20 黒猫の迷子
「クレア!」
ぼうっと窓の外を見つめていると突然ルイス王子の大きな声が聞こえた。普段は物静かな彼が大きな声を出すなんて珍しい。
何かあったのだろうかと心配になり、クレアは急いで1階へ降りる。
「どうしたんですか、王子!」
「猫が、あの黒猫がいないんだ!」
ルイスのいつもの冷静そうな美しく整った顔は焦りをにじませている。その表情にこちらも焦りに心臓ば早鐘を打つ。
「どういうことですか……そうだ、猫ちゃんは野生だから外に帰ったんじゃ」
「違う、いつも雨の日には絶対にここにいるんだ!それなのにいないなんて……」
王子の焦った姿はどこか不安も混じっているように見える。
(1人でいた時から一緒にいた猫ちゃんだし、大切にしてたもの、心配よね…)
「……僕、探してくる」
心配そうに伏せていた顔をあげ、王子が外に行く準備をし始めた。
「王子!外は大雨で危険です。私が行きます」
ここに隔離されているといってもこの国の王子、それにルイスが危険な目にあったら私もつらい。
「ダメ。それじゃクレアが危ない」
「……じゃあ一緒に行きます、それでいいですね」
どうしても1人ではいかせたくない、と視線で訴えると少し迷ったすえに王子はこくりと頷いた。
「……わかった」
― ― ― ― ― ― ― ―
外は暗く、視界が遮られるほど強い雨が降っていた。それに加え、風も強い。力を抜いたら飛ばされてしまいそうだ。
(……こんな中、外にでたら危ない)
そうは分かっていてもこの悲しい瞳の王子1人では行かせられない。
「王子、気をつけてくださいね。探せば、きっと猫ちゃんも見つかりますから」
「……うん」
別邸周りや、辺りの庭をみてもあの黒猫ちゃんはまったく見つからない。ということはあと残っている可能性はあの森だ。別邸の周りは木々で囲まれている。深く静かな森でどこか恐ろしい雰囲気がある。
「クレアは戻っていいよ、危ないから」
「いいえ、何を言ってるんですか!私もルイス王子のお隣で探しますよ」
「………っ。ありがとう」
ふにゃりと笑った王子の雰囲気が少し柔らかくなってほっとする。あのままピリピリとしていてもつらいだけだし、探すのも疲れるだろうから。
(黒猫ちゃん、早く帰って来て!)
― ― ― ― ― ―
あれから一時間さらに雨足が強くなっている。
「まったく見つかりませんね……一回戻って雨が止むのを待ちますか?」
「……そうした方が良さそうだね。これ以上雨に打たれてるとクレアが風邪を引いちゃうし」
そんな私の体まで気遣ってくれなくてもいいのに…。王子は相変わらずのお人好し、だから放っとけないしあの猫ちゃんも王子のことが大好きなのだろう。
「王子、あの猫ちゃん何か好きなものとかないですか?ほら、例えばお魚とか、あとは楽器の音色とか」
必死になにか手だてがないか考える。でも、やっぱり私にはこんなことしか考えられないのが心苦しい。
「……歌」
「……へ?歌?」
「そう、クレアか来てからのことなんだけど、僕が歌を口ずさんだらあの子喜んでごろごろないてた」
「え!王子、歌歌うんですか!?」
このクールで無愛想でツンツンしてるあの王子が歌を歌う姿なんて想像出来なくて、そっちばかりに気がいってしまった。
「何?いけないの、僕が歌うの」
王子はむぅ、と膨れて機嫌を損ねてしまった。ついつい思うがままに口にだしてしまったけれどだってびっくりしたから……。
「いや、違うんですけど、王子が歌うイメージがなくて…」
「僕も最近まで歌なんて歌わなかったよ。…でもクレアが来てから楽しいって思うことが多くなったから…って何、なんで涙目なの」
王子の柔らかい言葉が胸をあたたかくする。さっきまで王子との距離に悲しかったのに、こんなこと言ってもらえるなんて……。
「いや、うぅ嬉しくて。私、王子のメイドになれてよかったです」
「もううるさい、クレア!」
「もー、素直じゃないですね。ほら、歌ってくださいよ」
「……そういわれると恥ずかしいんだけど」
ほらほら、と微かに泣いてしまったのを隠すように王子をせかせる。少し恥ずかしいのか耳を赤く染めている。ルイスが息をすぅっと吸うと辺りの空気が変わった。
「…♪ …♪」
(…え、王子、歌上手…!?)
王子から奏でられた歌声はまるで天使のようで美しい。地声も綺麗だと思っていたが歌うとこんなにも透き通った美しく声だと思わなかった。
王子の歌った歌はレアリウス王国で有名な子守唄だった。ゆっくりと流れるようなバラードで私も子供のころにお母さんに歌ってもらった。この歌を聞くと、子供たちは心が落ち着いて安心して眠れるのだ。
(……お願い、猫ちゃん出て来て!!)
そう願いをこめてぎゅっと目をつぶる。しかし王子が歌い終えても猫ちゃんは出てこない。
「歌なんかじゃ、ダメ…か」
歌い終わり、王子は下を向いてうつむいた。
(ダメ、諦めちゃ!)
「王子!ほらもう一回歌ってください!とっても綺麗な声でした!私も歌いますからもう一度試してみましょう!」
「……分かった」
ルイス王子の手を握り、今度は私も声を重ねる。
「「…♪…♪」」
すると王子がピカッと光だしたのだ。
「えぇ!ななな、何!何なの!!」
雨がやみ、風も止まり、まさかと思うくらいの快晴へと変わった。光が指してこちらを照らしてくれる。
(…な、何が起きたの)
ニャーニャー
「あ、!黒猫ちゃんですよ!王子、帰ってきました!!」
「……まったく」
王子が猫ちゃんの頭を撫でると、ゴロゴロと嬉しそうに猫ちゃんがなく。
(良かった…猫ちゃんが見つかって…)
っというより何この驚くべき現象!?猫ちゃんが急に示しを会わせたように出てきたのも驚いたけどさっきまでの天気が嘘のように晴れているのに驚愕だ。
「………王子、感動の再開の途中すみませんけど、何なんですかね、急に晴れて」
「分からない。けど……なんかクレアが手を握ってくれたら安心した」
にこっと微笑む王子を見たらなんでもよくなってきた。
(…まあ、いっか。とりあえず猫ちゃん見つかったし)
「………それにしても、クレアって音痴だね。びっくりした」
(………なっ!)
「ひ、ひどい!そんなこと言うなんて!もう知りませんからね、ルイス王子のことなんて!!」
王子がそんなこと言うなんて思わず、恥ずかしさに顔が真っ赤になる。かつて歌ったときアイザックにも同じことを言われた。
(悲しそうな顔をしてたから一緒に歌ったのに!!)
もちろん、自分が音痴なんて知っていた、知っていたけど力になりたくて勇気絞ったのに…!!
「……ごめんって」
隣でクスクスと笑うルイス王子を見てるとやっぱり怒れない自分に悔しくなるのだった。




