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遅咲き王子のお隣に  作者: 白澤 五月
第一章 つぼみ王子と没落令嬢
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45 心の底では

「ちょ、ルイス王子!」


クレアはルイスに手を繋がれたままお城を走った。

周りの使用人たちには何事かとみられて

恥ずかしさに顔が赤くなる。

それでもルイスは気にしないでずんずんと

進んでいく。

城を出ていつもの御者さんの待つ馬車に乗ると、

やっと一息つくことができた。


「あ、のルイス王子……?ワインかけられたの大丈夫ですか?」


「うん、どうにかね。……少し酒臭いけど」


ブドウの糖分のせいか髪は少しべたついていた。

ルイスはぺたとくっつく髪を触ると微かに香る

お酒の匂いに顔をしかめた。

でも第一王子と違って令嬢たちのヒステリーに

怒らないところは見た目によらず大人というか。


(……ルイス王子はヒトをモノとは考えてない、はず。

だって王子は優しくて)


父がにやりと笑って私を売りに出すと伝えたときのことを

思い出す。ギャンブルはひどかったが優しかった父にそんなことを言われるとは思っていなかったから、尚更怖かった。


(……もし王子も私のことをそう思っているなら)


クレアは膝にのせた両手を握りしめてうつむいた。


「……昔、私は父に売られそうになったことがあるんです。

髪の色が珍しいからって。結構小さいときで、母や弟には

まだ言えてないんですけど。

……あんなに優しかったのになんでって思いました。

ギャンブルのほうが大事なんだって。

……でも私の価値なんてそんなものかもしれませんね」


はははと自分の乾いた笑いが耳に響く。

きゅっと胸が苦しく痛む。


「……クレアは毛色の珍しい猫なんかじゃない」


「……え?」


ルイスはクレアの目の前に座ると、

彼女の瞳を一心に見つめている。

彼のまっすぐな瞳にクレアの胸はドクンと音を立てた。


「……クレアは僕の大切な人だよ。

珍しい髪色だから側にいてほしいわけじゃない。

それに僕はクレアがいいんだ」


「……なんですかそれ、告白みたいですよ」


彼の強い意志が見える瞳に見つめられ、

心にたまった不安や恐怖が薄れていく。

クレアの瞳には薄く涙が浮かんだ。


「……ごめんなさい、ルイス王子。

私、王子に偉そうに信じてとか言ってきましたけど

私が一番人を信じてない人だったかもしれません」


いつか王子も私から離れていくって。

親心というより何か深い感情ーー……。

最近どうしても気分が落ちていたのもこれのせいなのかも

しれない。3人で訓練に夢中になって王子は私をおいていく

かもしれない。忘れてしまうかもしれないって。


「そんなことない。

クレアはよく言ってたでしょ『ルイスはルイスでいい』って。

だから僕も。クレアはクレアでいいんだよ」


王子のその言葉に胸が高鳴る。

初めて会ったときより違いだいぶ大人にみえる。


「……王子はやっぱり優しいですね」


「……そう?」


「はい、私のこともそうだけど

令嬢たちにワインをかけられても

怒らず冷静に、それにメイドの私のために

抜け出してくれる。そんな王子なんて他には誰もいませんよ」


「……僕、そんなに優しくないかも」


「……え?」


「だって僕は令嬢たちがスイーツを食べると知ってて

クレアに作ってもらったんだから」


「わ、わざとだったんですか!?」


「うん、クレアに意地悪してるってアイザックたちから

聞いてたから少しはやり返してみようかなってね。

ほら、彼女たち顔真っ赤に怒ってたでしょ?」


いたずらっ子のようにニヤニヤと笑うルイス王子は

どこか新鮮だが、アイザックに似ている。

訓練をするのはいいが、このような所は

似なくていい、むしろ似てほしくないけど。


「……まぁ、少しやり返しができてすっきりは

しましたけどね」


「でしょ?

でも、僕がクレアの作ったお菓子食べたかったのは本当。

……何も食べてこれなかったのが唯一の後悔だよ」


残念そうにうつむく彼はいつも通りのまだ

幼い少年で。

先ほどまで大人みたいな彼と違って少し落ち着く。


「ふふ、また作ります。なんせ、私プロと同じくらいまで

腕が上がったんですから自信もって作りますよ!」


「……よかった、クレアが笑って」


「……え?」


ルイスがぼそっと何かを言ったかクレアには

聞き取れなかった。するとルイスは

顔を赤く染め、ぷいっと目線を外してしまった。


「ほら、黙って座ってて。僕少し寝るから」


耳まで赤くなる彼に胸がきゅーと

締め付けられた。


― ― ― ― ― ― ― ―


がらがらと音をたてると別邸についたようだ。

2人は御者にお礼をいい、降りると

別邸前ではクロとレオが遊んでいた。


「お、ルイスとクレアちゃん!早いお帰りで!

……って、わ!ルイスどうしたのそれ……?」


ワインでべとべとになったルイスを見たとたん

レオは驚き抱き抱えていたクロを落とした。


にゃっ

濁点のつきそうな鈍いこえで鳴いたクロは

そそくさと別邸の中へはいっていった。


「あ、クロごめん!

それより、ルイスは身体洗っておいで。

風邪引くよ。クレアちゃんも中入って、寒いでしょ?」


パーティーには行かなかったレオも今まで外で別邸の

警備をしていたため、耳が赤い。


「レオさんも一緒に中に入りましょう?

風邪引いちゃいます」


扉を開いてクロを入れてレオを呼ぶ。

するとレオは不思議そうな顔をした。


「……なんかいいことあった?クレアちゃん。

どこか嬉しそうな顔してるね」


彼の鋭い観察眼には驚くが

ふふっと笑う。


「……そうかもしれません」


「え!男!男なの!

俺がいないうちに何があったの?」


「ふふ、教えません!」


別邸の中にはいるとやはり外より何倍も温かい。

それに少し冷えてしまった心も今は

すっかり温かかった。

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