」


 可愛く頭を横に振ってみた。

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