10 巻き起こる波乱
今日午後投稿した内容と
同じものです。毎回すみません。
「それって……!」
その瞬間、ルイスの左手の甲がふわりと青い光に包まれる。
思わずきゅっと瞳を閉じると、そこにはキラキラとラメの入ったような瑠璃色で1つの印が刻まれていた。
「何……これ」
驚いた様子に恐る恐るルイスの手の甲を見ると、
人のカタチのような模様が浮かび上がっている。
美しくも、不気味にも見える瑠璃色を放つ印に
ルイスは細く長い綺麗な指で触れた。
しかし、その印は触れても消えることも色褪せることもなく、
存在感溢れる様子でそこで微かな光を放っている。
「おお、紋章からのお告げだな。
……これは"和"だな。人の和だ」
「人の……和?」
確か前に聞いたことのあるようなローガンの言葉を繰り返す。
5年前にアイザックにも教えてもらったような気がするが、
やはり勉強が苦手な私はまったく覚えていない。
「そう。"和"ではな、人に関することで問題がある、
起きることを知らせるんだ。確か……ほら、5年前の
ポンコツ第一王子の事件。オーディンもこれ、"和"だったな」
「っていうことは大分国民のみんなは僕たち王族たちに
不満を抱えてるってことだね……」
はぁ、と小さくあきれたようにため息をついた。
もちろん頭の中によぎるのは自分勝手なルイスの父こと前王様
と、相変わらずポンコツな第一王子。
あの2人のせいでどれだけ国民の不満が溜まったかと考えると
この紋章が浮かぶのも仕方ない気もする。
王が非常に高い税金にしたり、第一王子の我が儘のせいで
国民がどれだけ我慢したか……。
ふと黙ってしまった隣の新王様にちらりと視線を送る。
するとルイスはきゅっと口を結び、何かを決心したように
キリリとした表情へと変わった。
もともと海のような青の瞳の彼に紋章の光が重なり、
この世のものとは思えないような美しい青が
瞳にうつされた。
(わ……綺麗)
先ほどまで大きな子供のような態度で甘えたり、
無理やり甘えさせようとしていた彼とはまったく違った雰囲気に
どきりとする。正々堂々とした態度にどこか目が離せない。
5年の間この紋章の問題を解決するために旅に出ていたのだからこんなに真剣なのは当たり前かといえばそうなのだが、
ついに起きるとなると私なら身構えてしまうだろう。
5年前からそうだが、彼はきっと本番に強いタイプだ。
いつだって冷静で前向きだ。クレアは
やっぱりルイスには勝てないな、と思わず頬が緩んだ。
「いいか、ルイス。僕の言うことをしっかり聞いてほしい。
……オーディンのように紋章のお告げを達成できなければ
体を神に操られてしまう。あの赤い光を放つようになってしまったら終わりなんだ」
「……分かってる」
「もうじき何か問題がおきる。
王として、国民のために何ができるか考えろ、
そして彼らの不満を取り除くことが大切だ」
ローガンのまっすぐな視線にルイスがうなずくと
満足そうに微笑んだ。
そして、こちらに真剣な眼差しを向けた。
クレアも淡いグリーンの瞳で彼をまっすぐ見返す。
「きっとクレアちゃんの力が必要になる。
ルイスのことよろしく頼むよ」
「はっ、はい!
