17 禁断の花園
2ヶ月ぶりの投稿になります。
待ってくださった方、ありがとうございます。
しかし、心からの嘆きは虚しくも叶わない。まぁ、当たり前ですよ。あの噛みついたら離さないすっぽんのような彼女たちの興味を間違いでも引いてしまったらこうなることは決まっているのだから。
(ど、どうにかここを抜け出さないと……!!)
まぁ、モテモテなのは少し嬉しいけれど……いや、ダメダメ。ここで足手まといにはなりたくない。皆の役に立ちたいし……。
「お嬢様方、少しよろしいでしょうか」
唐突に降り注いだ男性の声に振り向くと、そこにはギリギリ顔が見えない兜を被った1人の騎士が立っていた。誰か分かるはずもないその人に私は思わず声を挙げてしまいそうになる。
(ア、アイザック様ぁ~!!)
だって救世主の登場にしか思えないほどのナイスタイミングだ。いつもなら様を付けることにも少し抵抗があったけれど今なら喜んで敬称を付けたい気分だ。
その騎士は間違いなくあのアイザックだ。彼女たちには誰だかなんて到底分からないと思うけれど、私は事前にアイザックの兜は星のマークが小さくついたものと聞いていたから分かった。
それにいささかいつもより低い声……まぁ、本来の彼にとって地声に近い声で話しているものだから誰もあのアイザックだとは思わないだろう。
「何よあなた。私たちはこの方に用がありますの。邪魔しないでくださるかしら?」
「そうよ、私達はお互い了承の上でお話をしているの」
相手を威嚇するように彼女たちはアイザックに言い返す。……いつもの彼相手にこんな風に文句を言う令嬢なんて見ないから新鮮。
「……ほう。では君、これはどういうことか説明いただけますか」
(ぐっ……!)
そう言って、彼はどす黒いオーラを放ってこちらに怒りをぶつけてきた。うう……新鮮なんて面白がっていたのがバレたのだ。その証拠に仕返しとばかりの発言だし、きっと兜の下は偽物の優しげな微笑みを浮かべているのだろう。まさかの変化球がみぞおちにでも突っ込んだのかというプレッシャーにたじたじになる。
「やっ、その……」
「大体、騎士なんかが何様なのよ。はぁー、もう暑苦しい男は嫌だわ。何も用がないのならお邪魔はなさらないで下さる?」
その私の様子を見て庇うかのように立ちはだかる令嬢たち。あれ、もしかして彼女たちの方が私の味方だったっけと思ってしまうほどの優しさだ。
「……そうですね。騎士風情がこれはまた、申し訳ございません」
ぺこりとお行儀のよい礼をしたアイザックはこの姿でいる限り打つ手なしとでも言いたげにこちらを向いた。
(いや待って、こんな怖いとこに置き去りにしないで見捨てないで!!)
まさか心の中で裏切ったからだろうか。まさか本当にここに置いていくのだろうか。やばい、と脳内でぐるぐると思考が走り回る。そんなことをされたらもう逃げられる気がしないのに。
(あっ!そうだっ!)
「そっそれはですね、私、彼と秘密の関係でして」
「…………は?」
「ひ、秘密……?ど、どういうことなの!?」
……いらない発言でした。ついついどうにかしようと口走ったのが悪かったです。もうバレるかバレないかのすれすれみたいな発言をしてしまった。
ちらりと見てみるとやっぱり黒いオーラ漂ってるし……。こんなの自分たちの正体を自白しているのと変わらない。一使用人と騎士が知り合いなんてことあまりないのだ。
もしかして一番やっちゃいけないことをやってしまった……?と思っているとずんずんこちらに進んでくる鬼の姿が見える。兜越しでも分かるこのオーラは恐ろしい以外の何ものでもない。つまり怒りモードだ。
(うぅ、殴られる……)
ぎゅっと目を瞑ったその瞬間。
彼の手のひらが私の頬を優しく撫でた。それも愛しい相手を愛でるように。手袋越しの温もりはどこかくすぐったく、兜からちらりと見えた瞳は熱を持っているように見える。
(うぇ!?え、え、どういうこと……!!)
「な、な、そういうことなの!?」
その光景にあわわとあわてふためく令嬢たちは私と同様に顔を赤く染めている。
「……すみません、黙っていたんですが……俺たち"そういう"関係なんです。つい、ご令嬢方と睦まじい様子を見て、少し妬いてしまって」
脳内がゴールのないレースを走り回っている私を置いて、彼は少し照れたような、優しい声でそう告げた。
「あら、あらあらあらぁ!!」
「それは……まぁ素敵な禁断の花園……!書物で読んだことがありますわ、許されざる恋ですわ!!」
きゃー!!と黄色い悲鳴のような声が響くと彼女たちは恐ろしいほど興奮した様子だ。
(……ん?"禁断の花園"……?)
そこでやっと私は理解した。これはアイザックの演技だということを。そして私は今男装していたことを。だから彼女たちは私たちはボーイズラブの関係だと思っているということを。
(だ、騙された……っ!)
彼が助けようと出した船だとはわかっているけれど、これは乙女心を弄ばれたような気分だ。許しがたい。
そして極めつけにぐいっと腰を引き寄せられ、アイザックの体とぴとりくっつく。冷たい鉄に阻まれたことが不幸中の幸いだ、こんなことを薄い布越しにやられた日には恥ずかしさで殴ってしまう。
「きゃ~!!なっなっなんてことですの!!こんなの私達の方がお邪魔虫に決まってますわ!」
「それではっお幸せにお二人ともっ!」
騒ぐだけ騒いで去っていった彼女たちは先程より楽しそうだった。それを見て、私がレオさん直伝の言葉を囁いた時より嬉しそう……と少し心が虚しくなったのは秘密。
そして隣の偽優男を恨みを込めて見つめた。じとーと言葉が似合うくらいには恨み妬みを込めて。
「…………」
「なんだ、その目は」
「いやー、アイザック様にそんな性癖があったなんてー知らなかったですぅー」
「何を言ってんだ、全てはお前がいらない発言したからだろ」
ご、ごもっともです。そう言われてはからかいもできないし、ぐうの音もでない。で、でもやっぱり騙されたことは納得できないから文句を垂れ流す。
「……なんかこのイケメンの姿でいると何か身の危険を感じますー。まぁ仕方ないですよねー。今の私、イケメンですから……って痛い痛いいたいぃ」
「……お前、謝るなら今だぞ」
ぎゅっも容赦なくつねられた頬は先程の手とは思えないほどきつい。そして痛い。愛しさも優しさの欠片もないその手つきは怒りがこもっているようで痛みを越えて悲しくなるほどだ。
「ひょ、ひょうしに乗っへひゅみまへん……ひょれにらすけへくへて、はひはとうほざいます……」
「ふっ、阿保面だ」
「ちょっと酷いんじゃ……」
「……まぁ、お前が無事で良かった」
馬鹿にしたように笑った彼は私の頭を軽く撫でた。それも優しく、さっきの演技くらいの温かさで。それはもう愛しい人にするみたいにするものだからつい固くなる。
(調子が狂うから止めて下さいよ……)
さっき、つねられたのとの違いに思わず、恥ずかしくなって私はつい目をそらした。そして、ちらりと見えた彼の頬が赤く染まったように見えたのは……きっと気のせいだろうし。
評価、ブックマーク、感想、気が向きましたらよろしくお願いいたします!




