11 家継ぎ②
セントと霊能力者たちとの共同除霊。10~12まで続く、連続エピソードとなります。
次回投稿9月26日となります。
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廊下を進んでから二分近く経つ。セントは溜息をついた。
「長い廊下やな」
館の外観から考えれば、この廊下の長さはせいぜい十メートルほどのはずだ。しかし、どれだけ歩いても突き当たりが見えない。
「大変な案件だな。セント」
歩きながらヤタマが振り返った。
「やりきるしかない。シヨオさんを救うんや」
「そうだな。実は君が依頼を受けたから、私もこの案件を受けたんだ」
「どういうことや」
セントが短く返す。
「君も知っての通り、出雲家は金に執着しすぎて高い案件ばかりやる。母と姉の方針だが……私は疑問を持っている。でも、彼女たちに比べて劣るからなかなか言い出せなかったんだ」
「たしかにゲンセツさんの頃はうちの父や警察とも繋がりあったからな。そうか、カツヨさんの影響か」
ヤタマの表情が陰る。
「今回の案件も本来は受けないはずだったんだが、君がいると知ってね。無理やり依頼を受けた。同じ鬼討師として話がしたかったんだ。他の鬼討師はさらに縁が薄いし、君のことは少し知っていたからな」
「そうやったんやな」
今まで出雲家がどうなっているか知らなかったが、ヤタマも家の中で大変な立場なのだろう。
「またやな」
廊下の壁に皺が寄り、伸びた。何度か見ているがまるで芋虫が動いているようだ。
「距離が変わっていますね。認知の歪みです」
キュウコが静かに呟いた。
「リフォームにより、世界が構築しやすくする。その上で形成された世界のルールは強大だ。奴の攻撃は防げるだろうが、認知の歪みは防げないな」
ヤタマが壁に手を触れる。足を進めるたび、床板の奥から低い鼓動が響く。
セントは周囲へ気を配る。ようやく奥に扉が見えた。その時、天井の一角に四角い空間が出来て、天に向かうような廊下が形作られた。
「これは? 家継ぎは家を巣に変える怪異や。実際にリフォームした後、最初は住人が違和感を覚えんよう、少しずつ形を変える。取り込んだ後は常に急激な変化をし続けるんやろうな」
廊下の奥に一つの部屋があった。扉を開けて中に入るとそこは整然とした書斎だった。空気が重く息苦しい。左の壁一面に本棚があり、大きな机と古い革張りの椅子がある。
キュウコが机に置かれた埃の積もった日記を手に取る。
「ここはシヨオさんが長く使っていた場所じゃないでしょうか」
キュウコが日記のページを開いた。皆が近寄る。セントは大草の肩越しに日記の内容を覗き込んだ。
『近所の水道管が劣化していたから、水漏れの点検を無料でできると言われる……トイレを見てもらうと水が漏れていた……水漏れ以外にも、家が劣化していると親切な業者が教えてくれた。このままでは家が壊れると言われ……契約書にサインをした』
ここまでの所はチヨミから聞いた内容であった。次々とページがめくられる。
『最近、家の中に知らない部屋が増えている気がする……業者に確認すると家を補修する為と言われ、納得した……もっと広げないと水漏れ、ひび割れが増えて住めなくなる。思い出のある家だ。業者には感謝してもしきれない……かんしゃしますてんけんに』
セントは日記の文字がだんだんと乱れているのに気がついた。
『みずがもれてる……へやふやす……いちにてんけんににてんけんさんにてんけんてんけんてんけん……りふぉーむへやふやす……あかるいいえ、すてきないえ、おうちひろい、ひろい……』
「家継ぎに侵食されとるな」
これ以降の日記は何を書いているか判別がつかなかった。キュウコが日記を閉じる。パラリ、小さなメモ用紙が絨毯に落ちた。