前みたいにずっと隣にいますから!」
突然のお願いに声が少し裏返るとルイスもローガンも
くすりと笑う。少し恥ずかしくなり下を向くと
ごめんごめんとローガンが肩に手をおいた。
「……うん、ありがとうクレアちゃん。
じゃあルイス、僕はアイザックたちにこのことを
伝えてくる。それではな」
大きな白馬に乗ったローガンを見送ると、
事の重大さがじわじわと迫ってくる。
ルイスたちが無事に帰って来たことが何より嬉しくて、
そしてルイスの成長にドキドキしたり動揺してばかり
いたけれどそんなようではいけないのだと強く感じる。
すると、隣のルイスは目眩をおこしたように
ふらっとよろけた。
「だ、大丈夫ですか?」
「……ありがと、少し慣れなくて。
それに、やっぱりここまできても緊張するね。
この国の王としてまだ正式に就任もしてないのにこんなことに
なるとは思わなかったし……」
顔が少し青いのを見ると、この紋章こと神のお告げが
出るときには大分力が使われるようだ。
少しやつれたようになったルイスは乾いた声で軽く笑った。
その無理した様子に胸がきゅっとする。
「ごめん、情けないよね。
大丈夫、クレアのことは何があっても守るから……」
肩を貸すと、同じくらいになったルイスの青い瞳と
目が合う。その瞳は初めてあった時のように不安そうに
揺れていた。ふぅ、と一息ついてクレアの肩から
離れるとやはり心配そうに見えた。
(いつも冷静でもやっぱり不安なことも、
つらいこともあるよね……)
指先が少し冷たいルイスの手をぎゅっと
握りしめる。驚いたように目を見開いてこちらを
見つめるルイスを見上げる。
「大丈夫、大丈夫ですよ。
私もこれから何が起こるか分かりませんし、
どうしたらいいのか分かりません。……でも」
握りしめた手に力を優しく込める。
クレアは覚悟を決めたように瞳を見つめ、
「ルイス、あなたを助けたい。
これは昔からずっと一緒ですから」
"ルイス"と呼び捨てで呼ぶにはクレアにとって
勇気が必要だった。まさか王子、現在王様にまでなる
人を没落した自分などがそんな馴れ馴れしくするなんて
思いもしなかったのだ。
でも、不安げな彼の姿を見ていたら無性に彼の
小さな頼みを聞いてあげたくなった。
(私にはこんなことしかできないけど……)
「……クレアには本当に勝てない」
「え?」
ふと上から降ってきた優しくあたたかな響きに
顔をあげる。そこには優しくほころんだルイスの
整った美しい顔がこちらを一途に見つめていた。
「……なんでもない。でもクレア、これだけは約束して?
絶対に無理はしないでほしい。できるなら僕の隣にずっといて。
……僕がクレアを守れる位置にいてほしい」
そんなに危ないことなのかと少し怖じ気づくけれど
そんなことを言っていられない。
せっかく元気を取り戻してくれたのだから、
このまま笑顔の彼でいてほしいのだ。
「……っはい!遅咲き王子様のお隣にはこの
没落令嬢の私にしか務まりませんからね……!」
「ふふ、そうだね」
ふわりと微笑むルイスに思わずこちらも頬が赤くなる。
やっぱりこの人には笑っていてほしい。
ルイスをはじめとした3人はこの5年もずっと
頑張ってきたんだからきっと大丈夫……。
「ルイス!ここに居るか!?」
どんっと大きな音をたてて勢いよく開いた別邸の
扉に振り替える。すると息を切らしたレオが紫の瞳で
こちらを見つめた。隣のルイスも虚をつかれたようで
何事かと眉間にシワを寄せた。
「っ!レオ、何が起きたの……?」
扉の外には馬はおらず、不思議に辺りを見回していると、
レオは息を整えながら城あたりから走ってきたのだと言った。
あそこから馬車でも半刻ほどかかるのだが、ここまで
走ってきたなんて信じられないほどの体力だ。
5年前もただの騎士のような身のこなしではなかったし、
一般兵では第一王子の護衛、監視などの役目を負うことすら
できないはずだ。そのため彼が普通の騎士とは思っては
いなかったがここまでとは……。
「すまない、ルイス!王国騎士団で問題が発生した。
……現騎士団長がお前に、次期王様に一騎討ちの申し込みだ……!」
「へ!?」
「……そうきたか」
(一騎討ち……?騎士団長……!?)
まったく穏やかでない言葉に頭追い付かない。
しかし、どうやらこれがローガンが言う問題なのだろうと
察しがついた。
ルイスは顎に軽く手を添え深く考え込んでいるようだ。
クレアもその落ち着きようにどうにか落ち着きを取り戻した。
仮にも王妃なんて大役を承ったからには相応しい態度を
とりたい。
(王妃としての相応しい態度……。
それなら綺麗さやスムーズさを取るよりも
泥臭く這いつくばってもサポートしなくちゃ……!)
クレアはハーフアップの髪をきゅっと高い位置で
ポニーテールに結び直した。
そしていつの日かと同じように強く決心した。
(絶対どうにかしてやるんだから……!!)
誤字報告ありがとうございました!




