18 怪しい人
「……おい、今何時だ」
「え、今ですか?えーと……19時ですね。ほら」
突然何をいいだすのか。と思うけれど、俺様な彼に抵抗しても意味がないことを知っている私は黒の執事の上着に入れておいた時計を開いて見せた。
(まったく、相変わらずの上から目線はどんな姿でも健在のようで逆に安心しますよ)
少し体を屈めた彼は時計の長い針が12を指そうとしているのを見ると、ひとつため息をついた。そして小さく言葉をこぼした。
「……頃合いだな」
彼の不可能な言葉にえ?と私はすっとんきょうな声をあげそうになったその瞬間、爆発音のようなものが部屋中に広がった。
「え、え、え、何何何むぐっ!?」
「うるさい少しは黙れこの馬鹿、バレるぞ」
ぐっと引き寄せられて口を硬い鎧のついた手のひらで塞がれる。ごつごつとしたその感触は少しばかり痛い。……それに、めちゃくちゃ彼の口が悪いから心も痛い。でも、執事の格好なのに声も仕草も気にしないで叫んだのが悪かったです……。
で、でも、急に部屋に爆発音がしたら誰だってそうなるでしょう?しかも成人したとはいえ女の子なのに。確かに今は男の人の格好をしているけど、もう少し配慮をいただきたい。
そんなことを考えている間にも、周りの令嬢たちは叫び声をあげ、ざわざわと雑然としていた。そして、もくもくと広がった白い煙とともに誰か……シルエットからして男だろうか、奇妙な格好をした人が出てきた。
「ようこそっ!我が秘密のパーティーへ!!」
笑ったピエロの仮面をかぶった細身の男だった。彼の楽しげなどこか狂喜じみているその声と恐ろしくぴったりで背筋が凍る。……いやそれはこの男の冷たい鎧のせいかも。
「……ん、すまん」
身をよじって抗議すると、何も悪気もないような素振りで手をぱっとどけられた。
まったく、この格好で、しかもさっきの設定上こんなの誰かに見られてたらとんでもないから止めてもらいたい。令嬢たちに秘密の花園だなんだと言われたのを忘れたとは言わせませんよ。
「はじめまして、皆様。私のことは……そうですねぇ、ピエロとでもお呼びください。そのままだ、なんてツッコミは野暮ですよ野暮」
そう言って『ピエロ』と名乗る男が1人ノリノリで話しはじめると、彼はくるりくるりと集まった貴族たちを見回した。
そのこなれた口振りはこのパーティーが既に何回も開かれたことをどこか暗示していた。
「今宵は初めてお越しになる紳士淑女もいらっしゃることでしょう!外の世界には出せない秘密なんて大丈夫か、もし王族にバレたら……?いえいえ、ご安心くださいっ!そこのところはまったくの危険はございません。……え?どうしてかって?それは企業秘密ですよ」
ピエロはそう言ってちっちっち、と指を揺らした。
「皆さんも既にご存知のとおり、先日我が国の第二王子、ルイス様がご帰還なさりましたねぇ。いやぁ、素晴らしい。『真王』の紋章も宿して我が国の誇りですなぁ……」
「しかし、彼が王となって行おうとしているのは最悪な独裁政治です。我々貴族のことをかえりみない残酷な王様となろうとしているのですよ……っとこれ以上は有料物件ですからね。ふふふ」
彼はそうペラペラと早口で言葉をつむいだ。そして含みを持たせて勝手に止めた男はいやらしい笑い声をあげた。これでは極秘で何かルイス様の話があるようで、周りもまんまとそれに乗らされてざわついている。
……でも、私たちにとってみれば彼のありもしないルイス様の秘密を話すことも、内容もペラペラすぎてつい殴り込みに行こうかと拳を握ってしまうほどだ。
少し前に騎士たちにもそんなようなことを言われて、ついつい一度ぷちんといったから、どうにか私も理性を総動員して殴り込みをやめたけれど、それくらい不愉快だ。
ちらりとみた隣のアイザックも顔は見えないけれど、どこか苛立っているようだった。
「ごほん。まぁ、前置きはここまでにして。さあっ皆様お楽しみパーティーの始まりですよっ!」
シャラララーンとどこかから軽快な音楽が流れると同時にまた白い煙があたりを囲んだ。そして視界が明快になる頃にはピエロの姿は予想通りに消えていた。
「……ちっ、下品かつ気持ちわりぃ奴らだ」
「本当にそうですね。ありもしないことを、それにあんなに優しいルイス様のことを悪くいうのは、やっぱり気にくわないです」
彼の言葉にうなずくと彼はもう一度不愉快そうに舌打ちをした。隣にいたどこかの礼装はそのどこからか漂う恐ろしい苛立ちオーラにびくびくしている。……可哀想。
(……それにしてもこの人は、こんなに考えてること垂れ流しでよく王族に仕えようとしてたなぁ)
ふと、アイザックが分かりやすくピエロを批判しているから不思議になる。
優男の仮面をいつもつけている彼のことだから大丈夫だとは思うけれど、もし、とし王族のことを少しでも批判したなら不敬罪で訴えられることもある。だから、こんな小さなことでも顔や態度にでるのはいかがなものかなと……。
(ん、あれ?)
そう思考を1人巡らしていくうちに、どこかひっかかるところが思いあたった。
「……あの、アイザック様。彼たちが王族にバレることは絶対にない、安全だなんてなんで言いきれるのはなぜなんでしょうか。だってポンコツ親子はポンコツだけどそういうことだけは耳聡いですよね?」
口に出したらより不思議でたまらない。もしそのありもしない噂が王族にバレたら不敬罪どころではないかもしれないのだ。そこまで悪質な刑に処された人もあまりいないけれど、可能性はゼロではないのに。
それに、思いだしてみれば、あの第一王子のポンコツもよく使用人たちを不敬罪で訴えてやめさせたりしていた。それも廊下で少し文句を言っただけなのにだ。……ほんとどこで聞いてるのやらと思うほどに。
「ふうん、お前にしてはいい推理だな」
「これでもルイス様の力になれるように私なりに努力はしているんですよ」
自信満々に答えると、それをかわすようにへぇ、と一つ適当な相槌をされた。
(……なんて雑な)
辛辣な返しにすん、と静かにしていると、彼は再び腰をかがめると私だけに聞こえるように言葉を落とした。『それが答えだ』と。
次も怪しい新キャラ登場予定です!
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