「何か落ちたぞ」
ヤタマがメモを拾いあげる。
「業者の名前と連絡先が書いてあるな。セカンドハウスの玉宵リョウト」
「この部屋はこれ以上なさそうですね。方向は間違いないんですけど。もう一回やってみます。気月!」
キュウコが右手の指を揃えて、円を描いた。光の輪をじっと見つめて、左側にある本棚を指差した。
「こちらに感じます」
その時、ドクン、部屋全体が大きく震動した。
「!?」
ふいに足元の絨毯が泥のようにぬかるんだ。セントは足元に目を向けると絨毯に足が沈み込んでいた。
「あれを見ろ」
ヤタマの声の方に視線を向けた。
右の壁から黒い頭が湧き出した。上半身がダラリと壁から垂れ下がる。黒いキルティングジャケットを着た男だ。顔が持ち上がった。一見、爽やかな好青年に見える。
『コレハ、ミズモレデスネ』
抑揚のない声がした。細められた瞳の奥に漆黒が浮かんでいる。
その時、四方にある壁と本棚から黒い頭が一体ずつ浮かび上がる。そこから、同じ顔をした黒いキルティングジャケットの男が湧き出した。気の構成密度が薄い、分身だ。
『シュウリヲスルヒツヨウガ、アリマス』
男が一斉に口を開いた。四方から声が反響した。
「来るぞ、ヤタマ!」
「わかっている」
四方から湧き出した男たちの両手が引き伸ばされるように一斉に伸びた。四人に向かって殺到する。
「任せてくれよ! すーーーーー、すっ、すっ」
大草が空中で指を激しく動かすと四人を覆うように光の帯が駆け巡る。無数の手が光の帯に阻まれた。
セントはベルトの横にある箱から呪符を一枚抜き出した。「浄化」の呪符を空中に伏せる。さらに滞留する土霊に効果的な「風」の呪符を掲げた。浄化の呪符が起き上がる。
「くらうんや! 風祓い!」
二つの呪符が燃え尽き、セントの刀印にした右の指先に翡翠色の光が集中。指先を伸ばし、左手で手首を固定した。
「急々如律令! えい!」
セントの指先から閃光が走った。右の本棚から生えた男に光が直撃、粒子が飛び散り、一体が分解される。そのまま指先を隣にいるもう一体に向けてさらに男を四散させていく。
「鬼討笏!」
隣にいるヤタマが叫び、腰から柳葉刀のような笏を抜き出す。さらにベルトの箱から「風」の呪符を取り出して、笏に当てた。
「風符宿れ! 急々如律令!」
呪符が燃え尽き、ヤタマの持つ笏が輝いた。
「セント! 任せるぞ」
ヤタマが光の帯の外に踊りでて、翡翠色の刃を横薙ぎに振る。こちらに殺到する四本の腕をまとめて両断した。
「急々如律令! えい!」
その隙にセントは指先の閃光を動かして、三体の男を微粒子へと四散させていく。
翡翠色の光が弱くなるがまだいける。腕の無い残りの一体に閃光を向けた。光が男の側頭部を削り取り、光の粒子に分解した。
「急々如律令ぃぃぃ!」
光により男の上半身が弾け飛んだ。その瞬間、部屋の空気から重苦しさがなくなった。
「やったようやな。助かった」
「さすがだな、セント」
笏を背中側のベルトに挿しながらヤタマが笑いかける。
「ありがとうございます。行きましょう」
キュウコが左の本棚に向かった。手を触れると本棚が蠕動して左右に裂けてながら、階段が作られていく。刻印は上階にあるのか。
再び、大草を先頭に階段へと向かった。セントも続く。階段を一歩踏み出すごとに足の裏が粘着するような感じがした。ネチャ、ネチャと音を立てて階段を上がっていく。
ヤタマが何やら携帯端末を操作した。
「どうしたんや?」
「出雲家のネットワークを使って、さっきの人物を調べていたんだ。幸い電波は通じる」
「メモの男やな」
気配を感じて、横に目を向ける。赤い壁紙が内臓のように動いた。階段は左に折れ、右に折れてグネグネと蛇行していた。




