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遅咲き王子のお隣に  作者: 白澤 五月
第二章 溺愛陛下と仮王妃
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11 誓う剣の戦い

「それなら早くしないと……レオ、騎士団団舎に向かうよ」


椅子にかけていた上着を取り、

ルイスはさっと腕を通した。

彼の食器を見ると、タルトタタンは綺麗に

平らげられている。恐ろしいほどの速さに目を見張るが

タルトタタンもこれだけ美味しく食べてもらえたら嬉しい

だろうし、それは良かったんだけど……。


「それなら私も……「ダメ。クレアはここで待つ」む……」


予想通りの禁止のお言葉に思わずむくれる。


「……なんでですか。

今さっき隣にいるって約束したばかりじゃないですか」


「それは……今はダメ。

一騎討ちなんて何があるか分からないでしょ」


少し青く深い海のような瞳を揺らす彼に負けじと

言い返したものの、また不安そうに眉尻を下げるルイスに

こちらも悪い気がしてきた。

我が儘を言うのも良くないとは思うけれど、

後悔したくないからここで引きたくもない。


「で、でも……!」


「ダメと言ったらダメなんだって……!!」


「こらこら2人とも、こんな所で争っても仕方ないでしょ。

まったく……ルイス、クレアちゃんのことも考えてあげれば?」


いつか取っ捕まりあうかというやり取りに

見かねたレオが間に入り、嗜められる。

やっぱり我が儘だったかな、なんて不安になるけれど

そのルイスの手の甲に鈍く光る青い紋章の光を見た瞬間、

ぞわっと背筋が凍るような恐怖に襲われる。


(紋章の呪いなんて何が起きるのか分からないのに……!)


