14 作戦
「ちょっ!押さないで……ってうわぁっ!!」
波のように押し寄せた体格のいい騎士たちがルイスに向けて歓喜の声とともに雪崩れ込んだ。その光景にルイスの悲痛の声に思わずこちらはぞぞぞと背筋が凍る。……だって明らかに痛そうなのだ。
「皆さん、嬉しいのは分かりますが、そんな勢いで抱きつきに行ったらつぶれちゃいます!!」
重なった座布団の山のようになった彼らによって潰されたルイスの姿はまったく見えない。あわわ……と急いで重なる彼らの体を引っ張るも重い金属性の鎧を身につけた体はそう簡単に持ち上がらない。これでは団長への愛が深すぎるのも問題だ。
「ほら、皆すぐに退く!」
と、レオの声が響くと騎士たちはすたっと音が聞こえそうなほど綺麗に一列に並んだ。……なぜかガルダスさんも。その光景はきちんと規律正しいできる騎士団の朝礼のようだ。
「おお……さすが元団長……」
「うぅっ……。レオ、ありがと」
レオに手を借りてどうにか生きていたルイスは立ち上がる。騎士たちがペコペコ謝っているし、幸い怪我もないようで良かった。しかし、あの重量が乗っかってきたはずなのに無傷なルイスにも驚きだ。頑丈すぎて人間離れしてるよ……。
「おい、帰ってきたぞ……って何やってんだ?」
「アイザック様……えーっとこれは……何でしょう?」
紺色の長い髪が綺麗に1つにくくられている彼が騎士たちを押し退けやってくるとこちらを怪訝そうに見つめてきた。いつの間に来たのかレオはどしーん!とにこにこして彼に後ろから飛び付いた。
「何でしょうって……何だよまったく。……それよりルイス、騎士団の騒動はどうにか抑えられたようで一安心したぜ。これでようやく紋章を解く本命に移行できる」
肩に手をかけたレオをしっしっと雑に追い払うと、ルイスの方を見て自信満々の美しい顔で笑った。本命、というとこの騎士団の騒動は過程ということだったのだろうか。こんな恐ろしいことばかり起きるというのならいくら命があっても足りないのだけど。
それを聞いたルイスは信頼の眼差しでこくんと頷くと、一列に並んで立つ騎士たちに向き合い口を開いた。
「……騎士団の皆、紋章の呪いを解くために君たちに手伝ってもらいたいことがある。少し忙しいし、大変かもしれないけど……頼まれてくれる?」
「はっ!それは何なりと」
「……ありがとう。頼もしいよ」
無表情に近いクールな表情で固まっていたルイスの顔がふわりと和らぐと騎士たちの表情もいささか和らいだ。確かに顔は綺麗だけど、なんか……負けた気がするのは私でしょうね。右をみても左をみても美形に美形……。なんか複雑な気分。
「あの、ここまで来たら私もできること協力します!」
「……うん。でも、無理はしてほしくない……分かってるよね」
「はい!無理しないように頑張ります!」
ぐっと両手を握りしめてそう力強く言いきると、ルイスは優しげに顔をほころばせてくすっと笑みをこぼした。
「ふふ、そうだね。……それじゃあ作戦を始めようか」
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「……あぁ~不安で指先が冷たくなってきたぁー!!」
「……うるさいぞ、クレア。昔から本番には弱いんだから着いてこなければ良かっただろ」
「それとこれは別です!私だって皆の役に立ちたいんです!1人お留守番なんて御免ですから」
「……相変わらず頑固だな。いくつになってもこれだから子供なんだぞ?」
その言葉の通り呆れたように肩をすくめる彼の言葉にむっとなる。
「頑固にもなりますよ!これからのこの国の運命とルイス様の命がかかってますから!」
思わず大きな声を出してしまい、少しこちらも恥ずかしくなる。でも彼に何を言われてもこれだけは譲れないのだ。じぃっと彼の
瞳を睨むかのように見つめると1つため息をついて彼は頷いた。
「……はぁ、分かったよ。……すまない。少しばかりお前のことが心配になって……ごほん。た、ただし、危険なことがあったらすぐに俺に言え。……俺がお前を必ず守ってやる」
「え」
最後の言葉に彼のきつい言葉はこの優しい気遣いの裏返しだったのだと気づく。昔からそうだったけれど彼のきつい言葉の半分は恥ずかしさを隠すためだった。ふふ、と笑みをこぼすとアイザックはなんだ、とむすりとしたり
「……はい!ありがとうございます!」
「……ん」
少し気恥ずかしそうにそっぽを向いて腕を組み換える。その仕草さえ少し可愛くみえてしまうのだから可笑しく思える。……とくると紺の髪を緩く振り向き様に揺らすと、ふとあることを思い出したかのように彼は口を開いた。
「おい、クレア。お前、作戦のことしっかり分かってるのか?」
……え?痛いとこを突かれたとはこの事ですね!小さいころから座って受ける学びなんて出来たわけがない私が理解してると思うのは大間違いですね!なんて言えるわけもなく……。
「えーと……今回の作戦って簡単にいうとどんな感じでしたっけ?」
「……おい、それで役に立ちたいだなんてほざいてるのか?
この頭お花畑ど阿呆没落令嬢!!もしこんなやつが将来の王の妻になんてなったらこの先、我が国の運命は真っ暗に決まってんだろ!!」
てへ、と小さく舌を出しても許してくれないのは昔からの付き合いで分かっているけれど、狭い馬車の中で響く彼の低めの声は耳がキーンとするのだった。




