第二十六話
「とうとうこの日が来た。いざ、決戦の時!」
夜、宿の部屋。
全員集合し、徹君が意気揚々、戦国武将の様に高々と宣言する。
その姿はまさに頼れるリーダー、これから向かう戦地での激闘を鼓舞する軍の指揮官。
彼は目を輝かせ、その声で部屋の空気を震わせる。まるで後光が刺しているようだ。
「作戦はさっき伝えたとおり。皆で一丸となって、奴らを、あの奴らを、魔物を倒そう。それこそが目的、必ず今回の作戦は成功すると信じてる。~」
徹君の長めの演説がとめどなく続く。
思ったより少しというか、かなり長いトークが続いております。5分ぐらいで終わるのかと思いきや、な、なんと、既に倍の10分過ぎています。一体何をそんなに話すことがあるのかというぐらい話す。
しかし校長先生の話の様な退屈さは無く、するりと耳に入ってくるその声。
聞いていると心が高揚してくるから不思議だ。
それを聞く俺達はこんな感じ。
今日もとんでもなく可愛い河合さんは、食い入るように徹君を見、その熱さを示すように小さな手を握りしめている。がっつぎすぎだよ河合さんっと、ちょっと心配になるぐらい。アイドルコンサートで、柵を倒しそうな最前列の精鋭みたいになってますよ。
そんな彼女の横に鎮座しますのが、昼に尻を触られていた埼玉君。彼は熱心に耳を傾けながら、途中で「そうだ!」とか、「しょ!」と援護射撃をしている。
それを受けてヒートアップする徹君。
どうもその援護が届くごとに徹君の話が途切れて、話が振出し戻ってループしているような気がしないでもない。援護射撃はやめたげて、それ、やめたげて、徹君ループするから。多分、弱冠自分でもわけわかんなくなってると思うよ。
そんな熱い現場となっている俺らの部屋。
その中では東堂さんも「うんうん」と頷いている。頷くタイミングが色々おかしいような気がするけど気にしない。今一つ乗れていないような彼女だけれど、その姿を見つめると、恒例の「ギロリ」睨みを頂きましたので気にしない。
あれは触れてはいけない境界線の合図、いつのまにかお馴染みになったその視線。
熱量不足気味な現代人の俺ですが、決して「ちょいトイレ」っと排他的に部屋から出て行ったりせず、ちゃんと徹君の声に耳を傾けていた。
話はほとんど聞いていなかったけど、徹君のよく通る声をBGMにとある事を考えていた。
何を隠そう、今夜初めて魔物とご対面だ、もしもの備えをしておく必要があるだろう。徹君の作戦成功を信じていない訳ではないが、今いちよく分からない異世界、用心に越したことはない。何が起こっても不思議はないと思うから。
そう考えて天使の袋に入っていた物を思い出しながら考える、危機に陥った時どうすればいいのか、何を準備しておけばいいのかを。
そんな事をとめどなく考えていると、
「よし!今日こそ倒そう!」
その元気良い掛け声を最後に、いつのまにか徹君の演説が終わったようだ。
徹君は額から流れる汗をハンカチで拭き、後ろを振り向き部屋の隅にある荷物の元へ向かっていく。その爽やかな姿から溢れるやりきった感と清涼感。暑苦しくならないのがポイントです。
同じように、まるでスポーツの試合後(辛勝)の様な雰囲気を醸し出しながら、俺達も立ち上がり装備を確認する。
河合さんの額からも汗が出ており、その姿に何故かドキッとする。
なんでだろう?「河合さんは汗かかない」と思っていた訳ではないが、なんとなくその姿に心が動揺した。それは女の子にときめくような感覚ではなく、違う何か。彼女の姿が心のどこかを揺らし、ふいに冷たい液体を心に垂らす。
ガチャガチャと音が響く中、東堂さんが横にき、ここ数日で慣れた彼女の匂いが鼻を刺激する。初めはドキドキしたそれだが、今では少し緩和されている。彼女が近づく度に感じる圧力というか、人の感触に空気が包まれていく。
「あんた、ぼーっとしてるけど、準備はいいの?」
「問題ないよ、袋に全部入れてるから」
「そういうんじゃなくて、その、言わなくても分かるっしょ?」
何のことでしょうか?っと聞かなくても、まぁ、分かりますよ。
意外に繊細な東堂さんの事ですから、俺の心構えでも心配しているのでしょう。魔物との戦闘に対して不安に思っていないか。
そんな所に気を回す彼女をかわいいなとも思ったけど、決して口には出さない。
言葉にすると「あん?」っと舌打ちされる気がしてならない。
「大丈夫、それ程緊張はしてないから。それに、どっちにしろやることは変わりないし」
そう、何故かあまり不安はなかった。
でもそれは、別に俺が荒事に慣れているからでも、心が特別強いからでもないと思う。
一人ではなく仲間に囲まれているからかもしれない。いや、単純に魔物との戦闘経験からくるトラウマがある彼らと、初見の何もない俺では魔物に対する認識は大きく違うからだろう。何も知らないからこそ、楽観的になれる。
「そっ、それなら気ーつけな。離れるなし」
「分かってるよ」
「あと、少しは頼りにしてんかんね。徹も皆も、テンションアゲアゲだから、分かるっしょ?」
よく分かりません!分かりません!