5年前に起きたポンコツ第一王子オーディンのことを

思い出す。赤く不気味に光る瞳に洗脳されたように普段とは

かけはなれた物言い。目の前の私のことを写さないその

虚ろな瞳に未だかつてない恐怖を抱いたのだ。

あんな風にルイスにはなってほしくないし、

紋章にはまだ分からないことずくしなのだから無理は

してほしくない。

むぅ……と負けずにルイスに念を送り続けると

観念したかのようにはぁ、と1つため息をついた。


「……わかった。クレアはレオの(そば)にいること。

それを守ってくれるならいいよ」


「っ!はい!」


嬉しさのあまり頬が緩む。そんな私の様子にまったくと

複雑そうな顔になるけれど嫌ではなさそうでほっとする。


「レオ、頼める?」


「はいはい、もちろんですよ」


くすくす、と笑うレオはやっぱり勝てないねなんて

言ってルイスをからかっている。何に勝てないのかはよく

分からないけれど、お邪魔にならないように準備に奔走する。

お皿を片付けて、エプロンをしまって……と

身支度を高速で整えた。

5分経たないで準備完成なんてすごい

と我ながら自分を褒めてみると

2人は玄関口で何か話し合っていたみたいで

そちらに足を向ける。


「どうしたんですか?」


「レオが走りでなんかで来たから馬が足りないんだよ」


ルイスがじと……とレオを睨む様子は何かの仕返し

とでも言いたげだ。

そんなルイスの様子を無視したレオは

腰に手を当ててわざとらしく、ふっふっふと笑った。


「ルイス君、俺を誰だと思ってるのかな?」


「……チャラ騎士?」


「こーら、ルイス。

そんな可愛くないこというと手貸してやんないよ?」


ドアをがちゃりと開くと、一頭もいないはずの馬が二頭たっていた。その光景にルイスははっとしてから直ぐに何かを理解したのかレオにくすりと笑う。


「……さすが頼れる騎士レオ・リードマンだね」


なぜここに馬がいるのか不思議だが、

2人の兄弟みたいに軽やかなやり取り

にくす、と笑みが溢れる。


「準備がいいですねレオさん……すごい!」


「こんなこともあろうかと、昨夜馬を連れてきてたんだ。

ほらほらもっと褒めてくれてもいいよ、クレアちゃん」


そう言ってクレアの手を握ったレオは、ぱちんと

ウィンクする。整った美形にそんなことをされると

さすがに戸惑うけれど、レオさんの挨拶のようなもの

だからははは、と軽く笑って受け流す。

そんなことより、パーティーから早く帰ってしまった彼は

そんなことまでやっていたのかと驚きだ。


「ほら、行くよ」


そんな私達の様子にまったく目をくれずに馬を連れる

彼に慌てて準備を再開する。

少しむっと唇が尖っていたのは気のせいだったのか、

隣のレオがまたくすくすと笑っていたのは気になったけど。


⭐ ★ ⭐ ★ ⭐


大きな馬がパカリパカリと軽快な音をたてて走る。

私はルイスの後ろに座り、腰に手を回させてもらっている。

少し気恥ずかしいけど、今はそんなこと言ってられないし。


「レオ、今の団長って誰かわかる?」


「あー、それはガルダス・リッツファーニって男だよ。

ゴツくていかにも力強い感じ……確か握力は野生の

ゴリラ並みとか」


「ふぅん、それ本当?……まぁそれなら気を付けなきゃね」


(ゴ、ゴリラ……。それは大変なんじゃ……)


その瞬間、ざっと大きな音を立てて大きな影が

飛び出てきた。ーー赤い光を放ちながら。


「どうも初めまして、ルイス王子。

私の名前はガルダス・リッツファーニ。

レアリウス王国騎士団団長を務めております」


レオの言う通りごつごつとゴリラのような

大きな体の彼の瞳が赤く光っている。

私はもちろんルイスやレオの何倍も大きな巨体

が威圧的で全身が粟立つ。


「赤い瞳に支配されたみたいな態度……

あれは明らかに紋章のせいだね。

オーディン王子の時と間違いなく一緒。

ほら、クレアちゃんはこっち来て」


馬を降りるとレオにぐいっと手を引っ張られ、

木の影に隠れる。

私の前に立ち、約束通り守るようにしてくれている。

ルイスは降りた馬を遠くに放し、

僅かに自分より背丈の高い騎士団長を見返した。


「……初めまして。僕はルイス・ヴェルダー。

ご招待にあたり来たんだけど……」


「その冷静さは我らのことなど微塵も興味ないからですか?

私たちはもうレアリウスの王族に嫌気がさしたんですよ」


へぇ、と含みを込めて笑うルイスは何か考えているように

見える。それを見てふはははは、と豪快に笑う団長の瞳

がぎらりと光った。


「ルイス・ヴェルダーが王へと就任したらどうなるか

聞いたんですよ。税金の増額、貴族を主とした

パーティーの開催増加、そして極めつけには

平民を差別する政策の数々……」


でっち上げというか、まるっきり嘘の塊である話に

思わず声をあげそうになるけれど、レオが首をふる。

こんな時に飛び出したりしたら約束を破ることになってしまうのは分かってるけど……。

ぎゅっと手を握りしめてルイスを見つめる。


「……それで僕と一騎討ちに勝ったらどうしてほしいの」


「そうですねぇ……。ひとまずあなたが王になるのは

やめていただきたい。そして私達平民の願いを王族が

叶えると約束してもらう」


(何その条件……!!)


むっ、と思わずするがぎゅと手を握りしめて我慢する。


「……分かった。その代わりこちらにも1つ条件を

付けさせてもらうけどいい?」


「良いでしょう。何がお望みですかな?」


「君が負けたら団長の座を降りてもらう。

……それでいいかな?」


「はっはっは、分かりました。

私が負けたら団長を辞める、それでいいですな?」


「あぁ、僕にもやるべきことがあるんだ。

君に負けていられないよ……っ!?」


突然飛びかかった団長の一撃に剣を抜いたルイスが受ける。

どうにか受け止めたものの、ギリギリのように見えて

胸がどきどきと鳴るのがわかる。


「……突然飛びかかるなんて、騎士として失格なん

じゃないの……っ!」


「はははははっ、さすがですねぇ。

しかしこれはどうでしょうか……!!」


がきん、がきん、と硬く響く金属音の争いが

続くと団長は地面の砂を握り、ルイスの顔にかけた。

それに驚き体制を崩したルイスに半狂乱な団長がにやりと笑う。

そして大きく振りかざした剣がルイスに一直線に

振り下ろそうとしている。


「ダメっ!!」

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