21 一方その頃ポンコツは
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「おい、まだつかないのか」
「申し訳ありません、あともう少しの辛抱かと」
馬車に揺られ、王城からおよそ20分。オーディン王子はいずっとらいらと貧乏ゆすりをしている。
(たったこれだけの時間をおとなしくしていられないのか……)
と、心の内で毒づきながら貴族の優男と呼ばれるアイザック・フィオフォースは外面だけはにこりと令嬢たちの頬を赤く染めさせる微笑みを浮かべていた。
「なぜ、わざわざ僕が地方の会議に出席しなければならないのか理解できない!」
はあ、と大きくため息をついた。これでは駄々をこねる子供のようだ。しかし、仮にも主になるだろう……いや、なって欲しくはないのだがこいつの機嫌取りは俺の役目でになっている、最悪だ。
アイザックはもう一度にこやかな微笑みを作り直す。
「王子、そんなことをおっしゃらないでください。皆が王子の到着を心から待っているのですから」
「……そうだな!仕方ない、あと少しだけ待とう」
誰が聞いても"それお世辞だよ"と思うような言葉なのにポンコツ王子は気づかない。
(…チッ、うるさい奴だ。年が同じだとなおさらイラつくな)
外が大雨のなか、出来の特別悪いポンコツによりイライラを深めていた。アイザックとこのポンコツ王子ことオーディン王子は同い年で今年で18歳。この国では18歳が成人であるため、二人は次の世を紡ぐだろうと勝手にペアにされてしまったのだった。
今日は地方に会議をしに行く途中である。あたりは豪雨で、周りがあまり見えない。アイザックは次期宰相であり、オーディン王子の相棒になるべきだと考えられているため、今回共に会議に出席することになったのだが。
(……令嬢相手じゃねぇから、話も続かねぇ)
おしゃべり好きな貴族令嬢の相手ならただ偽物の笑顔を浮かべていればいいのだが、男相手、それにあのポンコツ王子相手だと話すこともない。しかし、王になる可能性が一番高いのはこいつだ。こいつの信頼を得なければうまく国も動かないだろう。
(ちっ、なんか話題は…)
「………王子は最近いかがですか?ヴァイオリンの腕が上達なさったと聞きましたが…」
とりあえず無難に近況を聞くことにしたアイザックだったがこれは失敗だった。
「最近?そうだなぁ……そうだ!最近はクレア嬢と会ってないんだ!彼女はさぞかし寂しがっているだろう…」
(うーわー、人の話聞かねぇな!)
わざわざ話をふってもこれじゃ意味がない。お前の得意だと言うヴァイオリンについて聞いてやってんのにこれじゃあ会話もできない。
(それにあのクレアのことだと?……あいつもかわいそうだな、このポンコツに求愛されても)
やっぱりクレアのお断りはまったく分かっていないようで1人盛り上がっている王子を見るとポンコツすぎてどこか可愛そうにも見えてきた。
「……ん?なんだ、お前。どうかしたのか」
「…いえ、何でもないですよ、ポン…んんっ、オーディン王子」
危ない、あと少しでポンコツというところだった。もしクレアに頼んである第二王子の件がうまくいかなかったらこのポンコツに仕えなければいけないのにここで"ポンコツ"といったら俺の宰相になる未来はつぶれてしまう。するとポンコツが突然キョロキョロとし始めた。
「…おい、何か聞こえないか?」
おいおい今度は何を言い出したんだ、と思ったが微笑みを浮かべて一応聞いてみる。
「……はい?何がでしょう」
「ほら、窓をあけてみろ」
何を言っているのか分からないが、仕方ないからしぶしぶ馬車の小窓を開ける。耳をすますと微かに高く清らかな声が聞こえる。
「………何か聞こえますね」
微かに聞こえる…誰かの声?繊細でどこか力強い歌声。高く透き通った声はまるで天使のようである。
「誰だ?」
ここらへんは家もなく、貴族の所有地はない。なのに聞こえてくる誰かの歌声。
「さあ………この辺りには何も」
(…あるな一つだけ)
アイザックは一つ忘れていた。この森の辺りには第二王子、ルイスの住む別邸があることを。高くまだ中性的に聞こえるこの声の持ち主はきっと第二王子のものだろう。
なぜかというと一緒にいるクレアは音痴であるからだ。小さい時に聞かされたお星さまの歌は見事に音程が外れていた。それを隣で聞かされていた俺の身にもなってほしいものだ。
(それにしてもこのポンコツ王子は自分の弟の隔離されている場所すら覚えていないのか……)
しかし、こんなところで王子が歌っているなんてあり得ない。なんせ2年間も閉じ込められていた王子だ。外に出て、歌を歌っているなんて……。
(…クレアか)
クレアがきっと何か王子の心を変えたのだろう。会議やらなんやらでここのところ忙しく、彼女に連絡するのも忘れて、今どうなっているか聞いていないけれど、何かあったのだ。
(そうと分かれば……)
ガシャン
「うわっ、お前突然何をする!腕が窓の枠に挟まれるところであったぞ」
「すみません、きっとこの歌声は悪魔のものだと思われますので、王子が聞いては大変だと存じます」
「何を言っている、天使のような歌声ではないか、もう少し聞いていきた…」
第一王子はそう言ってさっき閉めたばかりの窓を空けようとする。
ガシャン
「うわっ!今度のは本当に危なかったぞ!」
「申し訳ありません、しかしこの声を聞いていると……確か男女の仲が悪くなると噂です。そう、王子とクレア嬢との仲が遠ざかるかもしれません」
「な、なんと!それではやめようではないか。1ヶ月も会えていないのにまたもや伸びるのは嫌だからな!」
(やっと言うこと聞いたぜ)
こんなのは口から出たでまかせにすぎないのだが、クレアの名を借りてどうにか第二王子の歌声を頭から消すことに成功したようだ。しかし、王に消されたはずの第二王子が歌なんてな。
(クレア、がんばってんじゃねぇか………)
アイザックが密かにくすりと微笑んだのは誰も気づかなかったのだった。