っとなんとなくシャウトしたかったが、大体分かります。
それぐらい緊張してるって事でしょうな、テンションを上げなければまずい程に。
それは不安の裏返し、その事に彼女は気づき、他の三人とは少し違う雰囲気を放っていたのだろう。それで俺に話しかけてきたというところか。
「分かってる。もしもの場合の準備はしてる」
そう、一応の準備はしている。
もしも何かあれば、この中で何とかできるのは俺しかいない気がしていた。別に他の皆を過小評価している訳でもなく、俺が特別というわけでもない。俺が持っている物が特別なのだと思う。天使から奪った物が他の者との大きな差になっていると。
「そんならいいよ。あーし、あんたには、ちょっと期待してっから。ガッカリさせないでちょ」
「・・・お、おう」
「みんな表に出しては無いけど、あんたも電波感じてんでしょ?ちょいぐらいは?」
え、何?そんなもん受信してませんが。
私圏外でしたが、俺期待のニューヒーローなんですかな?
チート無双きましたかな。タンポポの綿の様に、一吹きで敵を吹き飛ばしますかな。
「俺が・・・無双?」
「はぁ?何言ってんの?。違くて、じゃなくて、う~んなんていうかな、とりあえず、あんたはそのまま、ヘンテコにしてればいいし」
悲報、田中君チート無双ワクテカではなかった模様。
それよりヘンテコってなんだ、俺はかなりの常識人だぞ、その変なかなり自信がある。
このパーティー唯一の真人間だと激しく訂正したいが、とりあえず頷いておこう。彼女の口調はいつになく柔らかく、その雰囲気から悪い意味じゃないように思えるから。
「そうなの?」
ちょっと疑問系っぽく言うのがポイントだ。
俺のヘンテコではないアピール。
「そんな感じ」
よく分からないが、そんな感じらしい。
なんだその漠然とした感じ。フィーリング同調してないから分かりませんがな。
「あーし、思うんよ」
「えっと、何が?」
変なとこで間を開けて、続きを言わず、俺の瞳を見つめる彼女。
ギャルっぽい雰囲気にそぐわない綺麗な瞳に見つめられると、思わず吸い込まれそうになるが、唾を飲み込み、喉に感じるその感触で正気に戻る。
「あんた、やばいよ」
「え?」
そのヤバイは、ヤバイ位凄いの方ですよね?
ヤバイ位ピンチって意味じゃないですよね?
東堂さんは俺を足先から頭の上まで再度観察する。
その目で何を見ているのかは分からないが、その視線は女の子同士でやるそれとは違うたような気がした。どこが違う?ッと言われると言葉にできないが、そう思う。
「少しは、なまいってもいいと思うよ。別にウチらは嫌わないから」
「・・・うん」
一瞬ドキリとし、その言葉にコクリと頷いてしまう。
体が勝手に動いていた、見たことがない彼女の真剣そうな顔、優しげな瞳に思わず見とれてしまった。
それよりも、彼女の言葉に動揺した。心を揺らすその言葉と瞳に、拒絶反応の様なそれを示してしまいそうになる。
何故だか分からないが、そうなってしまう。
何故だろうか?何故こうなるのだろう?
別に大げさな事を言われたわけではない、ただのポツリと呟いた彼女の言葉に動揺してしまう。
「まぁ、今すぐじゃなくていいし。それに、大丈夫っしょ。ちょー来たばっかだし」
ポンっと俺の肩を叩き、その場を去る彼女。
その優しげな手の感触が肩に残り、じわりと肌を温める。
彼女の背中を見送ると、彼女の姿からはいつもと違った印象を受けた。
彼女の背中はこれほど寂しげだっただろうか?
それに彼女の後ろ姿が離れていくと感じる寂しさと安堵感、その相反した感情がどこから来るのか分からなかった。
そして俺達は部屋を出ていく。
動揺した心だったけど、外に出て夜風に包まれるとそれは嘘のように直ぐに消えていく。身体を包むのはこれからの挑戦からくる高揚感と、夜の涼しさと月の光。
いざ、魔物狩りの時だ。




